下垂体線腫

特徴

脳下垂体とは、脳の底にぶら下がっている小さな器官です。身体にホルモンを分泌する働きを持っています。ホルモンは全部で8種類あり、身体を正常に保つ上で非常に重要です。
脳下垂体に発生する代表的な腫瘍が下垂体腫瘍と呼ばれる良性の腫瘍です。これは腫瘍自体がホルモンを分泌しないタイプと不適切にホルモンを分泌するタイプにわかれます。

ホルモンを分泌しない腫瘍 ホルモンを分泌する腫瘍
  • 非機能性下垂体腺腫
  • プロラクチン産生腺腫
  • 成長ホルモン産生腺腫 (先端巨大症・アクロメガリー)
  • 副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫 (クッシング病)

上記すべての腫瘍に共通の症状として、腫瘍によって視神経が圧迫された時に視野の外側が見えにくくなるという症状が生じます(両耳側半盲)。

また下垂体に腫瘍が発生した場合、正常の脳下垂体ホルモンの機能低下が生じることがあります。
この場合は適切に薬による補充療法を行う必要があります。

当院における治療方針

下垂体腫瘍は、脳神経外科による手術だけではなく、様々な科が協力して診断と治療を行う事が重要です。当院では、内分泌内科が術前の下垂体機能の評価や薬物治療の効果判定を行い、耳鼻咽喉科が手術時および術後の鼻内処置を行っています。脳神経外科は外科的な治療方法の検討(内視鏡下経鼻的下垂体腫瘍摘出術・開頭頭蓋内腫瘍摘出術・ガンマナイフ治療)を行い、下垂体機能をできるだけ温存しながら最大限の腫瘍摘出を行います。また術後に内分泌内科による下垂体機能の評価と、必要時に薬物治療の追加を行います。このように円滑な他科連携治療を行う事で、術後のQOL(生活の質)を高く保つ事が出来、早期の社会復帰が可能になります。

下垂体腫瘍に対する様々な手術方法

開頭による顕微鏡下腫瘍摘出術<

①開頭による顕微鏡下腫瘍摘出術

顕微鏡による経蝶形骨洞腫瘍摘出術

②顕微鏡による経蝶形骨洞腫瘍摘出術

内視鏡下経鼻的下垂体手術<

③内視鏡下経鼻的下垂体手術

手術用顕微鏡<

④手術用顕微鏡

⑤ハイビジョン内視鏡

①と②は手術用顕微鏡を用いた手術法で、従来下垂体手術で用いられていた方法です。
現在はハイビジョン内視鏡を用いた③の術式を用いるようになり手術の有効性および安全性がさらに向上しています。

非機能性下垂体腺腫

この腫瘍は、視神経が腫瘍によって圧迫されて眼が見えにくくなり発症する事が多いので、視神経に対する圧迫を解除する目的で手術治療を行います。安全に摘出できる部分を手術で取り除き、血管に巻き付いた所など摘出にリスクの伴う部分は放射線治療(ガンマナイフ治療)を必要に応じて追加するという方法をとっています。手術直後から眼の見え方は良くなります。一般的に術後の下垂体機能は温存されますが、術前より下垂体機能の低下がある場合などは、必要によりホルモン補充療法をします。全く無症状で偶然に発見される事もありますが、この場合には詳しく検査を行った上で経過観察を選択する場合もあります。

視力障害で発症した非機能性下垂体腺腫、腫瘍が正常下垂体と視神経を強く圧迫している

視力障害で発症した非機能性下垂体腺腫、腫瘍が正常下垂体と視神経を強く圧迫している1
視力障害で発症した非機能性下垂体腺腫、腫瘍が正常下垂体と視神経を強く圧迫している2

内視鏡下経蝶形骨洞手術により腫瘍が全摘出され、脳下垂体と視神経が見えるようになっている

内視鏡下経蝶形骨洞手術により腫瘍が全摘出され、脳下垂体と視神経が見えるようになっている1
内視鏡下経蝶形骨洞手術により腫瘍が全摘出され、脳下垂体と視神経が見えるようになっている2

術直後より視力障害は正常化し下垂体機能は温存された。術後約1ヶ月で社会復帰となった

プロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ)

プロラクチンというホルモンが腫瘍により過剰産生されることにより無月経となり、女性側の不妊の原因となることが多い疾患です。この疾患は、ドパミン作動薬という薬の効果が極めて高いため、手術ではなく、内科的治療が第一選択となります。この薬はプロラクチン値を低下させ腫瘍を小さくさせます。腫瘍を完全に消滅させるわけではないので、一定期間内服を継続させる必要があります。薬の効果があまりない、もしくは薬の副作用が強くて内服継続が困難である場合、手術による効果が高いと判断される場合などには手術治療を検討します。

成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大、アクロメガリー)

腫瘍が成長ホルモンを過剰産生し、身体の様々な症状を呈してくる疾患です。緩徐に発症するために長い間気付かれずに放置されている場合があります。手足が大きく、分厚くなり顎や額が突出します、唇や舌が肥大して声が低くなります。高血圧や糖尿病、脂質異常症、心臓病、脳卒中などを発症しやすくなり、平均寿命が短くなります。このため積極的な治療が必要です。

手術による腫瘍摘出術が治療の第一選択です。完全な腫瘍組織の摘出により根治が期待できます。全摘出できるかどうかは腫瘍の大きさ、進行度によって異なります。全摘出ができない場合であっても可及的に腫瘍組織を摘出しておく事がその後の治療効果に影響します。手術治療の後で、必要があれば薬物治療(ソマトスタチンアナログなど)や放射線治療(ガンマナイフ)などを検討します。

他の下垂体腫瘍と同様に、難病指定疾患で治療が難しいと考えられていますが、当科では外科治療および内科治療ともに、最先端の治療を受けて頂く事が可能です。

ACTH産生下垂体腺腫(クッシング病)

ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)というホルモンが腫瘍により過剰産生される疾患です。ホルモン異常により顔が丸くなる(満月様顔貌)や、体幹部が太く手足が細くなる(中心性肥満)などの特徴的な症状を示し、体毛が濃くなり、にきびが増えて、皮膚の色素が濃くなってまだら模様になってきます。病気が進行すると、筋力低下、易感染性を発症します。高血圧、糖尿病、脂質異常症や骨粗鬆症などの生活習慣病と類似した合併症を来します。

この腫瘍はMRIなどの画像診断で写らない事も多いため、腫瘍がどこにあるのかを詳細に調べる事が非常に重要です。わずかでも取り残しがあると将来的に再発する可能性が高いため、できるだけ確実に腫瘍組織を全摘する方法をとります。

手術による全摘が困難な場合には過剰なホルモン産生を抑制する薬物療法や、ガンマナイフ治療を考慮します。

ACTH産生下垂体腺腫

(左)急激な視力障害で発症した下垂体腺腫、腫瘍による視神経の圧迫を認める。
(中)内視鏡下経蝶形骨洞手術により全摘出の状態となった。視力は発症前の状態まで回復した。
(右)ハイビジョン内視鏡による摘出中の光景、腫瘍組織と周辺組織との境界が明瞭に区別されている。