三叉神経痛に対する集学的治療
三叉神経痛とは、顔の片側で、電気ショックのような短い激しい痛み(電撃痛)を生ずる病気です。
男性よりも女性にやや多く、人口10万人あたり4〜13人に認められます。痛みを生じるのは頬や下あご、口の中であることが多く、額のあたりに生じることもあります。
痛みの特徴は、突然刺すような短い痛み(数秒〜2分以内)が起こり、すぐにおさまることが繰り返されます。
この発作には引き金となる部位があり、かるく触れると痛みの発作が誘発されます。食事での咀嚼、話をする、歯を磨く、冷たい空気を吸う、微笑む、ひげを剃る、顔を洗う、などの動作で痛みが起こります。
病気が長期にわたる場合には発作の間に持続的な鈍痛を感じる場合もあります。
痛みが口腔内に生じる場合には、虫歯が原因であるように診断されることがあり、頬に生じた場合には蓄膿が原因であるように診断される場合があります。
三叉神経は顔面の感覚と咀嚼筋の感覚・運動を司っています。三叉神経痛のほとんどは三叉神経の根元付近に対して血管(動脈または静脈)のループが圧迫をすることで起こります。神経動脈の圧迫された三叉神経は脱髄(神経の鞘の変性)を来し、異常な神経活動を発生することで激しい痛みを生じると考えられています。このため、軽い刺激で激しい発作が引き起こされると説明されます。
また、圧迫がない場合も、くも膜(脳の周囲にある、非常に薄い膜)によって、三叉神経が引っ張られる(牽引)ことによっても症状が起こることが報告されています。
三叉神経痛の診断は、痛みの特徴や、痛い部位、痛みの生じかたを詳細に調べることが最も重要です。カルバマゼピンなどの薬物治療に対して痛みが改善する、ということも診断上有用です。
三叉神経痛が疑われる場合、MRIを用いた画像診断を行います。MRIでは、三叉神経に対する脳血管の圧迫の有無、三叉神経の牽引の有無を調べます。また同時に三叉神経の周囲に脳腫瘍や血管奇形等の異常がないかと、脳の中に多発性硬化症や脳梗塞などの異常がないかどうかを調べます。
当院では3テスラの高解像度MRIを用いて詳細な画像診断を行っています。
治療の基本は薬物療法になります。まず、薬物療法を開始し、症状のコントロールが可能か判断します。薬物療法にても症状が悪化する場合や、副作用が強くコントロール困難な場合などの際には、手術治療、ガンマナイフ治療を検討します。
カルバマゼピン(テグレトール)による薬物療法は三叉神経痛のほとんどの患者で第一選択となる初期治療です。過去の報告では、58〜100%の患者さんで完全もしくはほぼ完全な疼痛コントロールが確認されています。吐き気、めまい、電解質異常、全身の湿疹などの強い副作用が出ることがあるので、注意する必要があります。
カルバマゼピンの副作用のため服用できない場合や、効果が不十分な場合は、ガバペンチン(ガバペン)やプレガバリン(リリカ)等の薬剤を考慮します。
手術治療は薬物療法の効果が十分でない三叉神経痛に対して考慮されます。開頭による神経血管減圧術で治療を行います。
痛みの性状が上記のような三叉神経痛の特徴を有し、MRIで三叉神経に対して責任血管の圧迫があることが確認され、全身状態が開頭手術に対して大きな問題のない場合には、有効性が高く安全な治療であると考えられます。圧迫のない症例に対しても、典型的な症状であれば、治療を検討することもあります。
■当院で行っている三叉神経痛に対する神経血管減圧術
- 当科の方針として「安全かつ低侵襲に」行うようにしています。皮膚切開は6cm程度とし、2.5cmの小開頭で行っています。
- この手術は難聴をきたすことがあり、聴力のモニタリング(術中神経生理学的モニタリング(ABR:聴性脳幹反応))は必須になります。当院ではその他、術中ナビゲーション、神経内視鏡、術中ICG蛍光造影などの機器も使用し、より安全にかつ確実な治療を行います。
- 手術時間は約3時間で、約1週間程度の入院期間です。(術後症状(痛みなど)を評価し、早期退院を目指します。)
- 手術を受けた場合、1週間後の症状緩和は90%以上で認められ、概ね80%の患者さんでは症状の消失を認めます。3年後でも症状消失は80%程度といわれています。
- 神経血管減圧術の合併症としては、顔面のしびれ(1.9%)、難聴(1.3%)、複視(1.3%)と報告されており、そのほか、脳脊髄液漏出(再手術が必要なことがあります)、脳梗塞、出血、感染などのリスクがあります。
実際の手術の流れです
1.入院は手術前日になります。食事は前日まで、水分摂取は当日の朝6時までになります。(検査が必要な場合は前々日に入院していただくこともこともあります)
2.手術日当日は午前8時半ごろに手術室に向かいます。(8時過ぎから家族の面会も可能です。)
3.手術室に入り、全身麻酔を行い、その後各種モニタリングの設定を行っていきます。実際の手術開始は10時から10時半ごろになります。
手術は仰臥位(仰向け)、もしくは側臥位(横向き)で行っています。
ナビゲーションシステムを使用し、個々の症例の血管の走行を確認し、適した開頭範囲を決定し、術後もできるだけ傷が目立たないように、毛髪線内の小さな皮膚切開で行うようにしています。
手術は顕微鏡を使用し、術前MRIにて予想された圧迫血管を確認します。
この症例では左三叉神経に内側から圧迫血管(上小脳動脈)が当たっていることがわかります。手術の際にもこの血管を確認します
症例により神経内視鏡を併用することで、責任病変の広い観察を行い確実な圧迫解除を行います。

B:神経内視鏡を用いた病巣の観察をしています。Aで見えていた三叉神経(黄色矢印)と、圧迫している責任血管(青色矢印)が、内視鏡による広い視野角で観察されています。血管が神経を圧迫していることが原因になっていると思われます。
C:三叉神経から責任血管を移動させて、テフロン繊維で固定し、再び圧迫がかからないようにしています。
D:圧迫解除後、再度神経内視鏡を用いて確認をしています。Bで認められた圧迫が解除され、三叉神経(黄色矢印)が、テフロンで固定された責任血管(青色矢印)からはなれているのが分かります。
当院では、神経血管減圧術の有効性と安全性を高めるため、神経内視鏡や術中神経生理モニタリングを用いて治療を行っています。
術中モニタリングとして
聴性脳幹反応(ABR)モニタリング:イヤホンを装着、脳幹の反応を確認し、聴力低下が起こってないか確認します
手術後、麻酔は覚まし、神経症状の異常がないことを確認し、手術室を退室します。そのまま頭部CT検査を行い、術後出血などの問題がないか確認します。 手術後当日はICU(集中治療室)にて管理を行います。集中治療専門の医師と連携し、術後経過を見ていきます。 手術翌日に一般病棟に戻ります。食事も翌日から再開します。 術後の検査を行い、1週間後に皮膚を固定しているスキンステープラを外します。 約8-10日の入院となります。(早期退院を希望される場合は外来にてスキンステープラを外します。5-6日での退院も可能です)
ガンマナイフは、病変部に対して高線量の放射線を1回で照射する方法で、三叉神経痛に対しては、組織破壊よりニューロモデュレーションを来すことで疼痛の緩和が得られると考えられています(図1)。

三叉神経痛に対するガンマナイフ治療は、原則的にroot exit zone(REZ:三叉神経の脳幹部から2〜8 mm 遠位部、オリゴデンドロサイトからシュワン細胞主体のミエリンに移行する部位)近傍の三叉神経に対して、中心線量(最大線量)で80Gyでの治療を行っています(図2)。

治療時間は2〜3時間(頭部へのフレーム装着から治療終了まで)で、治療終了後、フレームを取り外した後には特別の処置は必要なく、その後の日常生活に制限はありません。
我々の経験では、ガンマナイフ治療後に十分な痛みの寛解が得られるまでの期間は、治療当日〜4年後(平均2ヶ月)と、多くの症例で三叉神経痛の寛解までに2ヶ月程度を要します。ガンマナイフ治療後6ヶ月後に症状の改善がなければ、再治療を含め考えるとの意見もありますが、私どもの経験からは、ガンマナイフ治療後の効果判定はより長期の経過を見てからで良いと考えています。
当院で治療した83例の平均42ヶ月の経過観察での治療成績では、十分な痛みの寛解(薬物投与無しもしくは薬物併用にて十分な痛みのコントロールが出来た症例)は、3年78%,5年62%,7年42%でした (図3)。やはりガンマナイフ治療においても、長期の経過観察にて他の治療法と同様に痛みの再燃の可能性は高くなります。

ガンマナイフ治療後の三叉神経障害に関しては、私ども症例では顔面の知覚障害の出現頻度は14%でしたが、日常生活に支障を来すようなbothersome numbnessを来した方は4%でした。
ガンマナイフ治療が無効であるとの判断の時期は、前述したように治療後痛みの寛解までに時間を要する症例もあるため、治療後2年間は経過を見てから判断するようにしています。ガンマナイフ治療後に痛みが再燃した場合、まずは薬物治療を試みますが、カルバマゼピン以外にも、ガバペンチン、トピラマート、プレガバリン等が有効な場合があり、またペインクリニックとも密接にコミュニケーションを計った上で、次の外科的治療、ガンマナイフ再治療を検討すべきと考えています。治療選択として、治療の確実性を考えると、神経血管減圧術の既往のない患者では神経血管減圧術を勧めますが、手術の危険性が高いと思われる高齢者や神経血管減圧術の既往のある患者には、ガンマナイフの再治療を考慮いたします。ガンマナイフ再治療の成績としましては、5年で50〜75%の症例で十分な痛みの寛解が得られるが、一方で顔面の知覚障害の出現率は初回治療に比して高くなると報告されています。
ガンマナイフ治療は、三叉神経痛に苦しんでいる患者に対する安全で有効な治療であります。また、神経血管減圧術の三叉神経痛に対する有効性はガンマナイフよりも良好ですが、高齢者で全身麻酔の危険性が高い症例に対しては適応となり難いと思われます。そのような患者に対する治療目標として、三叉神経痛が寛解でき、薬物療法に伴う副作用を軽減できれば、完全に痛みが消失しなくても現実的には治療目標になりうると思われます。三叉神経痛は生命に関わる病態ではありませんが、個々の患者にとっては生活の質を著しく制限されている病態であり、最終的には患者が満足できる治療目標に向けて、種々の治療選択の有効性、副作用等を十分理解して治療にあたる必要があると考えております。
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脳神経外科脳動脈瘤脳動脈瘤とは、脳の血管の壁がコブ状に膨らむものです。通常は血管が枝分かれする部位に起こることが多く、このコブが膨らむことで壁が薄くなり、最終的に破れてしまうことで、くも膜下出血をきたします。 くも膜下出血は、命にかかわる重篤なものになる可能性が高い疾患であり、救命できても後遺症が残る可能性が高い疾患です。約30%が命に関わり、約30%が後遺症を残すといわれています。 このため、最近では脳ドックや診療において比較的容易にMRI検査を行えるようになり、偶発的に発見されることが多くなりました。これらは破れていない動脈瘤であり、未破裂脳動脈瘤と呼ばれます。 未破裂脳動脈瘤は過去のデータから破裂するリスクが調べられています。大きなデータではわが国の未破裂脳動脈瘤の全例調査(UCAS Japan)があります。これら研究で破裂しやすい部位、大きさ、形状などが調べられ、未破裂脳動脈瘤の治療適応がガイドライン上で示されています。 未破裂脳動脈瘤の治療適応 (脳卒中治療ガイドライン2021改訂2023) 大きさ5~7mm以上の未破裂動脈瘤 5mm未満であっても、 ア)症候性の脳動脈瘤(動脈瘤によって神経症状が出現しているもの) イ)前交通動脈および内頚動脈―後交通動脈部の脳動脈瘤 ウ)Dome neck aspect比が大きい(入口が狭く風船のように膨らんでいるもの)、不整形(いびつな形のもの)、ブレブ(動脈瘤の中にさらに膨らみがあるもの)を有するなどの形態的特徴を持つ脳動脈瘤 となっています。 動脈瘤の治療に際しては、これらのサイズや部位、形のみならず、年齢、健康状態、を考慮して治療する必要があります。 特に、未破裂脳動脈瘤は発見された場合、うつ症状や不安が生じることが報告されており、このことも検討に入れることが必要とされています。 未破裂脳動脈瘤の治療法としては、開頭手術(脳動脈瘤クリッピング術)、血管内治療(脳動脈瘤コイル塞栓術)の2通りの方法があります。 当院では低侵襲な血管内治療を優先して検討しますが、動脈瘤の部位、形状、細かな血管の分岐などをしっかりと評価し、血管内治療のリスクが高い場合は開頭手術を進めることもあります。 当院では開頭手術もできるだけ侵襲を少なくするため、皮膚切開、開頭も小さくするようにしています。 開頭手術(脳動脈瘤クリッピング術) 手術用顕微鏡を用いて、直接動脈瘤を確認し動脈瘤のくびれの部位にチタン製のクリップを挟み、動脈瘤内に血流が入らないようにします。これにより動脈瘤の破裂を予防します。1970年代から日本でも普及し始め、半世紀の経過を経て標準的治療として確立されてきました。 動脈瘤のほとんどは脳を栄養する太い血管に発生します。血管は脳と脳の間(脳槽、脳溝)を走行します。手術の際にはこのスペースを徐々に広げ、脳そのものは損傷しないように行います。予防のための手術であり、術後合併症をきたさないように最大限の注意が必要になります。手術の際には脳組織だけでなく、動脈から分岐する径が1mm以下の非常に細い血管(穿通枝)や細かな静脈も損傷しないようにする必要があり、非常に繊細なテクニックが要求されます。 当院では開頭クリッピング術の際,術前検査も侵襲を伴う脳血管撮影は行っていません.必要な場合のみ行うようにし,より低侵襲な造影CTA検査,腎機能障害がある場合はMRI・MRA検査のみで行っています. 手術の際には,全例で術中モニタリング、術中ICG蛍光造影検査を行っています。術中モニタリングで、クリッピングなどの操作の際に麻痺が出現していないかチェックを行い、蛍光造影検査にてクリッピングを行った後、動脈瘤の遮断がされているかだけでなく、周囲の細かな血管が温存されているか確認を行います。これらを通して、手術に伴うリスクを少しでも軽減するようにしています。 開頭クリッピング術 A:右中大脳動脈瘤(造影CT検査) B:術中所見右中大脳動脈瘤(矢印) C:術中所見動脈瘤クリッピング後(矢印) D:クリッピング術後.動脈瘤は消失(造影CT検査) 当院では再発症例、大きなサイズの動脈瘤や脳の深部に存在する動脈瘤に対しても開頭手術を行ってきました。術中の一次遮断、バイパス術の併用、術中血管撮影やカテーテル手技による血管閉塞など様々なテクニックを駆使して様々な部位、大きさ、形状の動脈瘤治療を行っています 【深部の大型脳底動脈上小脳動脈瘤の症例】 A:左脳底動脈上小脳動脈分岐部動脈瘤(造影CT検査) B:術中所見クリッピング後(矢印:動脈瘤、O:動眼神経、IC:内頚動脈、BA:脳底動脈、SCA上小脳動脈) C:クリッピング術後(造影CT検査) 【動脈瘤に対する低侵襲手術】 また、低侵襲な血管内治療が多く行われるようになり、開頭手術においても低侵襲性を目指して、皮膚切開、開頭を極力小さく手術(低侵襲手術:minimally invasive surgery)を行うようにしています。 A:従来の開頭手術の皮膚切開線(赤矢印)と開頭線(青矢印) B:低侵襲手術の皮膚切開線(赤矢印)と開頭線(青矢印) 治療の合併症としては術中の一時遮断や周囲の細かい血管の閉塞による脳梗塞のリスクが考えられ、当院では、全例に電気生理学的モニタリングや術中ICG蛍光造影を行い、より安全に行うようにしています。 A:クリッピング術後 B:ICG蛍光造影にて動脈瘤内に血流がないこと、周囲の血管が温存されていることを確認。 ■当院での実際の手術の際の流れ 術前検査としては、外来で脳血管造影CT検査、単純MRI検査にて評価を行います。侵襲を伴う脳血管撮影検査は必要な場合のみ行っています。 入院は手術の前日になります。食事は前日まで、水分摂取は当日の朝6時までになります。(検査が必要な場合は前々日に入院していただくこともあります。) 手術当日は、午前8時半ごろに手術室に向かいます。(8時過ぎから家族の面会も可能です) 手術室に入り、全身麻酔を行い、その後各種モニタリングの設定を行います。実際の手術開始は10時前後になります。 手術時間は動脈瘤の部位、サイズなどにより大きく異なりますが、一般的な、前方循環の5-10㎜程度の動脈瘤であれば、3-5時間程度となります。 手術後、麻酔は覚まし、神経症状の異常がないことを確認し、手術室を退室します。そのまま、頭部CT検査を行い、術後出血などの問題がないか確認します。 手術後当日はICU(集中治療室)にて管理を行います。集中治療専門の医師と連携し、術後経過を見ていきます。 手術翌日に一般病棟に戻ります。食事も翌日から再開します。 術後の検査を行い、1週間後に皮膚を固定しているスキンステープラを外します。 約8-10日の入院となります。(早期退院を希望される場合は外来にてスキンステープラを外します。5-6日での退院も可能です) 手術後も引き続き外来にて再発などないか定期的にフォローを行っていきます。詳しく見る
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脳神経外科小児脳神経外科脳神経外科手術支援ロボットROSA Oneについて脳神経外科手術支援ロボット ROSA One ロボットシステム 近畿エリアで初の正式導入(2025年3月 START) 当院では、2025年3月から脳神経外科手術支援ロボットROSA Oneロボットシステムを近畿圏で初めて正式導入しました (全国では6番目の導入) 。 ROSA Oneロボットは手術精度と効率性が高く評価されており、患者様により安全で負担のない手術が可能となり、特に薬剤抵抗性てんかんの患者様への診療強化が期待されます。 当院では、てんかんなどの機能性疾患を中心に脳神経外科・小児脳神経外科での活用を予定しています。 ROSA One Brain ロボット手術とは ROSA Oneロボットシステムは、フランスで開発・製造された最新鋭の脳神経外科手術支援ロボットです。このロボットは高い精度と効率性が必要となる脳神経外科手術を支援するシステムです。特にてんかん外科における定位的深部脳波検査手術 (SEEG) や脳深部刺激装置留置術 (DBS) に活用されます。 薬剤抵抗性てんかんに対するロボット支援下定位的頭蓋内脳波 (SEEG) とは 薬剤抵抗性てんかんは、てんかん発作の原因となっている部位 (てんかん焦点) を正確に同定し切除することで、発作の消失・減少を目指すことが可能です。てんかん焦点を同定する為に従来は開頭を必要とするグリッド法が使用されていましたが、ロボット支援下SEEGは開頭を必要とせず手術時間も短く患者さんの負担も少なくなります。 てんかんの原因となる焦点 焦点を同定する為に、病歴聴取、脳波検査、MRI、核医学検査なども実施します。それでも見つからない時にSEEGが適応となります。 SEEGとてんかん外科手術の流れ ロボット支援下で頭蓋骨に小さい穴をあけて脳内に検査用電極を留置します。 1~2週間ほどかけて、脳波を取得します。てんかん焦点部位を同定したのち、電極を抜去します。 翌日以降 退院(退院にの有無ついては患者さん毎に異なります) 再度入院して外科的な治療を行います。 米国高度てんかんセンター (Level 4) においては9割以上の施設でSEEGが実施されております(1)。特に米国での小児てんかん外科手術施設では約8割の施設でROSA Oneロボットシステムを活用しSEEGが行われています(2)。 従来法であるグリッド法と比較しSEEGによる評価ではてんかん手術後の発作消失率が1.66倍 (てんかんのタイプによっては2倍以上) であり、薬剤抵抗性てんかんの患者さんにより有効な治療を提供することが出来ます(3)(4)。 薬剤抵抗性てんかんに対する脳深部刺激 (DBS) 治療とは 薬剤抵抗性てんかん手術では、良好な発作消失・抑制の期待できる外科的切除を第一に検討しますが、てんかんの種類やてんかん焦点の部位によっては切除術の適応が難しいことがあります。 薬剤抵抗性てんかんに対するDBS治療は、このような患者さんに向けて新しく導入された緩和手術です。脳の深部に留置された電極を通じて刺激することで発作を抑制する手術です。 刺激用の電極は脳の特定の部位に正確に留置される必要があり、当院ではDBS電極の留置をROSA Oneロボット支援下で実施します。 参考 (1)Jay Gavvala et al ;Stereotactic EEG (SEEG) Practices: A Survey of United States Level 4 Epilepsy Centers on behalf of the American SEEG Consortium (J Clin Neurophysiol 2020;00: 1–7) (2) Benjamin C. Kennedy, MD et al , Variation in pediatric stereoelectroencephalography practice among pediatric neurosurgeons in the United States: survey results JNS Pediatrics Published online June 18, 2021; DOI: 10.3171/2021.1.PEDS20799 (3) Lara Jehi, MD et al Comparative Effectiveness of Stereotactic Electroencephalography Versus Subdural Grids in Epilepsy Surgery ANN NEUROL 2021;00:1–13 (4) Tandon N et al,Analysis of Morbidity and Outcomes Associated With Use of Subdural Grids vs Stereoelectroencephalography in Patients With Intractable Epilepsy JAMA Neurology, 2019詳しく見る
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脳神経外科頭蓋咽頭腫頭蓋咽頭腫とは 頭蓋咽頭腫は、脳の正中付近に発生する稀な腫瘍です。視床下部や脳下垂体、視神経などに接して発生します。全脳腫瘍の1〜3%の頻度であり、小児脳腫瘍では5〜10%です。発生年齢に特徴があり、小児期に発生する場合と、成人期に発生する場合があります。 組織学的には良性ですが、しばしば患者さんの寿命を縮める場合があり、良性というよりは低悪性度の腫瘍と見なすべき、と考えられています。ほとんどの場合、嚢胞(袋状の部分)と実質(塊の部分)を含んでおり、嚢胞内はコレステロール結晶を含む濁った液体で満たされています。 頭蓋咽頭腫の臨床症状 通常はゆっくりと発育するので、症状が出てから診断が確定するまでに1年以上かかることも稀ではありません。 頭蓋咽頭腫が視神経を圧迫すると視力低下や視野障害の原因となります。多くの頭蓋咽頭腫の患者さんは、眼科で視野の検査をすると異常が認められます。 また脳下垂体や視床下部などの内分泌器官に影響を及ぼすことにより、さまざまな内分泌障害を来すことがあります。成長ホルモンや、性ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモンなどの分泌が障害され、小児の患者さんでは成長不全、成人の患者さんでは性機能障害などが認められることがあります。 腫瘍による神経組織の圧迫により中等度から重度の頭痛を認めたり、うつ症状を認めることがあります。 頭蓋咽頭腫の診断 頭蓋咽頭腫は、脳MRIおよび脳CT検査により診断を行います。 これらの画像診断に加えて、糖尿病・内分泌内科で詳細なホルモンの検査を行います。 また、眼科で視力や視野の評価を行います。 状況により、言語聴覚士が高次脳機能障害の有無を検査することがあります。 頭蓋咽頭腫の治療 頭蓋咽頭腫に対して有効な治療方法は、外科的な手術による摘出術と、放射線治療の2種類です。頭蓋咽頭腫は腫瘍であるので、これらの治療の後に腫瘍組織が残存していれば、将来再発する可能性があります。そのため、まず手術による完全な摘出を目標とした治療計画を検討します。状況により手術を2回もしくは3回に分けて行う事もありますが、手術の安全性と治療効果を総合的に判断し、個々の患者さんに最適と思われる治療方法を検討します。一般的に、頭蓋咽頭腫の手術治療はリスクが高いので、全摘出を目指さずに部分的に摘出を行って放射線治療を行う治療計画が用いられる場合があります。当院の治療方針は、安全な範囲で最大限の摘出術を行って、全摘出が得られれば以後は経過観察、もし腫瘍の残存があればガンマナイフ等の放射線治療を追加で検討するという考え方をとっています。 ①手術治療 当院では、開頭による腫瘍摘出術と、内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術の両方を施行しています。頭蓋咽頭腫は、腫瘍の大きさや発生部位、周囲の神経および血管等の重要構造物との関係性などに大きな個人差があるため、開頭による摘出術が有効なのか、内視鏡下経鼻的手術が有効なのかをさまざまな画像診断の所見を元に検討し、手術の方法を判断します。最近は内視鏡下経鼻的手術の割合が増加している傾向にあります。 開頭頭蓋内腫瘍摘出術は、腫瘍にアプローチする部分の頭皮を切開し、開頭を行い、脳の隙間の部分を通って腫瘍に到達し、少しずつ腫瘍を摘出してゆく方法です。 頭蓋咽頭腫は、頭部のほぼまん中に発生するので、前方からアプローチする場合もありますし、後方、側方からアプローチを行う事もあります。 これに対して、内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術は、開頭するのではなく、鼻腔側から内視鏡を用いて頭部のまん中に直接的に到達し、下側から腫瘍を摘出する方法です。 脳や神経を経由しないで、最も直接的に腫瘍を摘出できる利点があり、近年は使用されることが多くなっています。 当院では、開頭手術と経鼻内視鏡手術の両方を施行可能な体制をとっています、個々の患者さんに対して最適な方法を計画します。 ②放射線治療 頭蓋咽頭腫に対する放射線治療として、定位放射線治療(SRS, SRT)や、強度変調放射線治療(IMRT)、画像誘導放射線治療(IGRT)などがあります。これらは、全て当院で施行可能です。外科切除後に病変が残存している場合や、当初は全摘出と考えられた腫瘍が再発した場合などの治療に用いられます。現在の技術では、腫瘍周辺の重要組織への放射線被曝を適正に制限し、起こりえる合併症のリスクを最小限にするように厳密に計算・管理された治療放射線を病変に照射することが可能となっています。 実際の治療 図1 図2 この方は、数ヶ月前からのひどい頭痛と両眼の視力障害で、仕事に支障を来すようになり病院を受診され、MRIにて頭蓋咽頭腫と診断されました。 黄色で示した所に4-5センチ径の頭蓋咽頭腫を認めます(図1、図2)。脳の正中で、視神経や視床下部、内頚動脈などの重要構造物に囲まれたところに腫瘍が発生しています。眼科での検査では軽度の視野障害が認められ、言語聴覚士による高次脳機能評価では高次脳機能障害は認めないとの所見でした。糖尿病・内分泌内科でのホルモン検査では、成長ホルモン、性ホルモンなどの内分泌障害を認めました。 この方に対する治療として、手術による積極的な腫瘍摘出を行いました。 従来であれば、開頭による頭蓋底アプローチを行い可能な範囲の腫瘍を切除するやり方をとっていましたが、開頭ではどうしても摘出が困難な部分(視神経の裏側など)に腫瘍が残存してしまうという問題があるので、近年では4K内視鏡による拡大経蝶形骨洞手術(経鼻的に内視鏡を使用して直接腫瘍に到達する手術法:図3~9)で摘出を行いました。 この方法は、開頭では摘出できなかった神経や血管の裏側の腫瘍に直接到達することが可能なため、全摘出のチャンスが大きくなり手術の安全性も格段に向上しています。 図3(視神経の裏側の腫瘍を下側から露出) 図4(重要な脳組織から腫瘍を慎重に剥離) 図5(剥離された腫瘍が摘出された) 図6(摘出された頭蓋咽頭腫) 図7(摘出後の脳組織、全ての腫瘍が完全に摘出されている) 図8(摘出後の閉創、鼻腔と脳組織を腹部の脂肪などで遮断する) 図9(最後に鼻中隔の粘膜で患部を被覆する) この方は、術後のMRIで腫瘍が全て摘出されたことが確認されました。(図10、図11) 図10 図11 頭痛と視野障害は改善し、通常の社会生活を過ごされています。 ホルモンの低下症に対して、内服でホルモンの補充療法を行いながら経過観察しています。 このように、頭蓋咽頭腫の治療には、外科、内科、小児科、眼科、放射線治療、リハビリテーション、などさまざまな専門領域のスタッフが緊密に連携することが不可欠です、当院では経験豊富なスタッフが、しっかりと患者さんとご家族をサポートします。詳しく見る