三叉神経痛に対する集学的治療

1.三叉神経痛の症状

三叉神経痛とは、顔の片側で、電気ショックのような短い激しい痛み(電撃痛)を生ずる病気です。

男性よりも女性にやや多く、人口10万人あたり413人に認められます。痛みを生じるのは頬や下あご、口の中であることが多く、額のあたりに生じることもあります。

痛みの特徴は、突然刺すような短い痛み(数秒〜2分以内)が起こり、すぐにおさまることが繰り返されます。

この発作には引き金となる部位があり、かるく触れると痛みの発作が誘発されます。食事での咀嚼、話をする、歯を磨く、冷たい空気を吸う、微笑む、ひげを剃る、顔を洗う、などの動作で痛みが起こります。

病気が長期にわたる場合には発作の間に持続的な鈍痛を感じる場合もあります。

痛みが口腔内に生じる場合には、虫歯が原因であるように診断されることがあり、頬に生じた場合には蓄膿が原因であるように診断される場合があります。

2.三叉神経痛の原因

三叉神経は顔面の感覚と咀嚼筋の感覚・運動を司っています。三叉神経痛のほとんどは三叉神経の根元付近に対して血管(動脈または静脈)のループが圧迫をすることで起こります。神経動脈の圧迫された三叉神経は脱髄(神経の鞘の変性)を来し、異常な神経活動を発生することで激しい痛みを生じると考えられています。このため、軽い刺激で激しい発作が引き起こされると説明されます。

また、圧迫がない場合も、くも膜(脳の周囲にある、非常に薄い膜)によって、三叉神経が引っ張られる(牽引)ことによっても症状が起こることが報告されています。

3.三叉神経痛の診断

三叉神経痛の診断は、痛みの特徴や、痛い部位、痛みの生じかたを詳細に調べることが最も重要です。カルバマゼピンなどの薬物治療に対して痛みが改善する、ということも診断上有用です。

三叉神経痛が疑われる場合、MRIを用いた画像診断を行います。MRIでは、三叉神経に対する脳血管の圧迫の有無、三叉神経の牽引の有無を調べます。また同時に三叉神経の周囲に脳腫瘍や血管奇形等の異常がないかと、脳の中に多発性硬化症や脳梗塞などの異常がないかどうかを調べます。

当院では3テスラの高解像度MRIを用いて詳細な画像診断を行っています。

4.三叉神経痛の治療

治療の基本は薬物療法になります。まず、薬物療法を開始し、症状のコントロールが可能か判断します。薬物療法にても症状が悪化する場合や、副作用が強くコントロール困難な場合などの際には、手術治療、ガンマナイフ治療を検討します。

①薬物治療

カルバマゼピン(テグレトール)による薬物療法は三叉神経痛のほとんどの患者で第一選択となる初期治療です。過去の報告では、58100%の患者さんで完全もしくはほぼ完全な疼痛コントロールが確認されています。吐き気、めまい、電解質異常、全身の湿疹などの強い副作用が出ることがあるので、注意する必要があります。

カルバマゼピンの副作用のため服用できない場合や、効果が不十分な場合は、ガバペンチン(ガバペン)やプレガバリン(リリカ)等の薬剤を考慮します。

②手術治療

手術治療は薬物療法の効果が十分でない三叉神経痛に対して考慮されます。開頭による神経血管減圧術で治療を行います。

痛みの性状が上記のような三叉神経痛の特徴を有し、MRIで三叉神経に対して責任血管の圧迫があることが確認され、全身状態が開頭手術に対して大きな問題のない場合には、有効性が高く安全な治療であると考えられます。圧迫のない症例に対しても、典型的な症状であれば、治療を検討することもあります。

 

■当院で行っている三叉神経痛に対する神経血管減圧術

  • 当科の方針として「安全かつ低侵襲に」行うようにしています。皮膚切開は6cm程度とし、2.5cmの小開頭で行っています。
  • この手術は難聴をきたすことがあり、聴力のモニタリング(術中神経生理学的モニタリング(ABR:聴性脳幹反応))は必須になります。当院ではその他、術中ナビゲーション、神経内視鏡、術中ICG蛍光造影などの機器も使用し、より安全にかつ確実な治療を行います。
  • 手術時間は約3時間で、約1週間程度の入院期間です。(術後症状(痛みなど)を評価し、早期退院を目指します。)
  • 手術を受けた場合、1週間後の症状緩和は90%以上で認められ、概ね80%の患者さんでは症状の消失を認めます。3年後でも症状消失は80%程度といわれています。
  • 神経血管減圧術の合併症としては、顔面のしびれ(1.9%)、難聴(1.3%)、複視(1.3%)と報告されており、そのほか、脳脊髄液漏出(再手術が必要なことがあります)、脳梗塞、出血、感染などのリスクがあります。

 

 

実際の手術の流れです

1.入院は手術前日になります。食事は前日まで、水分摂取は当日の朝6時までになります。(検査が必要な場合は前々日に入院していただくこともこともあります)

2.手術日当日は午前8時半ごろに手術室に向かいます。(8時過ぎから家族の面会も可能です。)

3.手術室に入り、全身麻酔を行い、その後各種モニタリングの設定を行っていきます。実際の手術開始は10時から10時半ごろになります。

 

手術は仰臥位(仰向け)、もしくは側臥位(横向き)で行っています。

ナビゲーションシステムを使用し、個々の症例の血管の走行を確認し、適した開頭範囲を決定し、術後もできるだけ傷が目立たないように、毛髪線内の小さな皮膚切開で行うようにしています。

手術は顕微鏡を使用し、術前MRIにて予想された圧迫血管を確認します。

この症例では左三叉神経に内側から圧迫血管(上小脳動脈)が当たっていることがわかります。手術の際にもこの血管を確認します

 

症例により神経内視鏡を併用することで、責任病変の広い観察を行い確実な圧迫解除を行います。

医事課
A:右耳の後ろに切開を行い、開頭を行ったところです。 右の三叉神経(黄色矢印)に対して、責任血管(青色矢印)が圧迫をしており、痛みの原因になっていることが分かります。
B:神経内視鏡を用いた病巣の観察をしています。Aで見えていた三叉神経(黄色矢印)と、圧迫している責任血管(青色矢印)が、内視鏡による広い視野角で観察されています。血管が神経を圧迫していることが原因になっていると思われます。
C:三叉神経から責任血管を移動させて、テフロン繊維で固定し、再び圧迫がかからないようにしています。
D:圧迫解除後、再度神経内視鏡を用いて確認をしています。Bで認められた圧迫が解除され、三叉神経(黄色矢印)が、テフロンで固定された責任血管(青色矢印)からはなれているのが分かります。

当院では、神経血管減圧術の有効性と安全性を高めるため、神経内視鏡や術中神経生理モニタリングを用いて治療を行っています。

術中モニタリングとして

聴性脳幹反応(ABR)モニタリング:イヤホンを装着、脳幹の反応を確認し、聴力低下が起こってないか確認します

 

手術後、麻酔は覚まし、神経症状の異常がないことを確認し、手術室を退室します。そのまま頭部CT検査を行い、術後出血などの問題がないか確認します。                                                                                          手術後当日はICU(集中治療室)にて管理を行います。集中治療専門の医師と連携し、術後経過を見ていきます。                                              手術翌日に一般病棟に戻ります。食事も翌日から再開します。                                                                術後の検査を行い、1週間後に皮膚を固定しているスキンステープラを外します。                                                                        約8-10日の入院となります。(早期退院を希望される場合は外来にてスキンステープラを外します。5-6日での退院も可能です)

③ガンマナイフ治療

ガンマナイフは、病変部に対して高線量の放射線を1回で照射する方法で、三叉神経痛に対しては、組織破壊よりニューロモデュレーションを来すことで疼痛の緩和が得られると考えられています(図1)。

医事課
図1 三叉神経痛に対するガンマナイフ治療風景

三叉神経痛に対するガンマナイフ治療は、原則的にroot exit zone(REZ:三叉神経の脳幹部から2〜8 mm 遠位部、オリゴデンドロサイトからシュワン細胞主体のミエリンに移行する部位)近傍の三叉神経に対して、中心線量(最大線量)で80Gyでの治療を行っています(図2)。

医事課
図2 三叉神経痛のガンマナイフの線量計画

治療時間は2〜3時間(頭部へのフレーム装着から治療終了まで)で、治療終了後、フレームを取り外した後には特別の処置は必要なく、その後の日常生活に制限はありません。

我々の経験では、ガンマナイフ治療後に十分な痛みの寛解が得られるまでの期間は、治療当日〜4年後(平均2ヶ月)と、多くの症例で三叉神経痛の寛解までに2ヶ月程度を要します。ガンマナイフ治療後6ヶ月後に症状の改善がなければ、再治療を含め考えるとの意見もありますが、私どもの経験からは、ガンマナイフ治療後の効果判定はより長期の経過を見てからで良いと考えています。

治療効果

当院で治療した83例の平均42ヶ月の経過観察での治療成績では、十分な痛みの寛解(薬物投与無しもしくは薬物併用にて十分な痛みのコントロールが出来た症例)は、3年78%,5年62%,7年42%でした (3)。やはりガンマナイフ治療においても、長期の経過観察にて他の治療法と同様に痛みの再燃の可能性は高くなります。

医事課
図3 自験例83例の最終観察時、薬物投与なしもしくは薬物併用にて十分痛みがコントロールできた累積寛解率

合併症

ガンマナイフ治療後の三叉神経障害に関しては、私ども症例では顔面の知覚障害の出現頻度は14%でしたが、日常生活に支障を来すようなbothersome numbnessを来した方は4%でした。

ガンマナイフの再治療

ガンマナイフ治療が無効であるとの判断の時期は、前述したように治療後痛みの寛解までに時間を要する症例もあるため、治療後2年間は経過を見てから判断するようにしています。ガンマナイフ治療後に痛みが再燃した場合、まずは薬物治療を試みますが、カルバマゼピン以外にも、ガバペンチン、トピラマート、プレガバリン等が有効な場合があり、またペインクリニックとも密接にコミュニケーションを計った上で、次の外科的治療、ガンマナイフ再治療を検討すべきと考えています。治療選択として、治療の確実性を考えると、神経血管減圧術の既往のない患者では神経血管減圧術を勧めますが、手術の危険性が高いと思われる高齢者や神経血管減圧術の既往のある患者には、ガンマナイフの再治療を考慮いたします。ガンマナイフ再治療の成績としましては、5年で50〜75%の症例で十分な痛みの寛解が得られるが、一方で顔面の知覚障害の出現率は初回治療に比して高くなると報告されています。

ガンマナイフ治療は、三叉神経痛に苦しんでいる患者に対する安全で有効な治療であります。また、神経血管減圧術の三叉神経痛に対する有効性はガンマナイフよりも良好ですが、高齢者で全身麻酔の危険性が高い症例に対しては適応となり難いと思われます。そのような患者に対する治療目標として、三叉神経痛が寛解でき、薬物療法に伴う副作用を軽減できれば、完全に痛みが消失しなくても現実的には治療目標になりうると思われます。三叉神経痛は生命に関わる病態ではありませんが、個々の患者にとっては生活の質を著しく制限されている病態であり、最終的には患者が満足できる治療目標に向けて、種々の治療選択の有効性、副作用等を十分理解して治療にあたる必要があると考えております。