三叉神経痛に対する集学的治療
三叉神経痛とは,顔の片側で,電気ショックのような短い激しい痛み(電撃痛)を生ずる病気です.
男性よりも女性にやや多く,人口10万人あたり4〜13人に認められます.痛みを生じるのは頬や下あご,口の中であることが多く,額のあたりに生じることもあります.
痛みの特徴は,突然刺すような短い痛み(数秒〜2分以内)が起こり,すぐにおさまることが繰り返されます.
この発作には引き金となる部位があり,かるく触れると痛みの発作が誘発されます.食事での咀嚼,話をする,歯を磨く,冷たい空気を吸う,微笑む,ひげを剃る,顔を洗う,などの動作で痛みが起こります.
病気が長期にわたる場合には発作の間に持続的な鈍痛を感じる場合もあります.
痛みが口腔内に生じる場合には,虫歯が原因であるように診断されることがあり,頬に生じた場合には蓄膿が原因であるように診断される場合があります.
三叉神経は顔面の感覚と咀嚼筋の感覚・運動を司っています.三叉神経痛のほとんどは三叉神経の根元付近に対して血管(動脈または静脈)のループが圧迫をすることで起こります.神経動脈の圧迫された三叉神経は脱髄(神経の鞘の変性)を来し,異常な神経活動を発生することで激しい痛みを生じると考えられています.このため、軽い刺激で激しい発作が引き起こされると説明されます.
また圧迫がない場合も,くも膜(脳の周囲にある非常に薄い膜)によって,三叉神経が引っ張られる(牽引)ことによっても症状が起こることが報告されています.
三叉神経痛の診断は,痛みの特徴や,痛い部位,痛みの生じかたを詳細に調べることが最も重要です.カルバマゼピンなどの薬物治療に対して痛みが改善する,ということも診断上有用です.
三叉神経痛が疑われる場合,MRIを用いた画像診断を行います.MRIでは,三叉神経に対する脳血管の圧迫の有無,三叉神経の牽引の有無を調べます.また同時に三叉神経の周囲に脳腫瘍や血管奇形等の異常がないかと,脳の中に多発性硬化症や脳梗塞などの異常がないかどうかを調べます.
当院では3テスラの高解像度MRIを用いて詳細な画像診断を行っています.
治療の基本は薬物療法になります.まず薬物療法を開始し,症状のコントロールが可能か判断します.薬物療法にても症状が悪化する場合や,副作用が強くコントロール困難な場合などの際には,手術治療,ガンマナイフ治療を検討します.
カルバマゼピン(テグレトール)による薬物療法は三叉神経痛のほとんどの患者で第一選択となる初期治療です.過去の報告では、58〜100%の患者さんで完全もしくはほぼ完全な疼痛コントロールが確認されています.ただし吐き気,めまい,電解質異常,全身の湿疹などの強い副作用が出ることがあるので,注意する必要があります.
カルバマゼピンの副作用のため服用できない場合や効果が不十分な場合には,ガバペンチン(ガバペン)やプレガバリン(リリカ)等の薬剤を考慮します.
手術治療は薬物療法の効果が十分でない三叉神経痛に対して考慮されます.開頭による神経血管減圧術で治療を行います.
痛みの性状が上記のような三叉神経痛の特徴を有し,MRIで三叉神経に対して責任血管の圧迫があることが確認され,全身状態が開頭手術に対して大きな問題のない場合には,有効性が高く安全な治療であると考えられます.圧迫のない症例に対しても、典型的な症状であれば、治療を検討することもあります.
■当院で行っている三叉神経痛に対する神経血管減圧術
- 当科の方針として「安全かつ低侵襲に」行うようにしています.皮膚切開は6cm程度とし、2.5cmの小開頭で行っています.
- この手術は難聴をきたすことがあり,聴力のモニタリング(術中神経生理学的モニタリング(ABR:聴性脳幹反応))は必須になります.当院ではその他にも術中ナビゲーション,神経内視鏡,術中ICG蛍光造影などの機器を使用し,より安全にかつ確実な治療を行います.
- 手術時間は約3時間で,約1週間程度の入院期間です(術後症状(痛みなど)を評価し,早期退院を目指します).
- 手術を受けた場合,1週間後の症状緩和は90%以上で認められ,概ね80%の患者さんでは症状の消失を認めます.3年後でも症状消失は80%程度といわれています.
- 神経血管減圧術の合併症としては,顔面のしびれ(1.9%),難聴(1.3%),複視(1.3%)と報告されており,その他に脳脊髄液漏出(再手術が必要なことがあります),脳梗塞,出血,感染などのリスクがあります.
実際の手術の流れです.
1.入院は手術前日になります.食事は前日まで,水分摂取は当日の朝6時までになります(検査が必要な場合は前々日に入院していただくこともこともあります).
2.手術日当日は午前8時半ごろに手術室に向かいます(8時過ぎから家族の面会も可能です).
3.手術室に入り,全身麻酔を行い,その後各種モニタリングの設定を行っていきます.実際の手術開始は10時から10時半ごろになります.
手術は仰臥位(仰向け),もしくは側臥位(横向き)で行っています.
ナビゲーションシステムを使用し,個々の症例の血管の走行を確認し,適した開頭範囲を決定し,術後もできるだけ傷が目立たないように毛髪線内の小さな皮膚切開で行うようにしています.

手術は顕微鏡を使用し,術前MRIにて予想された圧迫血管を確認します.

この症例では左三叉神経に内側から圧迫血管(上小脳動脈)が当たっていることがわかります.手術の際にもこの血管を確認します.
症例により神経内視鏡を併用することで,責任病変の広い観察を行い確実な圧迫解除を行います.
B:神経内視鏡を用いた病巣の観察をしています.Aで見えていた三叉神経(黄色矢印)と,圧迫している責任血管(青色矢印)が,内視鏡による広い視野角で観察されています.血管が神経を圧迫していることが原因になっていると思われます.
C:三叉神経から責任血管を移動させて,テフロン繊維で固定し,再び圧迫がかからないようにしています.
D:圧迫解除後,再度神経内視鏡を用いて確認をしています.Bで認められた圧迫が解除され,三叉神経(黄色矢印)が,テフロンで固定された責任血管(青色矢印)からはなれているのが分かります.
当院では神経血管減圧術の有効性と安全性を高めるため,神経内視鏡や術中神経生理モニタリングを用いて治療を行っています.
術中モニタリングとして
聴性脳幹反応(ABR)モニタリング:イヤホンを装着,脳幹の反応を確認し,聴力低下が起こってないか確認します
手術後,麻酔は覚まし,神経症状の異常がないことを確認し,手術室を退室します.そのまま頭部CT検査を行い,術後出血などの問題がないか確認します. 手術後当日はICU(集中治療室)にて管理を行います.集中治療専門の医師と連携して術後経過を見ていきます. 手術翌日に一般病棟に戻ります.食事も翌日から再開します. 術後の検査を行い,1週間後に皮膚を固定しているスキンステープラを外します. 約8-10日の入院となります(早期退院を希望される場合は外来にてスキンステープラを外します。5-6日での退院も可能です).
ガンマナイフは,病変部に対して高線量の放射線を1回で照射する方法で,三叉神経痛に対しては、組織破壊よりニューロモデュレーションを来すことで疼痛の緩和が得られると考えられています(図1).
三叉神経痛に対するガンマナイフ治療は,原則的にroot exit zone (REZ:三叉神経の脳幹部から2〜8 mm 遠位部,オリゴデンドロサイトからシュワン細胞主体のミエリンに移行する部位)近傍の三叉神経に対して,中心線量(最大線量)で80Gyでの治療を行っています(図2).
治療時間は2〜3時間(頭部へのフレーム装着から治療終了まで)で,治療終了後,フレームを取り外した後には特別の処置は必要なく,その後の日常生活に制限はありません.
我々の経験では,ガンマナイフ治療後に十分な痛みの寛解が得られるまでの期間は治療当日〜4年後(平均2ヶ月)と,多くの症例で三叉神経痛の寛解までに2ヶ月程度を要します.ガンマナイフ治療後6ヶ月後に症状の改善がなければ,再治療を含め考えるとの意見もありますが,私どもの経験からは、ガンマナイフ治療後の効果判定はより長期の経過を見てからで良いと考えています.
当院で治療した83例の平均42ヶ月の経過観察での治療成績では、十分な痛みの寛解(薬物投与無しもしくは薬物併用にて十分な痛みのコントロールが出来た症例)は,3年78%,5年62%,7年42%でした (図3).やはりガンマナイフ治療においても,長期の経過観察にて他の治療法と同様に痛みの再燃の可能性は高くなります.
ガンマナイフ治療後の三叉神経障害に関しては,私ども症例では顔面の知覚障害の出現頻度は14%でしたが,日常生活に支障を来すようなbothersome numbnessを来した方は4%でした.
ガンマナイフ治療が無効であるとの判断の時期は,前述したように治療後痛みの寛解までに時間を要する症例もあるため,治療後2年間は経過を見てから判断するようにしています.ガンマナイフ治療後に痛みが再燃した場合,まずは薬物治療を試みますが,カルバマゼピン以外にも,ガバペンチン,トピラマート,プレガバリン等が有効な場合があり,またペインクリニックとも密接にコミュニケーションを計った上で,次の外科的治療,ガンマナイフ再治療を検討すべきと考えています.治療選択として,治療の確実性を考えると,神経血管減圧術の既往のない患者では神経血管減圧術を勧めますが,手術の危険性が高いと思われる高齢者や神経血管減圧術の既往のある患者には,ガンマナイフの再治療を考慮いたします.ガンマナイフ再治療の成績としましては,5年で50〜75%の症例で十分な痛みの寛解が得られますが,一方で顔面の知覚障害の出現率は初回治療に比して高くなると報告されています.
ガンマナイフ治療は,三叉神経痛に苦しんでいる患者に対する安全で有効な治療であります.また神経血管減圧術の三叉神経痛に対する有効性はガンマナイフよりも良好ですが,高齢者で全身麻酔の危険性が高い症例に対しては適応となり難いと思われます.そのような患者に対する治療目標として,三叉神経痛が寛解でき,薬物療法に伴う副作用を軽減できれば,完全に痛みが消失しなくても現実的には治療目標になりうると思われます.三叉神経痛は生命に関わる病態ではありませんが,個々の患者にとっては生活の質を著しく制限されている病態であり,最終的には患者が満足できる治療目標に向けて,種々の治療選択の有効性、副作用等を十分理解して治療にあたる必要があると考えております.
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脳神経外科もやもや病もやもや病とは日本で最初に発見された疾患で両側の内頚動脈の終末部,前大脳動脈,中大脳動脈近位部が進行性に狭窄・閉塞する疾患です.それに伴い付近にもやもや血管と呼ばれる異常血管網(その多くは元々ある正常な細い血管)が発達します (図1).様々な研究がおこなわれていますが,原因はいまだに不明です. 1957年に竹内らが「両側内頚動脈形成不全症」として発表し,その後1969年に鈴木らにより,血管撮影検査を行った際にもやもや血管が,たばこの煙が「もやもや」立ち上がっている様子に似ていることから「もやもや病」と命名され,現在に至っています.最近は病態を表すため,「ウィリス動脈輪閉塞症」とも呼ばれています. 図1 図1:もやもや病 正常 (左)では内頚動脈から前大脳動脈,中大脳動脈が分岐し,そこから細い穿通枝が分岐している. もやもや病 (右)では血管内膜が肥厚することで,内頚動脈先端から前大脳動脈,中大脳動脈近位部が狭窄・閉塞して,代わりに穿通枝が異常発達し (もやもや血管),ネットワークを形成している. 遺伝子の解析も行われ,2014年にRNF213の遺伝子異常の報告がされています.ただし,直接病気を引き起こす原因遺伝子ではなく,もやもや病の患者に多く見られるといった関連遺伝子であり,現在も様々な研究がおこなわれています.自費診療となりますが,当院では院内でRNF213の遺伝子検査が可能です. もやもや病の特徴 この疾患の特徴としては東アジアに多く,やや女性に多い疾患です.また,約10%程度に家族性にみられます. 発症形式は大きくは虚血発症,出血発症に分けられます. 虚血発症は脳を栄養する血流量が足らなくなることで,一過性の症状(一過性脳虚血発作)や永続的な症状(脳梗塞)を呈します.症状としては片側(両側同時に出ることはほぼありません)の脱力(運動障害),しびれ(感覚障害),言葉が出ない (言語障害)が代表的ですが,稀に脳の症状やけいれん発作,意図しない上下肢の運動(不随意運動),見えにくい(視野障害),けいれん発作などもあります.脳動脈は呼吸が早くなった時に細くなる特徴があり,したがって激しい運動の後や泣いた時,吹奏楽の演奏の際や熱いものを冷ます(ラーメンなどをフーフー冷ますとき)などに,症状が出現しやすくなります. 出血発症は,内頚動脈などが狭窄・閉塞することで不足する脳血流を代償しているもやもや血管に負担がかかり,破綻することで脳内に出血します.時にもやもや血管に動脈瘤が形成され,それが破裂することでも脳出血を起こします.出血を起きると,突然の激しい頭痛や嘔吐を認め,さらには意識障害を呈することもあります.また虚血性と同様に運動障害や感覚障害,言語障害が出現することもあります. 発症年齢は10歳以下(小児例)と30-40歳代(成人例)の2つのピークがあります. 小児例の発症形式はほとんどが虚血発症によるものです. 成人例の場合は半数が若年型と同様の虚血発症で,残りの半数が出血発症となります. もやもや病の治療 脳梗塞,一過性脳虚血発作を起こした直後 (急性期)は,通常の脳梗塞治療と同様に血液をさらさらにする薬剤や,脳血流を改善する薬剤,脳を保護する薬剤などを使用する内科的治療を行います. 脳出血を起こした直後は,出血を起こした部位,大きさに応じて外科手術 (血腫除去術や脳室ドレナージ術)が必要になることがあります.またもやもや血管に出血の原因となる動脈瘤を認めた場合には,再出血を予防するため血管内治療 (カテーテル治療)を行うこともあります. 虚血発症にせよ,出血発症にせよ再発予防には頭蓋内外血行再建術 (バイパス術)が勧められます. 頭蓋内外血行再建術 頭蓋内外血行再建術とは頭蓋外の血管と脳の血管とつなぎ,脳血流を増やしてあげる治療法です.それには直接血行再建術と間接血行再建術の2通りがあります. 直接血行再建術は,頭皮を栄養する浅側頭動脈を採取し,脳の表面の動脈に直接吻合することで,脳血流を上昇させます (図2).手術直後から早期に血流が上昇します. 図2 図2:直接血行再建術 図の左方のように頭皮の血管を脳表の中大脳動脈に直接吻合し,頭皮の血管から脳内の血管に血流を供給する. 間接血行再建術は,皮下にある筋肉や骨膜,脳の表面の硬膜などを脳表に留置することで,これらの血流が徐々に脳に入るようになります. 治療としてはこれらのどちらかもしくは両方を行います. 成人例においては間接血行再建術単独の治療は効果が乏しいとされ,直接と間接の両方同時,または直接血行再建単独が行われます. 小児例はいずれにおいても効果が期待できるとされています. 当院では成人例,小児例とも直接と間接の両方同時に行っています. ■ 当院での実際の手術の際の流れ 術前検査として,造影CT検査,MRI検査,脳血流検査などを行います.また脳血管撮影検査も,脳血流の血行動態(どの穿通枝が拡張しているか,どの領域に血流が足りていないかなど)を把握するために成人では全例で行っています.脳血管撮影検査は入院にて行っています. 以下は,実際の手術の際の流れになります.手術の際の入院は前日に行います (ただし出血,脳梗塞など発症されて入院された方は,そのまま入院を継続して,治療を行うこともあります). 1.入院は手術の前日になります.食事は前日夕食まで,水分摂取は当日の朝6時までになります. 2.手術当日は,午前8時半ごろに手術室に向かいます (8時過ぎから家族の面会も可能です). 3.手術室に入り,全身麻酔を行い,各種手術の設定を行い,実際の手術開始は10時過ぎになります. 手術時間は手術方法や縫合の難易度などで大きく異なります.通常複合バイパス術(2本の直接血行再建術+間接血行再建を行います.)であれば7-8時間前後となります. 手術後は,麻酔を覚まし,手術室を退室します.そのままCT検査を行い,術後出血などの問題がないか確認します. 手術後当日から翌日はICU(集中治療室)にて管理を行います.集中治療専門の医師と連携し,術後経過を見ていきます.翌日にMRI検査,脳血流検査を行い,評価を行います. 術1週間前後にもMRI検査,脳血流検査を行いもやもや病術後の合併症の評価を行います. 浅側頭動脈を採取するため,皮膚の血流が悪くなると考えられ,皮膚を固定しているスキンステープラや糸の抜去は2週間目に行います. 入院期間は症状の出現などを評価し2-3週間になります. 当院では,多くのもやもや病患者さんをフォローしています. もやもや病は画像検査にて偶然に見つかることもあります.症状がない場合は外科手術 (血行再建術)は必要ありませんが,症状の出現がないか,症状がなくても狭窄の進行や小さな出血がないかなど,定期的に経過を見ていく必要があります. また外科治療を行っても,それで終了にはなりません.その後も血管の狭窄の進行,脳梗塞,脳出血のリスクは0にはならないので,長期的に経過を見ていく必要があります.詳しく見る -
脳神経外科頚部内頚動脈狭窄症脳は左右の内頚動脈,椎骨動脈によって栄養されており,内頚動脈は首のレベルで総頚動脈から枝分かれします.その起始部が狭くなったものが頚部内頚動脈狭窄症で,脳梗塞の原因となります.狭くなる原因のほとんどは動脈硬化ですが,稀に頚部の放射線治療後の変化や大動脈炎症候群などもあります.動脈硬化によって分厚くなった血管壁にはコレステロールや脂肪が溜まっておりプラーク (粥腫 (じゅくしゅ))と呼ばれます (図1).プラークの一部が脳へ飛んでいくことで脳梗塞が起こりますが、その他にも狭窄部位を通る血液が固まり,血栓が脳へ飛んでいくこと、狭窄が進行すると脳血流が低下することでも脳梗塞を起こします.脳梗塞は片側 (狭窄と反対側)の手足の麻痺や言語障害を起こしますが,プラークや血栓が眼への血管 (眼動脈)へ飛んでいくと,片眼 (狭窄と同じ側)の視野が欠ける黒内障を起こすことがあります. 図1 図1:頚部内頚動脈狭窄症 脳は左右の内頚動脈と椎骨動脈によって栄養されている. 頚部内頚動脈狭窄症は内頚動脈の起始部に,動脈硬化によるプラークが形成され,血管が狭窄している. 頚部内頚動脈狭窄症は脳梗塞や黒内障を起こした,または起こしかけた(数分で症状が消失)際に見つかる (症候性)だけでなく,頚動脈エコーなどで偶然に発見される (無症候性)こともあります.いずれも治療は脳梗塞の予防または再発予防が目的となります.それにはまず内科的治療が基本となり,動脈硬化の危険因子である高血圧,糖尿病,脂質異常症のコントロールや禁煙,節酒などの生活習慣の改善,そして狭窄の程度によっては血をサラサラにする薬 (抗血小板剤)の内服も行います.症候性にせよ無症候性にせよ,狭窄が軽度な場合には内科的治療のみで予防を行っていきます.しかし症候性で狭窄が中等度以上の場合や無症候性でも狭窄進行して高度になると,内科的治療に加えて外科的治療も行った方が再発の予防効果が高くなります.外科的治療には血管内手術 (カテーテル手術)である頚動脈ステント留置術と直達手術である内膜剥離術があり,当院では基本的に頚動脈ステント留置術を選択していますが,そのリスクが高いと判断された場合には内膜剥離術をお勧めすることもあります. 頚動脈ステント留置術 頚動脈ステント留置術は原則,局所麻酔で行います.太ももまたは腕の動脈からガイディングカテーテルと呼ばれる直径2-3mmの管を総頚動脈まで進め (図2A)、その中からメッシュ状の金属の筒 (ステント)を狭窄部に留置して拡げます (図2D).狭窄部を拡げる際にプラークが飛散することがあり,それが脳へ飛んでいくと術中に脳梗塞となるため,それを防ぐための道具 (風船型 (図2B),フィルター型 (図2C))を,あらかじめ狭窄部より奥の内頚動脈に留置して手技を行います.風船型かフィルター型の選択は,患者さんのプラークの性状 (柔らかいかどうか),長さ,血管の曲がり具合,脳血管の状態などによって決定します. 図2A 図2B 図2C 図2D 図2A-D:頚動脈ステント留置術 太ももまたは腕からガイディングカテーテルを総頚動脈まで誘導し (2A),その中を通して金属の筒 (ステント)を狭窄部に留置して拡げる (2D).狭窄部を拡げた際に飛散したプラークが脳へ飛んでいかないように,風船 (バルーン)型 (2B)またはフィルター型 (2C)の道具 (デバイス)をあらかじめ狭窄部より奥の内頚動脈に留置しておく.風船型は血流を一時的に遮断した状態でステントを留置し,飛散したプラークは最後に吸引カテーテルで吸引・除去する.一方,フィルター型では血流は流れたままで,飛散したプラークはフィルター内に回収される. 内膜剥離術 当院ではより低侵襲な頚動脈ステント留置術を第一選択として検討しますが,大動脈や総頚動脈の動脈硬化が非常に強い患者さんやプラークが非常に柔らかいまたは非常に硬い患者さん,造影剤が使用できない患者さんなどでは,内膜剥離術をお勧めすることがあります. 内膜剥離術は全身麻酔で行います.首の皮膚を切開し,筋肉と筋肉の間から狭窄部を含む頚部血管 (総頚動脈,内頚動脈,外頚動脈)を露出させます.プラークが脳へ飛んでいかないように血流を一時的に遮断した状態で,内頚動脈から総頚動脈に割を入れて,その内腔にあるプラークを直視下に剥離して切除します (図3A).一時的な血流遮断によって脳血流の低下が懸念される患者さんでは,内シャントと呼ばれるチューブ状の道具 (デバイス)を総頚動脈と内頚動脈の間に留置して,血流を流した状態でプラークの剥離・切除を行うこともあります (図3B). 図3A 図3B 図3A, B:内膜剥離術 内膜剥離術は総頚動脈,内頚動脈,外頚動脈の血流を一時的に遮断した状態で,内頚動脈に割を入れて,直視下にプラークを剥離して切除する (3A). 内シャントと呼ばれる道具 (デバイス)を総頚動脈と内頚動脈の間に留置して,血流を流した状態でプラークの剥離・切除を行うやり方 (3B)もあり,当院では原則,内シャントを使用している. 当院では傷が目立たないように,首のしわに沿った皮膚切開(横切開)を行っています.また手技は多少煩雑になりますが,遮断に伴う血流低下及び脳梗塞の予防のため,原則,全例で内シャントを使用しています.詳しく見る -
脳神経外科脳動脈瘤脳動脈瘤は,脳の動脈の一部分が瘤状に膨らんだもので,通常は太い動脈にできることが多く,この瘤が大きくなり,壁の薄い部分が破れて,くも膜下出血を起こします.くも膜下出血は,命に関わる重篤な疾患で,救命できても後遺症がでる可能性もあります.くも膜下出血が起こると,約30%の患者さんが命を落とし,救命できても約30%で何らかの障害が残ります. このようなくも膜下出血の原因となる脳動脈瘤は,小さいものを含めると40歳以上の成人の5%前後(100人に5人前後)に認められます.脳動脈瘤ができる成因は十分に解明されていませんが、遺伝的な要因や環境的な要因があり、特に高血圧や喫煙などによって血管壁にストレスがかかり、壁が弱くなることが関連していると考えられています. 脳ドックなどのMRI検査で偶然発見されることも多く,破れていない脳動脈瘤は未破裂脳動脈瘤と呼ばれます.未破裂動脈瘤は通常,症状を呈することはありません.しかし脳神経の近くにできた動脈瘤では,大きくなることで神経を圧迫して,視力・視野障害や眼球運動障害 (物が2重に見える),眼瞼下垂 (まぶたが垂れ下がる)などの神経症状が出現することもあります. 未破裂動脈瘤が破れればくも膜下出血となりますが,破裂の危険性は動脈瘤の部位,大きさ,形状,数などによって異なり,また高血圧をもつ患者さんや喫煙者などで高くなることが知られています.現時点では破裂を完全に予防するための内科的治療はないため,未破裂脳動脈瘤の患者さんの多くは,破裂の危険因子(高血圧、喫煙など)のコントロールや不安な気持ちへのケアをしながら年に1-2回の画像による経過観察(動脈瘤の増大や形状変化がないか)を行っています.しかし患者さんの年齢・全身状態や動脈瘤の部位・大きさ・形状などから、生涯での破裂の危険性が治療 (手術)の危険性を上回ると判断した場合には破裂予防のための治療をお勧めしています. 以下に日本の脳卒中ガイドラインにおける未破裂脳動脈瘤の治療適応を示します. 未破裂脳動脈瘤の治療適応 (脳卒中治療ガイドライン2021改訂2025) 未破裂脳動脈瘤の自然歴 (破裂リスク)から考慮すれば,下記の特徴を有する病変はより破裂の危険性の高い群に属し,治療 (手術)などを含めた慎重な検討をすることは妥当である. 大きさ5~7mm以上の未破裂脳動脈瘤 大きさが5mm未満であっても, 症候性の脳動脈瘤(動脈瘤によって神経症状が出現しているもの) 前交通動脈瘤および内頚動脈―後交通動脈分岐部動脈瘤 Dome neck aspect比が大きい(入口が狭く風船のように膨らんでいるもの),不整形(いびつな形のもの),ブレブ(動脈瘤の中にさらに膨らみがあるもの)を有するなどの形態的特徴を持つ脳動脈瘤 また増大傾向にある未破裂脳動脈瘤も,治療 (手術)を再検討することが勧められています. 繰り返しになりますが,未破裂脳動脈瘤の治療 (手術)目的は破裂 (くも膜下出血)の予防にあります.したがって当院では動脈瘤の部位,大きさ,形状だけでなく,患者さんの年齢,健康状態 (生活年齢),さらには手術の危険性などをトータルに考慮して,手術をした方が良いと判断した場合にのみ,手術をお勧めしています. 未破裂脳動脈瘤の手術には,開頭手術(クリッピング術),血管内治療(コイル塞栓術,フローダイバーター留置術)の2通りの方法があります.破裂予防が目的ですので,当院ではより確実に予防が行える方法をお勧めしており,予防効果が開頭手術と血管内治療で同じ程度であれば,より低侵襲な血管内治療を優先しています. 血管内治療 (コイル塞栓術など) このようなくも膜下出血の原因となる脳動脈瘤に対する血管内治療は大きくコイル塞栓術とフローダイバーター留置術に分けられます.コイル塞栓術は1990年代から行われており,その長所・短所はよく知られています.一方,フローダイバーター留置術はコイル塞栓術の欠点を補うべく開発されたもので,2010年代から使用されています. コイル塞栓術でもフローダイバーターでも,血管内治療は全身麻酔で行います.また未破裂脳動脈瘤の場合は,治療による脳梗塞が起こらないように血をサラサラにする薬 (抗血小板剤)を一定期間,内服してもらいます. コイル塞栓術 マイクロカテーテルを脳動脈瘤内へ誘導し,そこからプラチナ製のコイルを瘤内に留置します.瘤内にコイルを十分に留置することで血流が入らなくなり,動脈瘤は消失します (図1). 図1A 図1B 図1:脳動脈瘤に対するコイル塞栓術 太ももまたは腕からカテーテル (マイクロカテーテル)を脳動脈瘤内まで誘導し,瘤内にプラチナ製のコイルを留置する (1A).複数本のプラチナコイル留置することで,瘤内に血流が入らなくなり,脳動脈瘤は消失する (1B). 実際にはこのようなシンプルな方法ではなく,多くの場合で,動脈瘤の入口から正常血管へコイルがはみ出さないようにするため,様々な工夫を行います (図2A-C). 図2A 図2B 図2C 図2:コイル塞栓術の様々な工夫 2A:ダブルカテーテルテクニック マイクロカテーテルを2本使用して,コイル塞栓術を行う. 2B:バルーン支援下コイル塞栓術 風船 (バルーン)を膨らませて,一時的に動脈瘤の入口をカバーした状態で,コイル塞栓術を行う. 2C:ステント支援下コイル塞栓術 脳動脈瘤がある正常血管にメッシュ状の金属の筒 (ステント)を留置して動脈瘤の入口をカバーし,コイル塞栓術を行う フローダイバーター留置術 従来のコイル塞栓術では治療が難しい脳動脈瘤や再発が多い大きなサイズの脳動脈瘤などに対しては,フローダイバーターを用いた治療を行います.フローダイバーターは網目の非常に細かい特殊構造の金属でできており,血流の向きを変える効果があります.筒状 (ステント)のものは,脳動脈瘤がある正常血管に動脈瘤の入口を覆うように留置して,動脈瘤に流れ込む血流を減少させ,最終的に瘤の縮小・消失が得られます (図3A).また動脈瘤内に直接留置する籠状のフローダイバーターもあります (図3B). 図3A 図3B 図3:脳動脈瘤に対するフローダイバーター留置術 フローダイバーターは網目の非常に細かい特殊金属でできており,血流の向きを変える効果を持っている.筒状のもの (3A)は脳動脈瘤がある正常血管に留置して,動脈瘤内へ血流が入らないようにする. 一方,籠状のもの (3B)は動脈瘤内に直接留置して,瘤内に血流が入らないようにする. 開頭手術 (クリッピング術) 手術用顕微鏡を用いて,直接動脈瘤を確認し動脈瘤のくびれの部位にチタン製のクリップを挟み,動脈瘤内に血流が入らないようにします.これにより動脈瘤の破裂を予防します.1970年代から日本でも普及し始め,半世紀の経過を経て標準的治療として確立されてきました. 動脈瘤のほとんどは脳を栄養する太い血管に発生します.血管は脳と脳の間(脳槽、脳溝)を走行します.手術の際にはこのスペースを徐々に広げ,脳そのものは損傷しないように行います.予防のための手術であり,術後合併症をきたさないように最大限の注意が必要になります.手術の際には脳組織だけでなく,動脈から分岐する径が1mm以下の非常に細い血管(穿通枝)や細かな静脈も損傷しないようにする必要があり,非常に繊細なテクニックが要求されます. 当院では開頭クリッピング術の際,術前検査も侵襲を伴う脳血管撮影は行っていません.必要な場合のみ行うようにし,より低侵襲な造影CTA検査,腎機能障害がある場合はMRI・MRA検査のみで行っています. 手術の際には,全例で術中モニタリング,術中ICG蛍光造影検査を行っています.術中モニタリングで,クリッピングなどの操作の際に麻痺が出現していないかチェックを行い,蛍光造影検査にてクリッピングを行った後,動脈瘤の遮断がされているかだけでなく,周囲の細かな血管が温存されているか確認を行います.これらを通して,手術に伴うリスクを少しでも軽減するようにしています. また,できるだけ侵襲を少なくするため皮膚切開,開頭も小さくするようにしています. 開頭クリッピング術 A:右中大脳動脈瘤(造影CT検査) B:術中所見右中大脳動脈瘤(矢印) C:術中所見動脈瘤クリッピング後(矢印) D:クリッピング術後.動脈瘤は消失(造影CT検査) 当院では再発症例,大きなサイズの動脈瘤や脳の深部に存在する動脈瘤に対しても開頭手術を行ってきました.術中の一次遮断,バイパス術の併用,術中血管撮影やカテーテル手技による血管閉塞など様々なテクニックを駆使して様々な部位,大きさ,形状の動脈瘤治療を行っています. 【深部の大型脳底動脈上小脳動脈瘤の症例】 A:左脳底動脈上小脳動脈分岐部動脈瘤(造影CT検査) B:術中所見クリッピング後(矢印:動脈瘤、O:動眼神経、IC:内頚動脈、BA:脳底動脈、SCA上小脳動脈) C:クリッピング術後(造影CT検査) 【動脈瘤に対する低侵襲手術】 また,低侵襲な血管内治療が多く行われるようになり,開頭手術においても低侵襲性を目指して,皮膚切開、開頭を極力小さく手術(低侵襲手術:minimally invasive surgery)を行うようにしています. A:従来の開頭手術の皮膚切開線(赤矢印)と開頭線(青矢印) B:低侵襲手術の皮膚切開線(赤矢印)と開頭線(青矢印) 治療の合併症としては術中の一時遮断や周囲の細かい血管の閉塞による脳梗塞のリスクが考えられ,当院では全例に電気生理学的モニタリングや術中ICG蛍光造影を行い,より安全に行うようにしています. A:クリッピング術後 B:ICG蛍光造影にて動脈瘤内に血流がないこと,周囲の血管が温存されていることを確認 ■当院での実際の手術の際の流れ 術前検査としては,外来で脳血管造影CT検査,単純MRI検査にて評価を行います.侵襲を伴う脳血管撮影検査は必要な場合のみ行っています. 入院は手術の前日になります.食事は前日まで,水分摂取は当日の朝6時までになります(検査が必要な場合は前々日に入院していただくこともあります). 手術当日は、午前8時半ごろに手術室に向かいます(8時過ぎから家族の面会も可能です). 手術室に入り,全身麻酔を行い,その後各種モニタリングの設定を行います.実際の手術開始は10時前後になります. 手術時間は動脈瘤の部位,サイズなどにより大きく異なりますが,一般的な前方循環の5-10㎜程度の動脈瘤であれば,3-5時間程度となります. 手術後,麻酔は覚まし,神経症状の異常がないことを確認し,手術室を退室します.そのまま頭部CT検査を行い,術後出血などの問題がないか確認します. 手術後当日はICU(集中治療室)にて管理を行います.集中治療専門の医師と連携して,術後経過を見ていきます. 手術翌日に一般病棟に戻ります.食事も翌日から再開します. 術後の検査を行い,1週間後に皮膚を固定しているスキンステープラを外します. 約8-10日の入院となります(早期退院を希望される場合は外来にてスキンステープラを外します。5-6日での退院も可能です). 手術後も引き続き外来にて再発などないか定期的にフォローを行っていきます.詳しく見る