顔面けいれん

1.顔面けいれんの症状

顔面けいれんとは、顔の片側のけいれん(ぴくつき)を生じる病気です。                                                                                  男性より女性にやや多く、人口10万人当たり10人前後に認められます。                                                                   通常まぶた(眼瞼)周囲から始まり、症状が強くなると、頬や口の周りにまで及ぶようになります。症状が強くなると、発作の間、目が開けられなくなってしまいます。これにより自動車運転や日常生活に支障をきたすこともあります。症状が出現することで、人目を気にして外出が減り、引きこもりの原因になることもあります。                                                                                      この発作は刺激やストレスにても誘発されることがあります。                                                                                    両側に起こる場合は眼瞼けいれんという、別の疾患を検討する必要があります。

 

2.顔面けいれんの原因

顔の運動に関与している顔面神経の根本付近に対して、血管(動脈)のループが圧迫することで起こります。圧迫された顔面神経は脱髄(神経の鞘の変性)をきたし、異常な神経活動を誘発し、顔のけいれんがおこります。

 

3.顔面けいれんの診断

顔面けいれんの診断は、症状の特徴や、広がりかたなどを詳細に調べることが重要です。また、瞬きなどの刺激で誘発されます。                                                                                 顔面けいれんが疑われる場合は、MRIを用いた画像診断を行います。MRIでは顔面神経の根本付近(REZ:root exit zone)に対する脳血管の圧迫の有無を調べます。また、同時に顔面神経周囲に脳腫瘍や血管病変などの異常がないか、脳内に異常がないかなどを調べます。当院では3テスラの高解像度MRIを用いて詳細な画像診断を行っています。

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脳幹から顔面神経が分岐している部位の非常に細かなMRIの撮影になります。左側の顔面けいれんの方のMRIで赤く囲った部位を拡大すると左顔面神経(青矢印)の根本(REZ:黄矢印)に黒く抜けた血管(前下小脳動脈)が当たっています。

 

4.顔面けいれんの治療

顔面けいれんの治療としてまず薬物治療を行いますが、効果が乏しいことがほとんどです。                                                                                                    その際には手術治療ボトックス治療を検討していきます。

①薬物治療

カルバマゼピン(テグレトール)やクロナゼパム、バクロフェン、ガバペンチンなどの報告がありますが、効果は乏しく、下記の治療方法もしくは経過をみられることが多いのが現状です。

 

②ボトックス治療

顔面けいれんをおこしている筋肉に直接ボトックス(ボツリヌス毒素製剤)の注射を行います。効果は90%以上で認められます。効果は投与後23日から出現し、34か月持続します。効果が減弱してきた場合は再治療を行います。(34か月ごとの注射が必要になります。)有害事象として、顔面神経麻痺をきたし、目が閉じられなくなったり、唇が下がったりすることがあります。

 

③手術治療

開頭による神経血管減圧術を行います。上記症状を認め、MRIで顔面神経に対して血管の圧迫が確認され、全身状態が開頭手術に対して大きな問題がない場合には、有効性が高く安全な治療であると考えられます。

 

■当院で行っている顔面けいれんに対する神経血管減圧術

  • 当科の方針として、「安全かつ低侵襲に」行うようにしています。
    皮膚切開は6-8cm程度とし、2-2.5cmの小開頭で行っています。
  • この手術は難聴をきたすことがあり、聴力のモニタリング(術中神経生理学的モニタリング(ABR:聴性脳幹反応))は必須になります。当院ではその他、術中ナビゲーション、神経内視鏡、術中ICG蛍光造影などの機器も使用し、より安全にかつ確実な治療を行います。
  • 手術時間は約3時間で、約1週間程度の入院期間です。(術後症状(痛みなど)を評価し、早期退院を目指します。)
  • 手術を受けた場合、1週間後の症状緩和は90%以上で認められ、概ね70%の患者さんでは症状の消失を認めます。3年後では症状消失は87%程度となり、時間経過とともに治療効果が上昇します。
  • 神経血管減圧術の合併症としては、顔の麻痺(0.4%)、難聴(0.6%)、めまい0.2%、脳梗塞・出血(0.2%)、めまい(0.2%)、と報告されており、そのほか、脳脊髄液漏出(再手術が必要なことがあります)、脳梗塞,出血,感染などのリスクがあります。

 

実際の手術の流れです.

  1. 入院は手術前日になります。食事は前日夜まで、水分摂取は当日朝6時までになります。(検査が必要な場合は2日前に入院していただくこともあります。)
  2. 手術当日は午前8時半ごろに手術室に向かいます。(8時過ぎから家族の面会も可能です)
  3. 手術室に入り、全身麻酔を行い、その後各種モニタリングの設定を行っていきます。実際の手術開始時間は10時半ごろになります。

     

    手術は側臥位、もしくは仰臥位(仰向け)にて行います。

    実際の左片側顔面けいれんの創部

     ナビゲーションシステムを使用し、個々の症例の血管走行を確認し、適した開頭範囲を決定し、術後もできるだけ傷が目立たないように毛髪浅内の小さな皮膚切開で行うようにしています。(黒の直線が皮膚を切開する線です。丸は開頭範囲を想定しています)

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    右片側顔面けいれんの手術 顕微鏡,内視鏡所見

    A:顕微鏡下に圧迫部位を確認。顔面神経(青矢印)の根本で血管(前下小脳動脈:黄矢印)

    B:神経内視鏡を挿入し、圧迫部位を確認。

    C:圧迫している血管を外側によけ、医療用の綿(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)にて外側の錐体骨面に貼り付け、フィブリン糊にて固定を行います。

    D:蛍光造影剤を用いて術中に圧迫血管や周囲の血管の血流が障害されていないことを確認します。

     

     

    手術中には術中モニタリングとして

    聴性脳幹反応(ABR)モニタリング:イヤホンを装着、脳幹の反応を確認し、聴力低下が起こっていないか確認します

    異常筋反応(AMR)モニタリング:顔面けいれんに伴う異常な反応を術中に確認し、圧迫血管をよけることでこの反応が消失しているか確認し、責任血管が十分によけられたか確認します。

     

    手術後、麻酔は覚まし,神経症状の異常がないことを確認し,手術室を退室します。そのまま、頭部CT検査を行い、術後出血などの問題がないか確認します。                                                                     手術後当日はICU(集中治療室)にて管理を行います。集中治療専門の医師と連携し、術後経過を見ていきます。                                                                                        手術翌日に一般病棟に戻ります。食事も翌日から再開します。                                                                                   術後の検査を行い、1週間後に皮膚を固定しているスキンステープラを外します。                                                                                               約8-10日の入院となります。(早期退院を希望される場合は外来にてスキンステープラを外します。5-6日での退院も可能です)