脳動脈瘤

脳動脈瘤とは、脳の血管の壁がコブ状に膨らむものです。通常は血管が枝分かれする部位に起こることが多く、このコブが膨らむことで壁が薄くなり、最終的に破れてしまうことで、くも膜下出血をきたします。                                                                   くも膜下出血は、命にかかわる重篤なものになる可能性が高い疾患であり、救命できても後遺症が残る可能性が高い疾患です。約30%が命に関わり、約30%が後遺症を残すといわれています。                                                               このため、最近では脳ドックや診療において比較的容易にMRI検査を行えるようになり、偶発的に発見されることが多くなりました。これらは破れていない動脈瘤であり、未破裂脳動脈瘤と呼ばれます。                                                        未破裂脳動脈瘤は過去のデータから破裂するリスクが調べられています。大きなデータではわが国の未破裂脳動脈瘤の全例調査(UCAS Japan)があります。これら研究で破裂しやすい部位、大きさ、形状などが調べられ、未破裂脳動脈瘤の治療適応がガイドライン上で示されています。

 

未破裂脳動脈瘤の治療適応 (脳卒中治療ガイドライン2021改訂2023)
  1. 大きさ5~7mm以上の未破裂動脈瘤
  2.  5mm未満であっても、 

ア)症候性の脳動脈瘤(動脈瘤によって神経症状が出現しているもの)                                                           イ)前交通動脈および内頚動脈―後交通動脈部の脳動脈瘤                                            ウ)Dome neck aspect比が大きい(入口が狭く風船のように膨らんでいるもの)、不整形(いびつな形のもの)、ブレブ(動脈瘤の中にさらに膨らみがあるもの)を有するなどの形態的特徴を持つ脳動脈瘤

    となっています。

    動脈瘤の治療に際しては、これらのサイズや部位、形のみならず、年齢、健康状態、を考慮して治療する必要があります。                                                                      特に、未破裂脳動脈瘤は発見された場合、うつ症状や不安が生じることが報告されており、このことも検討に入れることが必要とされています。                                                                                 未破裂脳動脈瘤の治療法としては、開頭手術(脳動脈瘤クリッピング術)血管内治療(脳動脈瘤コイル塞栓術)2通りの方法があります。                                                                                 当院では低侵襲な血管内治療を優先して検討しますが、動脈瘤の部位、形状、細かな血管の分岐などをしっかりと評価し、血管内治療のリスクが高い場合は開頭手術を進めることもあります。                                                                      当院では開頭手術もできるだけ侵襲を少なくするため、皮膚切開、開頭も小さくするようにしています。

     

    開頭手術(脳動脈瘤クリッピング術)

    手術用顕微鏡を用いて、直接動脈瘤を確認し動脈瘤のくびれの部位にチタン製のクリップを挟み、動脈瘤内に血流が入らないようにします。これにより動脈瘤の破裂を予防します。1970年代から日本でも普及し始め、半世紀の経過を経て標準的治療として確立されてきました。                                                                                 動脈瘤のほとんどは脳を栄養する太い血管に発生します。血管は脳と脳の間(脳槽、脳溝)を走行します。手術の際にはこのスペースを徐々に広げ、脳そのものは損傷しないように行います。予防のための手術であり、術後合併症をきたさないように最大限の注意が必要になります。手術の際には脳組織だけでなく、動脈から分岐する径が1mm以下の非常に細い血管(穿通枝)や細かな静脈も損傷しないようにする必要があり、非常に繊細なテクニックが要求されます。                                                                                                     当院では開頭クリッピング術の際,術前検査も侵襲を伴う脳血管撮影は行っていません必要な場合のみ行うようにし,より低侵襲な造影CTA検査,腎機能障害がある場合はMRIMRA検査のみで行っています.                                                                           手術の際には,全例で術中モニタリング、術中ICG蛍光造影検査を行っています術中モニタリングで、クリッピングなどの操作の際に麻痺が出現していないかチェックを行い、蛍光造影検査にてクリッピングを行った後、動脈瘤の遮断がされているかだけでなく、周囲の細かな血管が温存されているか確認を行います。これらを通して、手術に伴うリスクを少しでも軽減するようにしています。

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    開頭クリッピング術

    A:右中大脳動脈瘤(造影CT検査)

    B:術中所見右中大脳動脈瘤(矢印)

    C:術中所見動脈瘤クリッピング後(矢印)

    D:クリッピング術後.動脈瘤は消失(造影CT検査)

     

    当院では再発症例、大きなサイズの動脈瘤や脳の深部に存在する動脈瘤に対しても開頭手術を行ってきました。術中の一次遮断、バイパス術の併用、術中血管撮影やカテーテル手技による血管閉塞など様々なテクニックを駆使して様々な部位、大きさ、形状の動脈瘤治療を行っています

     

    【深部の大型脳底動脈上小脳動脈瘤の症例】
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    A:左脳底動脈上小脳動脈分岐部動脈瘤(造影CT検査)

    B:術中所見クリッピング後(矢印:動脈瘤、O:動眼神経、IC:内頚動脈、BA:脳底動脈、SCA上小脳動脈)

    C:クリッピング術後(造影CT検査)

     

    【動脈瘤に対する低侵襲手術】

    また、低侵襲な血管内治療が多く行われるようになり、開頭手術においても低侵襲性を目指して、皮膚切開、開頭を極力小さく手術(低侵襲手術:minimally invasive surgery)を行うようにしています。

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    A:従来の開頭手術の皮膚切開線(赤矢印)と開頭線(青矢印)

    B:低侵襲手術の皮膚切開線(赤矢印)と開頭線(青矢印)

     

    治療の合併症としては術中の一時遮断や周囲の細かい血管の閉塞による脳梗塞のリスクが考えられ、当院では、全例に電気生理学的モニタリングや術中ICG蛍光造影を行い、より安全に行うようにしています。

     

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    A:クリッピング術後

    B:ICG蛍光造影にて動脈瘤内に血流がないこと、周囲の血管が温存されていることを確認。

     

    ■当院での実際の手術の際の流れ

    術前検査としては、外来で脳血管造影CT検査、単純MRI検査にて評価を行います。侵襲を伴う脳血管撮影検査は必要な場合のみ行っています。

    1. 入院は手術の前日になります。食事は前日まで、水分摂取は当日の朝6時までになります。(検査が必要な場合は前々日に入院していただくこともあります。)
    2. 手術当日は、午前8時半ごろに手術室に向かいます。(8時過ぎから家族の面会も可能です)
    3. 手術室に入り、全身麻酔を行い、その後各種モニタリングの設定を行います。実際の手術開始は10時前後になります。

      手術時間は動脈瘤の部位、サイズなどにより大きく異なりますが、一般的な、前方循環の5-10㎜程度の動脈瘤であれば、3-5時間程度となります。

       

      手術後、麻酔は覚まし、神経症状の異常がないことを確認し、手術室を退室します。そのまま、頭部CT検査を行い、術後出血などの問題がないか確認します。                                                                                    手術後当日はICU(集中治療室)にて管理を行います。集中治療専門の医師と連携し、術後経過を見ていきます。                                                                                      手術翌日に一般病棟に戻ります。食事も翌日から再開します。                                                                                        術後の検査を行い、1週間後に皮膚を固定しているスキンステープラを外します。                                                                                  約8-10日の入院となります。(早期退院を希望される場合は外来にてスキンステープラを外します。5-6日での退院も可能です)

      手術後も引き続き外来にて再発などないか定期的にフォローを行っていきます。