脳動脈瘤

脳動脈瘤は,脳の動脈の一部分が瘤状に膨らんだもので,通常は太い動脈にできることが多く,この瘤が大きくなり,壁の薄い部分が破れて,くも膜下出血を起こします.くも膜下出血は,命に関わる重篤な疾患で,救命できても後遺症がでる可能性もあります.くも膜下出血が起こると,約30%の患者さんが命を落とし,救命できても約30%で何らかの障害が残ります. 

このようなくも膜下出血の原因となる脳動脈瘤は,小さいものを含めると40歳以上の成人の5%前後(100人に5人前後)に認められます.脳動脈瘤ができる成因は十分に解明されていませんが、遺伝的な要因や環境的な要因があり、特に高血圧や喫煙などによって血管壁にストレスがかかり、壁が弱くなることが関連していると考えられています.

脳ドックなどのMRI検査で偶然発見されることも多く,破れていない脳動脈瘤は未破裂脳動脈瘤と呼ばれます.未破裂動脈瘤は通常,症状を呈することはありません.しかし脳神経の近くにできた動脈瘤では,大きくなることで神経を圧迫して,視力・視野障害や眼球運動障害 (物が2重に見える),眼瞼下垂 (まぶたが垂れ下がる)などの神経症状が出現することもあります.

 

未破裂動脈瘤が破れればくも膜下出血となりますが,破裂の危険性は動脈瘤の部位,大きさ,形状,数などによって異なり,また高血圧をもつ患者さんや喫煙者などで高くなることが知られています.現時点では破裂を完全に予防するための内科的治療はないため,未破裂脳動脈瘤の患者さんの多くは,破裂の危険因子(高血圧、喫煙など)のコントロールや不安な気持ちへのケアをしながら年に1-2回の画像による経過観察(動脈瘤の増大や形状変化がないか)を行っています.しかし患者さんの年齢・全身状態や動脈瘤の部位・大きさ・形状などから、生涯での破裂の危険性が治療 (手術)の危険性を上回ると判断した場合には破裂予防のための治療をお勧めしています

 

以下に日本の脳卒中ガイドラインにおける未破裂脳動脈瘤の治療適応を示します.

 

未破裂脳動脈瘤の治療適応 (脳卒中治療ガイドライン2021改訂2025)

未破裂脳動脈瘤の自然歴 (破裂リスク)から考慮すれば,下記の特徴を有する病変はより破裂の危険性の高い群に属し,治療 (手術)などを含めた慎重な検討をすることは妥当である.

  1. 大きさ5~7mm以上の未破裂脳動脈瘤
  2. 大きさが5mm未満であっても,
  1. 症候性の脳動脈瘤(動脈瘤によって神経症状が出現しているもの)
  2. 前交通動脈瘤および内頚動脈―後交通動脈分岐部動脈瘤
  3. Dome neck aspect比が大きい(入口が狭く風船のように膨らんでいるもの),不整形(いびつな形のもの),ブレブ(動脈瘤の中にさらに膨らみがあるもの)を有するなどの形態的特徴を持つ脳動脈瘤

 

また増大傾向にある未破裂脳動脈瘤も,治療 (手術)を再検討することが勧められています.                                        

    繰り返しになりますが,未破裂脳動脈瘤の治療 (手術)目的は破裂 (くも膜下出血)の予防にあります.したがって当院では動脈瘤の部位,大きさ,形状だけでなく,患者さんの年齢,健康状態 (生活年齢),さらには手術の危険性などをトータルに考慮して,手術をした方が良いと判断した場合にのみ,手術をお勧めしています.                                                   

                                                                                   未破裂脳動脈瘤の手術には,開頭手術(クリッピング術)血管内治療(コイル塞栓術,フローダイバーター留置術)2通りの方法があります.破裂予防が目的ですので,当院ではより確実に予防が行える方法をお勧めしており,予防効果が開頭手術と血管内治療で同じ程度であれば,より低侵襲な血管内治療を優先しています.                                                                                                                                                   

    血管内治療 (コイル塞栓術など) 

    このようなくも膜下出血の原因となる脳動脈瘤に対する血管内治療は大きくコイル塞栓術フローダイバーター留置術に分けられます.コイル塞栓術は1990年代から行われており,その長所・短所はよく知られています.一方,フローダイバーター留置術はコイル塞栓術の欠点を補うべく開発されたもので,2010年代から使用されています.

    コイル塞栓術でもフローダイバーターでも,血管内治療は全身麻酔で行います.また未破裂脳動脈瘤の場合は,治療による脳梗塞が起こらないように血をサラサラにする薬 (抗血小板剤)を一定期間,内服してもらいます.

    コイル塞栓術

    マイクロカテーテルを脳動脈瘤内へ誘導し,そこからプラチナ製のコイルを瘤内に留置します.瘤内にコイルを十分に留置することで血流が入らなくなり,動脈瘤は消失します (1)

    図1A

    図1B

    図1:脳動脈瘤に対するコイル塞栓術

    太ももまたは腕からカテーテル (マイクロカテーテル)を脳動脈瘤内まで誘導し,瘤内にプラチナ製のコイルを留置する (1A).複数本のプラチナコイル留置することで,瘤内に血流が入らなくなり,脳動脈瘤は消失する (1B)

     実際にはこのようなシンプルな方法ではなく,多くの場合で,動脈瘤の入口から正常血管へコイルがはみ出さないようにするため,様々な工夫を行います (2A-C)

    図2A

    図2B

    図2C

    図2:コイル塞栓術の様々な工夫

    2A:ダブルカテーテルテクニック

    マイクロカテーテルを2本使用して,コイル塞栓術を行う.

    2B:バルーン支援下コイル塞栓術

    風船 (バルーン)を膨らませて,一時的に動脈瘤の入口をカバーした状態で,コイル塞栓術を行う.

    2C:ステント支援下コイル塞栓術

    脳動脈瘤がある正常血管にメッシュ状の金属の筒 (ステント)を留置して動脈瘤の入口をカバーし,コイル塞栓術を行う

    フローダイバーター留置術

    従来のコイル塞栓術では治療が難しい脳動脈瘤や再発が多い大きなサイズの脳動脈瘤などに対しては,フローダイバーターを用いた治療を行います.フローダイバーターは網目の非常に細かい特殊構造の金属でできており,血流の向きを変える効果があります.筒状 (ステント)のものは,脳動脈瘤がある正常血管に動脈瘤の入口を覆うように留置して,動脈瘤に流れ込む血流を減少させ,最終的に瘤の縮小・消失が得られます (3A).また動脈瘤内に直接留置する籠状のフローダイバーターもあります (3B)

    図3A

    図3B

    図3:脳動脈瘤に対するフローダイバーター留置術

    フローダイバーターは網目の非常に細かい特殊金属でできており,血流の向きを変える効果を持っている.筒状のもの (3A)は脳動脈瘤がある正常血管に留置して,動脈瘤内へ血流が入らないようにする.

    一方,籠状のもの (3B)は動脈瘤内に直接留置して,瘤内に血流が入らないようにする.

     

    開頭手術 (クリッピング術)

    手術用顕微鏡を用いて,直接動脈瘤を確認し動脈瘤のくびれの部位にチタン製のクリップを挟み,動脈瘤内に血流が入らないようにします.これにより動脈瘤の破裂を予防します.1970年代から日本でも普及し始め,半世紀の経過を経て標準的治療として確立されてきました.                                                                                動脈瘤のほとんどは脳を栄養する太い血管に発生します.血管は脳と脳の間(脳槽、脳溝)を走行します.手術の際にはこのスペースを徐々に広げ,脳そのものは損傷しないように行います.予防のための手術であり,術後合併症をきたさないように最大限の注意が必要になります.手術の際には脳組織だけでなく,動脈から分岐する径が1mm以下の非常に細い血管(穿通枝)や細かな静脈も損傷しないようにする必要があり,非常に繊細なテクニックが要求されます.                                                                                                    当院では開頭クリッピング術の際,術前検査も侵襲を伴う脳血管撮影は行っていません必要な場合のみ行うようにし,より低侵襲な造影CTA検査,腎機能障害がある場合はMRIMRA検査のみで行っています.                                                                           手術の際には,全例で術中モニタリング,術中ICG蛍光造影検査を行っています.術中モニタリングで,クリッピングなどの操作の際に麻痺が出現していないかチェックを行い,蛍光造影検査にてクリッピングを行った後,動脈瘤の遮断がされているかだけでなく,周囲の細かな血管が温存されているか確認を行います.これらを通して,手術に伴うリスクを少しでも軽減するようにしています.

    また,できるだけ侵襲を少なくするため皮膚切開,開頭も小さくするようにしています.

    画像1

    開頭クリッピング術

    A:右中大脳動脈瘤(造影CT検査)

    B:術中所見右中大脳動脈瘤(矢印)

    C:術中所見動脈瘤クリッピング後(矢印)

    D:クリッピング術後.動脈瘤は消失(造影CT検査)

     

    当院では再発症例,大きなサイズの動脈瘤や脳の深部に存在する動脈瘤に対しても開頭手術を行ってきました.術中の一次遮断,バイパス術の併用,術中血管撮影やカテーテル手技による血管閉塞など様々なテクニックを駆使して様々な部位,大きさ,形状の動脈瘤治療を行っています.

     

    【深部の大型脳底動脈上小脳動脈瘤の症例】
    画像2

    A:左脳底動脈上小脳動脈分岐部動脈瘤(造影CT検査)

    B:術中所見クリッピング後(矢印:動脈瘤、O:動眼神経、IC:内頚動脈、BA:脳底動脈、SCA上小脳動脈)

    C:クリッピング術後(造影CT検査)

     

    【動脈瘤に対する低侵襲手術】

    また,低侵襲な血管内治療が多く行われるようになり,開頭手術においても低侵襲性を目指して,皮膚切開、開頭を極力小さく手術(低侵襲手術:minimally invasive surgery)を行うようにしています.

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    A:従来の開頭手術の皮膚切開線(赤矢印)と開頭線(青矢印)

    B:低侵襲手術の皮膚切開線(赤矢印)と開頭線(青矢印)

     

    治療の合併症としては術中の一時遮断や周囲の細かい血管の閉塞による脳梗塞のリスクが考えられ,当院では全例に電気生理学的モニタリングや術中ICG蛍光造影を行い,より安全に行うようにしています.

     

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    A:クリッピング術後

    B:ICG蛍光造影にて動脈瘤内に血流がないこと,周囲の血管が温存されていることを確認

     

    ■当院での実際の手術の際の流れ

    術前検査としては,外来で脳血管造影CT検査,単純MRI検査にて評価を行います.侵襲を伴う脳血管撮影検査は必要な場合のみ行っています.

    1. 入院は手術の前日になります.食事は前日まで,水分摂取は当日の朝6時までになります(検査が必要な場合は前々日に入院していただくこともあります).
    2. 手術当日は、午前8時半ごろに手術室に向かいます(8時過ぎから家族の面会も可能です).
    3. 手術室に入り,全身麻酔を行い,その後各種モニタリングの設定を行います.実際の手術開始は10時前後になります.

      手術時間は動脈瘤の部位,サイズなどにより大きく異なりますが,一般的な前方循環の5-10㎜程度の動脈瘤であれば,3-5時間程度となります.

       

      手術後,麻酔は覚まし,神経症状の異常がないことを確認し,手術室を退室します.そのまま頭部CT検査を行い,術後出血などの問題がないか確認します.                                                                                   手術後当日はICU(集中治療室)にて管理を行います.集中治療専門の医師と連携して,術後経過を見ていきます.                                                                                     手術翌日に一般病棟に戻ります.食事も翌日から再開します.                                                                                       術後の検査を行い,1週間後に皮膚を固定しているスキンステープラを外します.                                                                                 約8-10日の入院となります(早期退院を希望される場合は外来にてスキンステープラを外します。5-6日での退院も可能です).

      手術後も引き続き外来にて再発などないか定期的にフォローを行っていきます.

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