内視鏡下経鼻的下垂体手術

内視鏡下経鼻的下垂体手術

脳下垂体は脳の下面に存在する小さな器官で、たくさんのホルモンを分泌する働きを持っています。脳下垂体およびその周囲にはさまざまな腫瘍が発生しますが、脳の下面で頭部のちょうど中央部分であるため、開頭による手術が難しいところであると言えます。この部分に対する手術治療として、鼻腔から細い内視鏡を挿入して病変に到達する内視鏡下経鼻的下垂体手術が発達しました。

適応

下垂体およびその周囲に発生する腫瘍性疾患が対象となります。非機能性下垂体腺腫、機能性下垂体腺腫(先端巨大症、クッシング病、プロラクチン産生腺腫の一部、TSH産生腫瘍、など)、頭蓋咽頭腫、髄膜腫の一部、斜台部脊索腫、軟骨肉腫、海綿静脈洞部神経鞘腫などです。

手術リスク

本手術法は大きな切開を必要とせず、身体の負担が少ない低侵襲の手術法ですが、一般的には、4〜5%の確率で合併症が出現すると考えられています。幸い当科では現在までに重篤な合併症は発生していません。最近2年間の当科で施行した内視鏡下経鼻的下垂体手術に関連した手術合併症の状況は、

内視鏡下経鼻的下垂体手術に関連した手術合併症
周術期死亡 0%
重度の神経症状悪化 0%
一過性の神経症状悪化(意図しなかったもの) 4%
全身併発症の悪化 0%

 

でした。個々の患者さんにこれらの確率があてはまるわけではありませんが、全体として高い安全性を確保しており安心して手術を受けていただけます。

麻酔方法、手術時間、治療費

全身麻酔下で手術を行います。手術時間は5時間から10時間程度で、腫瘍の部位、大きさ、性状、周囲構造物との関係、および患者さんの状態により手術時間がかわります。
治療費については開頭頭蓋内腫瘍摘出術を参照してください。

手術の流れ

  • 入院は手術の2〜3日前からとなります。担当する耳鼻咽喉科医師による鼻腔内の診察および鼻腔内処置に関する説明を受けて頂きます。また麻酔科による術前診察で問診と全身状態の確認、歯牙のチェックなどを行います。
  • 手術当日、8時45分に手術室に入室となります。
  • 手術台に仰向けになって頂き、点滴による麻酔導入で意識のない状態になります。
  • この後、気管内挿管を行い、全身麻酔の状態とし、頭部の固定、手術部位(鼻腔)の消毒をおこなって手術を開始します。
  • 手術は鼻腔内操作(耳鼻咽喉科)の後に病変摘出(脳神経外科)の順番です。
  • まず耳鼻咽喉科により、鼻腔内で粘膜を切開し、深部の骨を削開して腫瘍の下面を露出させます。腫瘍の近くまで来たら脳神経外科にかわって、内視鏡で腫瘍と正常組織の境界を確認しながら腫瘍の摘出を行います。
  • 全身麻酔を終了して意識を回復させ、頭部CTを施行してICUに入室します。
  • 手術の経過をご家族に説明し、ICUで面会して頂きます。

術後の一般的な経過

通常は、手術翌日に一般病棟に移動します。
通常の開頭腫瘍摘出術と同様に、座ったり、飲水の練習を行います。可能であれば食事を開始します。手術直後は手術部位などの疼痛に対して痛み止めが良く効きますので、痛みがあれば積極的に痛み止めを使用します。
状態が落ち着いていれば歩いたり、トイレに行ったりするようになります。
手術から2〜3日めで、病棟内歩行、シャワー浴などを徐々に行います。
血液検査やMRIなどの画像検査を必要に応じて行い、腫瘍の摘出度の確認をします。定期的に耳鼻咽喉科で鼻内の処置を行います。
通常の術後経過としては、おおよそ平均して6〜8日間ぐらいの入院です。

退院後の生活

鼻処置についての説明は耳鼻咽喉科から聞いて頂きます。
復職や復学、旅行、スポーツ、車の運転などの時期については主治医にご相談ください。

実際の手術の写真

手術写真1

この患者さんは、クッシング病という病気で、下垂体に出来た微小な腫瘍が、高血圧や脂質異常症、全身のむくみなどのホルモンの過剰症状を出していました。

脳下垂体を露出させたところです。
青丸で囲まれた部分がこの患者さんの病気の本体(微小腺腫)で、腫瘍の大きさはおよそ6mmでした。

手術写真2

腫瘍の周囲を剥離して、摘出を行っているところです。

手術写真3

全ての腫瘍組織を摘出したところです。正常の下垂体は損傷されておらず、腫瘍組織が完全に摘出されています。この患者さんの場合は術後にホルモンが正常化し、クッシング病が治りました。現在追加治療なしで良好な経過をとっています。