小児頭蓋内動静脈シャント疾患 (ガレン大静脈瘤,硬膜静脈洞奇形,乳幼児型硬膜動静脈瘻,脳動静脈瘻)
動静脈シャント疾患とは動脈が毛細血管を介さずに静脈につながってしまった血管奇形です.詳しくは動静脈シャント疾患とはを参照して下さい.
小児の頭蓋内動静脈シャント疾患は成人と比べると非常に稀であるためより専門性が高く,その診断・治療は経験豊富な施設で受ける必要があります.ガレン大静脈瘤,硬膜静脈洞奇形,乳幼児型硬膜動静脈瘻,脳動静脈瘻,脳動静脈奇形が含まれ,病変の部位や血管構築などはそれぞれで異なっていますが,その症状は種類に関係なく発症する時期によってほぼ共通しています.例えばお母さんのお腹の中にいる時期から新生児期 (生後28日まで)までは動静脈シャントの血流が心臓に負担をかけて心不全を呈します.新生児期以降から2歳までの乳幼児期は動静脈シャントの血流が正常の脳静脈の流れを邪魔することで頭位拡大や水頭症などを呈し,乳幼児期以降は成人と同様に頭痛,けいれん,神経症状などで発症します.
以下にそれぞれの疾患について解説します.
ガレン大静脈瘤は脳の中心にあるガレン大静脈という部位にできた動静脈シャント疾患です.子供がお母さんのお腹の中にいる時期にできるため,動静脈シャントの血流量が多い場合には産まれる前から心不全を呈することもあります.また出産時はそれほど問題なくても,産まれてから数日の間に心不全が悪化することもあります.逆にシャント血流量がそれほど多くない場合には,乳幼児期までに頭位拡大や水頭症で発症します.
治療は血管内治療で,動脈側から動静脈シャント部を閉塞させます.新生児期に発症するガレン大静脈瘤は血管構築が複雑なタイプ (図1A)で,そのため複数回の治療を要します.それに比べて乳幼児期に発症するものは血管構築がシンプルなタイプ (図1B)が多いので,1-2回の治療で完全閉塞が期待できます.
図1A
図1B


図1:ガレン大静脈瘤 (側面から見た図)
1A:血管構築が複雑なタイプ.多数の栄養動脈が静脈瘤の様々な箇所で動静脈シャントを形成している (☆).新生児期に心不全で発症することが多い.
1B:血管構築がシンプルなタイプ.動静脈シャント部 (☆)は1~数か所と少なく,乳幼児期に頭位拡大や水頭症で発症することが多い.
ガレン大静脈瘤は基礎疾患として毛細血管奇形-動静脈奇形を伴っていることがあり,これは遺伝性疾患であるため両親への問診・診察も必要となります.
硬膜静脈洞奇形は子供がお母さんのお腹の中にいる時期に,後頭部の硬膜静脈洞 (静脈洞交会,横静脈洞)が異常拡張して動静脈シャントが形成されたものです (図2A, B).多数の栄養動脈が異常拡張した硬膜静脈洞の壁の様々な部位で動静脈シャントを形成していることが多く認められます.ガレン大静脈瘤と同様に産まれる前から産まれてから数日の間は心不全を呈し,その後の乳幼児期では頭位拡大や水頭症で発症します.
治療は血管内治療で,1-数回の治療を要します.多くの場合で動脈側からの治療が中心で,状況に応じて静脈側からの治療も行います.
図2A
図2B


図2A:後頭部の正常の硬膜静脈洞 (正面から見た図)
後頭部の硬膜静脈洞は静脈洞交会,横静脈洞,S状静脈洞などがある.頭頂部からくる上矢状洞が後頭部正中の静脈洞交会で左右の横静脈洞に分かれる.左右の横静脈洞はそれぞれS状静脈洞となり,そこから頚部の静脈へつながる.
図2B:硬膜静脈洞奇形
多数の栄養動脈が異常拡張した硬膜静脈洞の壁に様々な部位で動静脈シャントを形成している (☆).
乳児型硬膜動静脈瘻は小児のどの年齢層でも認められますが,特に乳幼児期に多い硬膜動静脈瘻です.成人の硬膜動静脈瘻とは異なり多発性のことが多く,また経過で新たな硬膜動静脈瘻が形成されることがあることも特徴です.また病変周囲の硬膜静脈洞の閉塞を伴うことも多く,そのため動静脈シャントの異常血流が脳静脈へ逆流し,脳うっ血や脳出血を起こす危険性もあります.病態に関する詳細は成人の硬膜動静脈瘻もご参照ください.
治療は血管内治療で,動脈側と静脈側からを組み合わせて行います.血管内治療の方法は成人と大差ありませんが,成人の硬膜動静脈瘻とは異なり多発性であること,病変周囲の硬膜静脈洞の閉塞を伴うことが多いこと,また治療経過で新たな硬膜動静脈瘻が形成されることがあるなどから,治療の難易度は高く,ほとんどで複数回の治療を要します.
脳動静脈瘻は脳動静脈奇形よりも太い動脈と静脈のレベルで動静脈シャントが形成されており,動静脈シャント部の静脈が拡張して静脈瘤となっていることが多いのが特徴です (図4A).新生児期は複雑な血管構築を呈することが多く,年齢が高くなるほど栄養動脈が1本であるシンプルな血管構築のものが多くなります.新生児期を含めて小児のどの年齢層でも認められますが,年齢が高くなるほど出血発症が多くなります.
図4A

図4A:脳動静脈瘻
太い栄養動脈が流出静脈に直接つながっている.動静脈シャント部 (☆)の静脈は拡張して静脈瘤となっていることが多い.
治療は表在性のものは外科手術も可能ですが,血管内治療が第一選択で,動脈側から動静脈シャント部を閉塞させます.閉塞させるのに使うものは液体塞栓物質 (図4B)とプラチナコイル (図4C)とがありますが,病変の血管構築に応じて使い分けます.シンプルな血管構築の場合は1回の治療で完全閉塞が期待できますが,複雑なものでは複数回の治療を要します.
図4B
図4C


図4B:脳動静脈瘻に対する血管内治療 (液体塞栓物質を用いるもの)
太ももから細いカテーテル (マイクロカテーテル)をできる限り栄養動脈の奥 (動静脈シャント部の近く)まで誘導し,そこから血管を閉塞させる液体 (液体塞栓物質)を注入する.
図4C:脳動静脈瘻に対する血管内治療 (プラチナコイルを用いるもの)
太ももから細いカテーテル (マイクロカテーテル)を栄養動脈まで進め,最終的に動静脈シャント部を超えて静脈瘤内まで誘導する.そこから栄養動脈にかけてプラチナコイルを留置する.
脳動静脈瘻は基礎疾患として遺伝性疾患であるオスラー病や毛細血管奇形-動静脈奇形を伴っていることがあるため,両親への問診・診察も必要となります.
脳動静脈奇形の多くは成人で発症し,小児の脳静脈奇形の割合は全体の20%以下です.小児でも新生児期や乳幼児期に発症することは稀で,ほとんどが3歳以降に発症します.成人よりも脳出血で発症することが多く,また病変 (ナイダス)が大きいことが多いのも特徴です.
治療に関しては成人と大きな違いはありませんので,成人の脳動静脈奇形を参照して下さい.
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脳神経外科毛細血管奇形-動静脈奇形毛細血管奇形-動静脈奇形は皮膚の多発性の毛細血管奇形が特徴である稀な遺伝性疾患です.オスラー病と同様に常染色体顕性遺伝なので父親または母親が毛細血管奇形-動静脈奇形の場合は,50%の確率でその子供に遺伝します.原因遺伝子としてRASA1 (ラサワン)とEPHB4 (エフビーフォー)の2つが知られています. 毛細血管奇形は皮膚の毛細血管の拡張による平坦かつ境界明瞭な色素斑で,赤褐色~褐色を呈しています (図1A-C).必ずしも出生時から認められるわけではなく,成長に伴って明瞭となる場合もあります.毛細血管奇形が多発性に認められる場合には毛細血管奇形-動静脈奇形が疑われます. 図1A 図1B 図1C 図1:毛細血管奇形 (A:前額部,B:前腕,C:背中) 毛細血管奇形は赤褐色から褐色を呈する平坦かつ境界明瞭な色素斑で,圧迫すると一時的に色は薄くなる. 多発性に認める場合には毛細血管奇形-動静脈奇形が疑われる. 毛細血管奇形-動静脈奇形では10~30%の割合で,脳・脊髄や頭頚部,四肢などに動静脈奇形や動静脈瘻といった動静脈シャント疾患が合併し,その頻度はRASA1変異によるものの方が高くなります.毛細血管奇形-動静脈奇形に合併する脳の動静脈シャント疾患は脳動静脈瘻,ガレン大静脈瘤,脳動静脈奇形ですが,これらは症状がない限り,外から見つけることができません.しかし症状がでてからだと何らかの後遺症となる危険性があります.したがって毛細血管奇形-動静脈奇形が疑われる患者さん (=皮膚に多発性の毛細血管奇形がある患者さん)には,脳のスクリーニング検査 (MRI)を行うことが勧められます.詳しく見る -
脳神経外科顔面けいれん1.顔面けいれんの症状 3.顔面けいれんの診断 2.顔面けいれんの原因 4.顔面けいれんの治療 ① 薬物治療 ② ボトックス治療 ③ 手術治療 1.顔面けいれんの症状 顔面けいれんとは,顔の片側のけいれん(ぴくつき)を生じる病気です. 男性より女性にやや多く,人口10万人当たり10人前後に認められます. 通常まぶた(眼瞼)周囲から始まり,症状が強くなると,頬や口の周りにまで及ぶようになり,発作の間、目が開けられなくなってしまいます.これにより自動車運転や日常生活に支障をきたすこともあります.症状が出現することで、人目を気にして外出が減り,引きこもりの原因になることもあります. この発作は刺激やストレスにても誘発されることがあります. 両側に起こる場合は眼瞼けいれんという,別の疾患を検討する必要があります. 2.顔面けいれんの原因 顔の運動に関与している顔面神経の根本付近に対して,血管(動脈)のループが圧迫することで起こります.圧迫された顔面神経は脱髄(神経の鞘の変性)をきたし,異常な神経活動を誘発し、顔のけいれんが起こります. 3.顔面けいれんの診断 顔面けいれんの診断は,症状の特徴や,広がりかたなどを詳細に調べることが重要です.また,瞬きなどの刺激で誘発されます. 顔面けいれんが疑われる場合には,MRIを用いた画像診断を行います.MRIでは顔面神経の根本付近(REZ:root exit zone)に対する脳血管の圧迫の有無を調べます.また同時に顔面神経周囲に脳腫瘍や血管病変などの異常がないか,脳内に異常がないかなどを調べます.当院では3テスラの高解像度MRIを用いて詳細な画像診断を行っています. 脳幹から顔面神経が分岐している部位の非常に細かなMRIの撮影になります.左側の顔面けいれんの方のMRIで赤く囲った部位を拡大すると左顔面神経(青矢印)の根本(REZ:黄矢印)に黒く抜けた血管(前下小脳動脈)が当たっています. 4.顔面けいれんの治療 顔面けいれんの治療としてまず薬物治療を行いますが,効果が乏しいことがほとんどです. その際には手術治療,ボトックス治療を検討していきます. ①薬物治療 カルバマゼピン(テグレトール)やクロナゼパム,バクロフェン,ガバペンチンなどの報告がありますが,効果は乏しく,下記の治療方法もしくは経過をみられることが多いのが現状です. ②ボトックス治療 顔面けいれんをおこしている筋肉に直接ボトックス(ボツリヌス毒素製剤)の注射を行います.効果は90%以上で認められます.効果は投与後2-3日から出現し,3-4か月持続します.効果が減弱してきた場合は再治療を行います(3-4か月ごとの注射が必要になります).有害事象として,顔面神経麻痺をきたし,目が閉じられなくなったり,唇が下がったりすることがあります. ③手術治療 開頭による神経血管減圧術を行います.上記症状を認め,MRIで顔面神経に対して血管の圧迫が確認され,全身状態が開頭手術に対して大きな問題がない場合には,有効性が高く安全な治療であると考えられます. ■当院で行っている顔面けいれんに対する神経血管減圧術 当科の方針として,「安全かつ低侵襲に」行うようにしています. 皮膚切開は6-8cm程度とし,2-2.5cmの小開頭で行っています. この手術は難聴をきたすことがあり,聴力のモニタリング(術中神経生理学的モニタリング(ABR:聴性脳幹反応))は必須になります.当院ではその他に術中ナビゲーション,神経内視鏡,術中ICG蛍光造影などの機器も使用し,より安全にかつ確実な治療を行います. 手術時間は約3時間で,約1週間程度の入院期間です(術後,症状(痛みなど)を評価して早期退院を目指します). 手術を受けた場合,1週間後の症状緩和は90%以上で認められ,概ね70%の患者さんでは症状の消失を認めます.3年後では症状消失は87%程度となり,時間経過とともに治療効果が上昇します. 神経血管減圧術の合併症としては,顔の麻痺(0.4%),難聴(0.6%),めまい0.2%,脳梗塞・出血(0.2%),めまい(0.2%),と報告されており,その他に脳脊髄液漏出(再手術が必要なことがあります),感染などのリスクがあります. 実際の手術の流れです. 入院は手術前日になります.食事は前日夜まで,水分摂取は当日朝6時までになります(検査が必要な場合は2日前に入院していただくこともあります). 手術当日は午前8時半ごろに手術室に向かいます(8時過ぎから家族の面会も可能です). 手術室に入り,全身麻酔を行い,その後各種モニタリングの設定を行っていきます.実際の手術開始時間は10時半ごろになります. 手術は側臥位,もしくは仰臥位(仰向け)にて行います. 実際の左片側顔面けいれんの創部 ナビゲーションシステムを使用し,個々の症例の血管走行を確認し,適した開頭範囲を決定し,術後もできるだけ傷が目立たないように毛髪浅内の小さな皮膚切開で行うようにしています(黒の直線が皮膚を切開する線です。丸は開頭範囲を想定しています). 右片側顔面けいれんの手術 顕微鏡,内視鏡所見 A:顕微鏡下に圧迫部位を確認.顔面神経(青矢印)の根本で血管(前下小脳動脈:黄矢印) B:神経内視鏡を挿入し,圧迫部位を確認. C:圧迫している血管を外側によけ,医療用の綿(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)にて外側の錐体骨面に貼り付け,フィブリン糊にて固定を行います. D:蛍光造影剤を用いて術中に圧迫血管や周囲の血管の血流が障害されていないことを確認します. 手術中には術中モニタリングとして 聴性脳幹反応(ABR)モニタリング:イヤホンを装着,脳幹の反応を確認し,聴力低下が起こっていないか確認します. 異常筋反応(AMR)モニタリング:顔面けいれんに伴う異常な反応を術中に確認し,圧迫血管をよけることでこの反応が消失しているか確認し,責任血管が十分によけられたか確認します. 手術後,麻酔は覚まし,神経症状の異常がないことを確認し,手術室を退室します.そのまま頭部CT検査を行い,術後出血などの問題がないか確認します. 手術後当日はICU(集中治療室)にて管理を行います.集中治療専門の医師と連携して,術後経過を見ていきます. 手術翌日に一般病棟に戻ります.食事も翌日から再開します. 術後の検査を行い,1週間後に皮膚を固定しているスキンステープラを外します. 約8-10日の入院となります(早期退院を希望される場合は外来にてスキンステープラを外します。5-6日での退院も可能です).詳しく見る -
脳神経外科小児脳神経外科小児脳動脈瘤小児の脳動脈瘤は稀ですが,くも膜下出血の原因となる疾患として無視できません.成人を含めた動脈瘤全体の1~5%程度を占め,成人の動脈瘤の多くは袋状に膨らんだ嚢状動脈瘤 (図A)ですが,小児ではその割合は40~50%程度,動脈全体が膨らんだ解離性 (紡錘状)動脈瘤 (図B)の割合が高くなります.また小児脳動脈瘤の20~50%は大きさが10mm以上の大型または25mm以上の巨大動脈瘤であることも特徴です.特に巨大動脈瘤ではくも膜下出血以外に脳が圧迫されることで運動麻痺や言語障害などの神経症状で発症することもあります. 図A 図B 図A:嚢状動脈瘤 動脈瘤は正常の脳動脈から袋状に突出している.動脈瘤の根元 (頚部)からは正常の動脈枝を認めることがある. 図B:解離性 (紡錘状)動脈瘤 動脈瘤は脳動脈の一部が全体的に膨らんだ形状となっている. 動脈瘤がなぜできるのかは成人も小児でも分かっていませんが,小児では約1/3に全身性の基礎疾患が認められるため,小児で脳動脈瘤が見つかった際にはそれらの基礎疾患が隠れていないか調べる必要があります. 治療は動脈瘤の部位・大きさなどから外科手術と血管内治療の選択となりますが,これらは成人と概ね変わりないので,詳しくは成人の脳動脈瘤を参照して下さい.詳しく見る