頭蓋咽頭腫
頭蓋咽頭腫とは
頭蓋咽頭腫は、脳の正中付近に発生する稀な腫瘍です。視床下部や脳下垂体、視神経などに接して発生します。全脳腫瘍の1〜3%の頻度であり、小児脳腫瘍では5〜10%です。発生年齢に特徴があり、小児期に発生する場合と、成人期に発生する場合があります。
組織学的には良性ですが、しばしば患者さんの寿命を縮める場合があり、良性というよりは低悪性度の腫瘍と見なすべき、と考えられています。ほとんどの場合、嚢胞(袋状の部分)と実質(塊の部分)を含んでおり、嚢胞内はコレステロール結晶を含む濁った液体で満たされています。
頭蓋咽頭腫の臨床症状
通常はゆっくりと発育するので、症状が出てから診断が確定するまでに1年以上かかることも稀ではありません。
頭蓋咽頭腫が視神経を圧迫すると視力低下や視野障害の原因となります。多くの頭蓋咽頭腫の患者さんは、眼科で視野の検査をすると異常が認められます。
また脳下垂体や視床下部などの内分泌器官に影響を及ぼすことにより、さまざまな内分泌障害を来すことがあります。成長ホルモンや、性ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモンなどの分泌が障害され、小児の患者さんでは成長不全、成人の患者さんでは性機能障害などが認められることがあります。
腫瘍による神経組織の圧迫により中等度から重度の頭痛を認めたり、うつ症状を認めることがあります。
頭蓋咽頭腫の診断
頭蓋咽頭腫は、脳MRIおよび脳CT検査により診断を行います。
これらの画像診断に加えて、糖尿病・内分泌内科で詳細なホルモンの検査を行います。
また、眼科で視力や視野の評価を行います。
状況により、言語聴覚士が高次脳機能障害の有無を検査することがあります。
頭蓋咽頭腫の治療
頭蓋咽頭腫に対して有効な治療方法は、外科的な手術による摘出術と、放射線治療の2種類です。頭蓋咽頭腫は腫瘍であるので、これらの治療の後に腫瘍組織が残存していれば、将来再発する可能性があります。そのため、まず手術による完全な摘出を目標とした治療計画を検討します。状況により手術を2回もしくは3回に分けて行う事もありますが、手術の安全性と治療効果を総合的に判断し、個々の患者さんに最適と思われる治療方法を検討します。一般的に、頭蓋咽頭腫の手術治療はリスクが高いので、全摘出を目指さずに部分的に摘出を行って放射線治療を行う治療計画が用いられる場合があります。当院の治療方針は、安全な範囲で最大限の摘出術を行って、全摘出が得られれば以後は経過観察、もし腫瘍の残存があればガンマナイフ等の放射線治療を追加で検討するという考え方をとっています。
①手術治療
当院では、開頭による腫瘍摘出術と、内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術の両方を施行しています。頭蓋咽頭腫は、腫瘍の大きさや発生部位、周囲の神経および血管等の重要構造物との関係性などに大きな個人差があるため、開頭による摘出術が有効なのか、内視鏡下経鼻的手術が有効なのかをさまざまな画像診断の所見を元に検討し、手術の方法を判断します。最近は内視鏡下経鼻的手術の割合が増加している傾向にあります。
開頭頭蓋内腫瘍摘出術は、腫瘍にアプローチする部分の頭皮を切開し、開頭を行い、脳の隙間の部分を通って腫瘍に到達し、少しずつ腫瘍を摘出してゆく方法です。
頭蓋咽頭腫は、頭部のほぼまん中に発生するので、前方からアプローチする場合もありますし、後方、側方からアプローチを行う事もあります。
これに対して、内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術は、開頭するのではなく、鼻腔側から内視鏡を用いて頭部のまん中に直接的に到達し、下側から腫瘍を摘出する方法です。
脳や神経を経由しないで、最も直接的に腫瘍を摘出できる利点があり、近年は使用されることが多くなっています。
当院では、開頭手術と経鼻内視鏡手術の両方を施行可能な体制をとっています、個々の患者さんに対して最適な方法を計画します。
②放射線治療
頭蓋咽頭腫に対する放射線治療として、定位放射線治療(SRS, SRT)や、強度変調放射線治療(IMRT)、画像誘導放射線治療(IGRT)などがあります。これらは、全て当院で施行可能です。外科切除後に病変が残存している場合や、当初は全摘出と考えられた腫瘍が再発した場合などの治療に用いられます。現在の技術では、腫瘍周辺の重要組織への放射線被曝を適正に制限し、起こりえる合併症のリスクを最小限にするように厳密に計算・管理された治療放射線を病変に照射することが可能となっています。
この方は、数ヶ月前からのひどい頭痛と両眼の視力障害で、仕事に支障を来すようになり病院を受診され、MRIにて頭蓋咽頭腫と診断されました。
黄色で示した所に4-5センチ径の頭蓋咽頭腫を認めます(図1、図2)。脳の正中で、視神経や視床下部、内頚動脈などの重要構造物に囲まれたところに腫瘍が発生しています。眼科での検査では軽度の視野障害が認められ、言語聴覚士による高次脳機能評価では高次脳機能障害は認めないとの所見でした。糖尿病・内分泌内科でのホルモン検査では、成長ホルモン、性ホルモンなどの内分泌障害を認めました。
この方に対する治療として、手術による積極的な腫瘍摘出を行いました。
従来であれば、開頭による頭蓋底アプローチを行い可能な範囲の腫瘍を切除するやり方をとっていましたが、開頭ではどうしても摘出が困難な部分(視神経の裏側など)に腫瘍が残存してしまうという問題があるので、近年では4K内視鏡による拡大経蝶形骨洞手術(経鼻的に内視鏡を使用して直接腫瘍に到達する手術法:図3~9)で摘出を行いました。
この方法は、開頭では摘出できなかった神経や血管の裏側の腫瘍に直接到達することが可能なため、全摘出のチャンスが大きくなり手術の安全性も格段に向上しています。
この方は、術後のMRIで腫瘍が全て摘出されたことが確認されました。(図10、図11)
頭痛と視野障害は改善し、通常の社会生活を過ごされています。
ホルモンの低下症に対して、内服でホルモンの補充療法を行いながら経過観察しています。
このように、頭蓋咽頭腫の治療には、外科、内科、小児科、眼科、放射線治療、リハビリテーション、などさまざまな専門領域のスタッフが緊密に連携することが不可欠です、当院では経験豊富なスタッフが、しっかりと患者さんとご家族をサポートします。
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脳神経外科毛細血管奇形-動静脈奇形毛細血管奇形-動静脈奇形は皮膚の多発性の毛細血管奇形が特徴である稀な遺伝性疾患です.オスラー病と同様に常染色体顕性遺伝なので父親または母親が毛細血管奇形-動静脈奇形の場合は,50%の確率でその子供に遺伝します.原因遺伝子としてRASA1 (ラサワン)とEPHB4 (エフビーフォー)の2つが知られています. 毛細血管奇形は皮膚の毛細血管の拡張による平坦かつ境界明瞭な色素斑で,赤褐色~褐色を呈しています (図1A-C).必ずしも出生時から認められるわけではなく,成長に伴って明瞭となる場合もあります.毛細血管奇形が多発性に認められる場合には毛細血管奇形-動静脈奇形が疑われます. 図1A 図1B 図1C 図1:毛細血管奇形 (A:前額部,B:前腕,C:背中) 毛細血管奇形は赤褐色から褐色を呈する平坦かつ境界明瞭な色素斑で,圧迫すると一時的に色は薄くなる. 多発性に認める場合には毛細血管奇形-動静脈奇形が疑われる. 毛細血管奇形-動静脈奇形では10~30%の割合で,脳・脊髄や頭頚部,四肢などに動静脈奇形や動静脈瘻といった動静脈シャント疾患が合併し,その頻度はRASA1変異によるものの方が高くなります.毛細血管奇形-動静脈奇形に合併する脳の動静脈シャント疾患は脳動静脈瘻,ガレン大静脈瘤,脳動静脈奇形ですが,これらは症状がない限り,外から見つけることができません.しかし症状がでてからだと何らかの後遺症となる危険性があります.したがって毛細血管奇形-動静脈奇形が疑われる患者さん (=皮膚に多発性の毛細血管奇形がある患者さん)には,脳のスクリーニング検査 (MRI)を行うことが勧められます.詳しく見る -
脳神経外科顔面けいれん1.顔面けいれんの症状 3.顔面けいれんの診断 2.顔面けいれんの原因 4.顔面けいれんの治療 ① 薬物治療 ② ボトックス治療 ③ 手術治療 1.顔面けいれんの症状 顔面けいれんとは,顔の片側のけいれん(ぴくつき)を生じる病気です. 男性より女性にやや多く,人口10万人当たり10人前後に認められます. 通常まぶた(眼瞼)周囲から始まり,症状が強くなると,頬や口の周りにまで及ぶようになり,発作の間、目が開けられなくなってしまいます.これにより自動車運転や日常生活に支障をきたすこともあります.症状が出現することで、人目を気にして外出が減り,引きこもりの原因になることもあります. この発作は刺激やストレスにても誘発されることがあります. 両側に起こる場合は眼瞼けいれんという,別の疾患を検討する必要があります. 2.顔面けいれんの原因 顔の運動に関与している顔面神経の根本付近に対して,血管(動脈)のループが圧迫することで起こります.圧迫された顔面神経は脱髄(神経の鞘の変性)をきたし,異常な神経活動を誘発し、顔のけいれんが起こります. 3.顔面けいれんの診断 顔面けいれんの診断は,症状の特徴や,広がりかたなどを詳細に調べることが重要です.また,瞬きなどの刺激で誘発されます. 顔面けいれんが疑われる場合には,MRIを用いた画像診断を行います.MRIでは顔面神経の根本付近(REZ:root exit zone)に対する脳血管の圧迫の有無を調べます.また同時に顔面神経周囲に脳腫瘍や血管病変などの異常がないか,脳内に異常がないかなどを調べます.当院では3テスラの高解像度MRIを用いて詳細な画像診断を行っています. 脳幹から顔面神経が分岐している部位の非常に細かなMRIの撮影になります.左側の顔面けいれんの方のMRIで赤く囲った部位を拡大すると左顔面神経(青矢印)の根本(REZ:黄矢印)に黒く抜けた血管(前下小脳動脈)が当たっています. 4.顔面けいれんの治療 顔面けいれんの治療としてまず薬物治療を行いますが,効果が乏しいことがほとんどです. その際には手術治療,ボトックス治療を検討していきます. ①薬物治療 カルバマゼピン(テグレトール)やクロナゼパム,バクロフェン,ガバペンチンなどの報告がありますが,効果は乏しく,下記の治療方法もしくは経過をみられることが多いのが現状です. ②ボトックス治療 顔面けいれんをおこしている筋肉に直接ボトックス(ボツリヌス毒素製剤)の注射を行います.効果は90%以上で認められます.効果は投与後2-3日から出現し,3-4か月持続します.効果が減弱してきた場合は再治療を行います(3-4か月ごとの注射が必要になります).有害事象として,顔面神経麻痺をきたし,目が閉じられなくなったり,唇が下がったりすることがあります. ③手術治療 開頭による神経血管減圧術を行います.上記症状を認め,MRIで顔面神経に対して血管の圧迫が確認され,全身状態が開頭手術に対して大きな問題がない場合には,有効性が高く安全な治療であると考えられます. ■当院で行っている顔面けいれんに対する神経血管減圧術 当科の方針として,「安全かつ低侵襲に」行うようにしています. 皮膚切開は6-8cm程度とし,2-2.5cmの小開頭で行っています. この手術は難聴をきたすことがあり,聴力のモニタリング(術中神経生理学的モニタリング(ABR:聴性脳幹反応))は必須になります.当院ではその他に術中ナビゲーション,神経内視鏡,術中ICG蛍光造影などの機器も使用し,より安全にかつ確実な治療を行います. 手術時間は約3時間で,約1週間程度の入院期間です(術後,症状(痛みなど)を評価して早期退院を目指します). 手術を受けた場合,1週間後の症状緩和は90%以上で認められ,概ね70%の患者さんでは症状の消失を認めます.3年後では症状消失は87%程度となり,時間経過とともに治療効果が上昇します. 神経血管減圧術の合併症としては,顔の麻痺(0.4%),難聴(0.6%),めまい0.2%,脳梗塞・出血(0.2%),めまい(0.2%),と報告されており,その他に脳脊髄液漏出(再手術が必要なことがあります),感染などのリスクがあります. 実際の手術の流れです. 入院は手術前日になります.食事は前日夜まで,水分摂取は当日朝6時までになります(検査が必要な場合は2日前に入院していただくこともあります). 手術当日は午前8時半ごろに手術室に向かいます(8時過ぎから家族の面会も可能です). 手術室に入り,全身麻酔を行い,その後各種モニタリングの設定を行っていきます.実際の手術開始時間は10時半ごろになります. 手術は側臥位,もしくは仰臥位(仰向け)にて行います. 実際の左片側顔面けいれんの創部 ナビゲーションシステムを使用し,個々の症例の血管走行を確認し,適した開頭範囲を決定し,術後もできるだけ傷が目立たないように毛髪浅内の小さな皮膚切開で行うようにしています(黒の直線が皮膚を切開する線です。丸は開頭範囲を想定しています). 右片側顔面けいれんの手術 顕微鏡,内視鏡所見 A:顕微鏡下に圧迫部位を確認.顔面神経(青矢印)の根本で血管(前下小脳動脈:黄矢印) B:神経内視鏡を挿入し,圧迫部位を確認. C:圧迫している血管を外側によけ,医療用の綿(PTFE:ポリテトラフルオロエチレン)にて外側の錐体骨面に貼り付け,フィブリン糊にて固定を行います. D:蛍光造影剤を用いて術中に圧迫血管や周囲の血管の血流が障害されていないことを確認します. 手術中には術中モニタリングとして 聴性脳幹反応(ABR)モニタリング:イヤホンを装着,脳幹の反応を確認し,聴力低下が起こっていないか確認します. 異常筋反応(AMR)モニタリング:顔面けいれんに伴う異常な反応を術中に確認し,圧迫血管をよけることでこの反応が消失しているか確認し,責任血管が十分によけられたか確認します. 手術後,麻酔は覚まし,神経症状の異常がないことを確認し,手術室を退室します.そのまま頭部CT検査を行い,術後出血などの問題がないか確認します. 手術後当日はICU(集中治療室)にて管理を行います.集中治療専門の医師と連携して,術後経過を見ていきます. 手術翌日に一般病棟に戻ります.食事も翌日から再開します. 術後の検査を行い,1週間後に皮膚を固定しているスキンステープラを外します. 約8-10日の入院となります(早期退院を希望される場合は外来にてスキンステープラを外します。5-6日での退院も可能です).詳しく見る -
脳神経外科小児脳神経外科小児脳動脈瘤小児の脳動脈瘤は稀ですが,くも膜下出血の原因となる疾患として無視できません.成人を含めた動脈瘤全体の1~5%程度を占め,成人の動脈瘤の多くは袋状に膨らんだ嚢状動脈瘤 (図A)ですが,小児ではその割合は40~50%程度,動脈全体が膨らんだ解離性 (紡錘状)動脈瘤 (図B)の割合が高くなります.また小児脳動脈瘤の20~50%は大きさが10mm以上の大型または25mm以上の巨大動脈瘤であることも特徴です.特に巨大動脈瘤ではくも膜下出血以外に脳が圧迫されることで運動麻痺や言語障害などの神経症状で発症することもあります. 図A 図B 図A:嚢状動脈瘤 動脈瘤は正常の脳動脈から袋状に突出している.動脈瘤の根元 (頚部)からは正常の動脈枝を認めることがある. 図B:解離性 (紡錘状)動脈瘤 動脈瘤は脳動脈の一部が全体的に膨らんだ形状となっている. 動脈瘤がなぜできるのかは成人も小児でも分かっていませんが,小児では約1/3に全身性の基礎疾患が認められるため,小児で脳動脈瘤が見つかった際にはそれらの基礎疾患が隠れていないか調べる必要があります. 治療は動脈瘤の部位・大きさなどから外科手術と血管内治療の選択となりますが,これらは成人と概ね変わりないので,詳しくは成人の脳動脈瘤を参照して下さい.詳しく見る