小児血液・腫瘍内科
科の特色
小児から青年期までの脳腫瘍や神経芽腫などの悪性腫瘍、白血病などの血液疾患、免疫不全や膠原病などの免疫疾患などを専門的に診療するわが国でも有数の診療施設です。大阪府で発生する小児がんの約半数を当科で診療しています。このような疾患、特に白血病や脳腫瘍を含む悪性腫瘍は正確な診断に基づいた的確な治療法の選択が予後に大きな影響を与えます。
また、抗がん剤治療を中心とした治療の実施には充分な経験があるスタッフが必要です。当院では小児腫瘍病理に精通した病理医、小児での経験豊富な放射線治療医のほか、小児外科や小児脳神経外科、小児代謝内分泌科、児童青年精神科、緩和医療科、小児集中治療部、放射線診断科など関連するすべての診療科と一体となって診療を行っています。
2018年4月に15歳から30歳代(思春期・若年成人期:Adolescent and Young Adult、略称AYA) の「AYA世代専用病棟」を開設しました。成人と小児領域の双方でのがん医療の実績に基づき、疾患ごとに応じた適切な医療を提供するとともに、これまでの成人と小児領域の世代の挟間になりがちであったAYA世代患者さんに対し、AYA緩和ケアチーム、精神科リエゾンチーム、保育士、医療ソーシャルワーカー(MSW)がチームとして診療にあたります。
小児がん拠点病院として地域における小児がん医療および支援の質の向上のけん引役を担っています。また、がんゲノム医療連携病院にも指定されており、小児・AYAがんのがんゲノム医療にも積極的に取り組んでいます。
当センターでは、がん患者さんとそのご家族の治療上の不安や悩みに対応するため、がん相談支援センター(電話番号06-6929-3632)を設置しています。
どうぞお気軽にご相談ください。
医師主導治験を実施し、小児がんの中でも難治性の神経芽腫に対する画期的新薬の国内承認を得ることができました。
これにより、神経芽腫の5年生存率が30年ぶりに向上することが期待されます。
大阪市立総合医療センター小児医療センターにおける小児がんへの取り組み
日本で15か所ある小児がん拠点病院として、小児がんの診療・研究について精力的に取り組んでいます。
悪性腫瘍について
悪性腫瘍ではどうしても再発したりして、認可された薬だけでは治せないことがあります。そのような場合には、新薬などを用いた臨床試験を行うことで患者さんにまったく新しい治療法を提供しています。このようにして当科では再発など難治の患者さんの救命に最大限の努力を行うとともに、新規治療法の開発を行っています。
このような難治性の疾患は長期に及ぶ治療が必要であり、治療の副作用も加わって患児とその家族の不安も大きくなりがちです。そのため、当科では小児緩和ケア医、緩和ケア認定看護師、ホスピタルプレイスペシャリストなどからなる子どもサポートチームとともに、精神的な不安の軽減や抗がん剤の副作用の軽減に努めています。また、注射や点滴などの処置時の痛みや放射線治療、MRI検査などの時の不安などもこれらのスタッフが関わることで極力軽減する努力をしています。
実施している臨床試験と治験
日本小児がん研究グループ(JCCG: Japan Children’s Cancer Group)の血液腫瘍分科会(旧:日本小児白血病リンパ腫研究グループ)、神経芽腫委員会および横紋筋肉腫委員会に参加し、脳腫瘍委員会では中心となり臨床試験の企画立案と実施を行っています。また、積極的に医師主導治験の企画立案と実施を行っています。
当院で実施中の臨床研究・治験
現在当科では、以下のものを受け付けています。
下記の臨床試験についてのお問い合わせは、ocgh-pho@osakacity-hp.or.jp までお願い致します。
対象疾患 | 病期等 | 年齢 | 薬剤種類 | 実施母体 | 相 |
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造血幹細胞移植後血栓性微少血管症 | 1ヵ月以上18歳未満 | ラブリズマブ | 企業治験 | 第Ⅲ相 | |
慢性骨髄性白血病 | 慢性期(少なくとも1剤以上のチロシンキナーゼ阻害剤による前治療を受け、直近の治療が失敗または不耐容) | 1歳以上18歳未満 | アシミニブ | 企業治験 | 第Ⅰb/Ⅱ相 |
悪性腫瘍 | メソトレキサート・ロイコボリン救援療法後にメソトレキサート排泄遅延が生じている被験者 | 制限なし | グルカルピダーゼ | 企業治験 | 第Ⅱ相 |
悪性固形腫瘍
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限局性・未治療でシスプラチンを200mg/m2以上投与する予定の患者 | 1ヵ月以上30歳以下 | チオ硫酸ナトリウム | 医師主導治験 | 第Ⅱ相 |
著者 | タイトル | 雑誌名 | 巻 | 頁 | 年 |
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Nakayama-H, et al. | A phase I study of inotuzumab ozogamicin as a single agent in pediatric patients in Japan with relapsed/refractory CD22-positive acute lymphoblastic leukemia (INO-Ped-ALL-1) | Int J Hematol | 2022 | ||
Hara-J, et al. | A phase I/IIa study of antidisialoganglioside antibody dinutuximab in Japanese patients with neuroblastoma | J Pediatr Hematol Oncol | 43 | e358-e364 | 2021 |
Hara-J, et al. | Phase III study of palonosetron for prevention of chemotherapy-induced nausea and vomiting in pediatric patients | Jpn J Clin Oncol | 51 | 1204-1211 | 2021 |
Nitani-C, et al. | Phase I study of tamibarotene monotherapy in pediatric and young adult patients with recurrent/refractory solid tumors | Cancer Chemother Pharmacol | 99-107 | 2021 | |
Kondo-E, et al. | Pharmacokinetics of thiotepa in high-dose regimens for autologous hematopoietic stem cell transplant in Japanese patients with pediatric tumors or adult lymphoma | Cancer Chemother Pharmacol | 84 | 849-860 | 2019 |
Akazawa-Y, et al. | Efficacy of the NCCV Cocktail‐1 vaccine for refractory pediatric solid tumors: A phase I clinical trial | Cancer Sci | 110 | 3650-3662 | 2019 |
Tsuchiya-N, et al. | Phase I study of glypican-3-derived peptide vaccine therapy for patients with refractory pediatric solid tumors | Oncoimmunology | 7 | e1377872 | 2017 |
がんゲノム医療
小児がん拠点病院およびがんゲノム医療連携病院に指定されていることから、小児・AYAにおける標準治療のない希少がんや再発・難治例に対するがんゲノム医療に積極的に取り組んでいます。
年度 | 症例数 |
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2020年 | 20症例 |
2021年 | 18症例 |
長期フォローアップ
小児の悪性腫瘍では病気が治った後も、あとで出てくるかもしれない身体的、精神的合併症に対する注意が必要です。そのため、当科では長期フォローアップ外来(定期健診外来)を設置し、必要に応じて成人系を含めた他の診療科とも連携して、フォローアップいたします(例えば、脳腫瘍後の患者さんでは高次脳機能障害がおこることがあります。そのような患者さんでは、小児言語科できめ細かい評価や支援を行います。内分泌障害がある場合には、小児代謝・内分泌内科、内分泌内科、婦人科と連携します)。また、治療により二次がんリスクがある患者さんやがんゲノム医療により遺伝性腫瘍と診断された患者のがんスクリーニングについても取り組んでいます。他の病院で診断・治療された患者さんたちも受け入れています。
妊孕性温存治療
小児がん治療により、精巣や卵巣などが損なわれて、子どもを作る機能(妊孕性)が失われることがありますが、当科では大阪がん・生殖医療ネットワーク(https://j-sfp.org/cooperation/network/osaka)と連携し、このようなことが予想され、がん治療や再発に悪影響を与えないなどの条件を満たす場合に、患者さんと相談のうえ、精子や卵子・卵巣の凍結保存を実施しています。卵巣凍結のための手術は当院で行えます。
これらの妊孕性温存治療は医療費助成の対象となっています。(https://www.pref.osaka.lg.jp/kenkozukuri/ninyosei/index.html)
セカンドオピニオン
子どもたちに適切な治療を受けてもらうために、セカンドオピニオンを積極的に受け入れています。治療選択にお悩みの方はセカンドオピニオン外来(要予約)を受診されることをお勧めいたします。一緒に最もよい治療法を考えたいと思います。また、病院においでになれないかたのために、オンラインや書面によるセカンドオピニオンも行っています。
宿泊施設(ファミリールーム)
遠方からの患者さんも多く受け入れており、遠方の方は、当院に隣接するビルの中に宿泊施設(ファミリールーム)がありますし、地下鉄で15分のアフラックペアレンツハウスでの宿泊も可能です。
診療方針
小児・AYAの血液疾患・がんの可能性がある患者さんについては、診療時間内外にかかわらず受け入れる体制にしています。
毎週回診とカンファレンスを行って、それぞれの患者さんの状態と治療方針を検討します。全員で検討することで独善的な治療や重要な点の見落としを防ぐことができます。
同様に毎月、病理部、放射線治療部、外科系各科と合同でカンファレンスを行い、情報の共有、治療方針の決定と確認を行います。治療は最もエビデンスがあり有用と考えられる治療法、すなわちガイドライン治療を原則として実施します。
既存の治療法では治療困難な場合は、治験や臨床試験を実施することで新薬やワクチン療法などの新規治療を行います。
患者さんやご家族が病気を理解して闘病できるように、不安に配慮した病気や治療法、日常生活の注意などの説明を行います。