小児泌尿器科
診療実績
当科における手術件数 (2022年-2024年)
2022年 | 2023年 | 2024年 | |
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総手術件数 | 246 | 233 | 246 |
内訳 | |||
腹腔鏡手術(件数) | 45 | 43 | 60 |
ロボット支援水腎症手術 | 7 | 7 | 11 |
腎尿管疾患 | 3 | 4 | 3 |
膀胱尿管逆流 | 11 | 12 | 12 |
腹腔内停留精巣 | 9 | 10 | 7 |
陰嚢・精索疾患 | 15 | 10 | 26 |
他 腹腔内観察等 | |||
内視鏡手術(件数) | 94 | 83 | 75 |
腎疾患 | 12 | 12 | 2 |
尿管疾患 | 7 | 5 | 1 |
膀胱尿管逆流 | 1 | 1 | 0 |
膀胱疾患 | 1 | 0 | 1 |
尿道疾患 | 14 | 10 | 15 |
他 検査等 | |||
開腹手術(件数) | 107 | 107 | 111 |
腎尿管疾患 | 0 | 0 | 3 |
尿道下裂 | 29 | 32 | 26 |
停留精巣 | 48 | 42 | 49 |
他 検査、外傷等 |
主な疾患
水腎症
水腎症とは出口(腎盂尿管移行部)に通過障害があり、尿の通り道(尿路)が拡張した状態をいいます。腎機能を低下させるおそれがあり、また尿路感染や痛みを伴うために手術が必要となる場合があります。一方で自然軽快することも多いため、すべての患児に治療が必要なわけではなく、適切な診断と治療の専門的な判断を要します。
手術は、狭窄の原因となる部位を切除し、腎盂尿管移行部の内腔を広くつなぎ直します。腹腔鏡手術またはロボット支援手術をお勧めしています。
膀胱尿管逆流
尿は尿管を通って膀胱にたまり、尿道から排出されますが、いちど膀胱にたまった尿は、逆流しないしくみがそなわっています。これに問題があると、尿は膀胱から腎臓にむかって逆流し、腎盂腎炎(腎臓に細菌が入り、激しい炎症を起こす)による高熱を生じやすくなります。膀胱尿管逆流は成長とともに軽快する傾向があるため、必ずしも手術の必要はありません。しかし尿路感染を繰り返す場合や腎機能低下のおそれがある場合には、手術が必要です。手術は膀胱の中から行う腹腔鏡手術、および膀胱の外から行う腹腔鏡手術(後者は先進医療)をお勧めしています。
尿道下裂
男児の外尿道口が本来の亀頭の先端に開口しておらず、亀頭の下部や陰茎の途中、あるいは陰茎の根元などに開口している状態です。程度が強い場合は立小便ができないなどの問題があります。また、おちんちんが下向きに屈曲しているため、まっすぐに勃起しません。将来性交渉の妨げになります。尿の出口は陰茎先端近くから、陰茎の根元、陰嚢部などさまざまなタイプがみられます。明らかな原因は不明ですが、胎児期に外性器がつくられる段階で、男性ホルモンの分泌や作用に問題があると考えられています。
ごく軽度な場合を除いて手術が必要になりますが、難しい手術であり、専門の小児泌尿器科医による診断や治療を必要とします。陰茎の屈曲を矯正し、亀頭に開口する新しい尿道を作成する手術を行います。
停留精巣
男児100人中1人に認められるとされる精巣が陰嚢底まで降りない状態です。胎児期には精巣は腹部にあり、出生前に陰嚢まで降りてくるのですが、それが途中で留まってしまった(停留した)状態です。生後3カ月を過ぎると自然に下降する可能性はほとんどありませんので、当院では生後6カ月以降で手術を考慮し、1歳前後までには手術(精巣固定術)を施行することが多いです。
腹腔内に隠れている精巣には、腹腔鏡手術で対応します。通常追加切開は行わず、腹腔鏡のみで固定、萎縮している場合には摘出を行うのも当施設の特徴です。
尿路結石症
尿の中に含まれるカルシウムやリン酸塩などの成分が腎臓の中で結晶化し結石になります。大人に多く小児には稀と考えられてきましたが、最近、増加しています。抗てんかん薬やステロイド剤を内服しているお子さん、併存する代謝性疾患が原因の場合があります。
腹痛など症状のあるときはまずは痛み止めで対応しますが砕石術を行うこともあります。手術は、当科では内視鏡治療を主に考えています。小児でも使用可能なさまざまなサイズの内視鏡機器をそろえ、ほぼ100%の完全摘出を目指しています。
包茎
小児はほとんど例外なく、亀頭の部分が皮膚(包皮)に覆われています。思春期を過ぎると、100人中95~99人は包皮がむけて、亀頭が露出できるようになります。包皮には重要な機能がそなわっていることが医学的に明らかとなり、小児に対して安易な包茎手術はおこなうべきではありません。
一方で包皮が硬く変化し、病的な状態をきたす状態などでは保存的治療の効果が期待できないため、手術を実施します。
昼間尿失禁/夜尿症
当院では近隣クリニックと連携し、難治性の病態に対応しています。他の泌尿器科疾患や脊髄疾患がないかなどを調べ、必要があれば複数の科や職種(小児科、発達科、児童精神科、臨床心理士など)の関わりが必要になることがあります。夜尿症に関しては、生活習慣改善、内服薬とともに、アラーム療法が奏功することが多いです。
神経因性膀胱
膀胱には尿をためる、尿を排出するという二つの役割がありますが、二分脊椎症など脊髄の神経障害によりこれらの機能障害をきたすことがあります。「排尿できない、尿が漏れやすい」などの症状だけではなく、膀胱内が高圧状態となって両側の腎障害や重篤な尿路感染症を引き起こすことが一番の問題です。まず、尿検査、膀胱造影検査、腹部超音波検査、膀胱機能検査(ウロダイナミックス)どにより病状をよく把握すること大切です。病状に合わせて膀胱の伸展性を改善させる薬物療法、定期的な自己導尿(1日数回、尿道から細いチューブを入れて尿を出す方法)、膀胱拡大術(腸の一部を利用して膀胱を大きくやわらかくする手術)や尿禁制手術(膀胱の出口の抵抗を高め尿を漏れづらくする手術)などを行います。
必要があれば脳神経外科、整形外科、神経科と協力しながら診療を行います。
性分化疾患
性分化疾患とは、卵巣や精巣などの性腺や子宮などの内性器、あるいは外陰部が典型的な男性または女性の形態をとらない先天性疾患です。外陰の発生は、胎児期に自身から分泌される性ホルモン(特に男性ホルモン)により影響を受けています。先天的に性腺機能が不十分であったり、性ホルモンに対する感受性が低下していたりすることにより外陰が典型的ではない外観を呈します。
このような性分化疾患には、患児、ご両親のメンタルケアーも重要で、我々は、小児内分泌科・児童精神科・小児遺伝診療科、小児外科などの医師並びにケアサポート看護師によるチームで対応しています。
診療方針
小さな傷の手術から傷跡が見えない手術へ
近年、大人の泌尿器手術の大部分が腹腔鏡手術で施行されていますが、他施設に先駆けて、こどもにもこの腹腔鏡手術(水腎症、膀胱尿管逆流症、腹腔内停留精巣、萎縮腎摘、膀胱拡大術)を導入しています。これらの腹腔鏡手術は、腹腔鏡技術認定医が行います。他に、尿路の内視鏡手術も含めて、傷の小さな、体にやさしい治療を心がけています。
さらに最近は、臍のみの切開創から、すべての手術を行う単孔式腹腔鏡手術を取り入れることで小さな傷の手術からさらに一歩進んだ、傷跡が見えない(臍の中を切開するため)手術も可能となっています。
短い入院、負担の軽い手術
例えば、膀胱尿管逆流では、患児にとって煩わしいドレ-ンやステントなどは留置しません。術後数日で尿道留置カテーテルを抜去し、退院となります。水腎症では、術後4-5日前後で退院可能となります。その他の小手術では術後1-3日程度で退院できることがほとんどです。すべてのこどもは手術前日に入院していただきます。