髄膜腫
特徴
髄膜腫とは,脳を包んでいる膜 (くも膜、硬膜)から発生する腫瘍です.多くは良性の腫瘍であり,中高年の女性に多く発生することが知られています.これらの膜は脳の全周を包んでいるため,脳表の何処からでも発生します.腫瘍が発生した部位により名称が異なります (円蓋部髄膜腫、大脳鎌髄膜腫、鞍結節部髄膜腫など).
腫瘍の発生原因は完全には明らかになっていませんが,過去の頭部への放射線治療歴や一部の遺伝子異常が原因となり得ると言われています.
良性であることから,ゆっくりと大きくなる性質を持っており,症状が出にくいという特徴があります.
髄膜腫は,何らかの症状がある場合や,症状がなくても増大傾向にある場合,脳幹や視神経などの重要構造物に対して将来的に悪影響が生じると思われる場合などに治療適応となります.
当院における治療方法
小さな腫瘍で,無症候性である場合には治療介入をせずに定期的に経過観察をします.治療を行う場合は,基本的に良性腫瘍であるため外科的切除 (手術による摘出術)が最も効果的な治療法です.しかし同じ髄膜腫でも発生部位,周囲の神経や血管との関係,腫瘍の硬さなどにより手術のリスクが異なるため,それぞれの患者様個別の治療法が検討されます.
当院では,手術リスクを減じるために,カテーテルによる腫瘍栄養血管塞栓術を行う場合があります.またどの部分が手術による摘出が適するか,ガンマナイフによる治療が適するかを術前に詳細に検討し,複数の治療法を最も効率的に組み合わせて最大限の治療効果を得られるようにしています.
定位的放射線照射 (ガンマナイフ)は,腫瘍に対して集中的に放射線を照射し,周囲の組織には放射線の影響を出さないようにする治療です.大きくない頭蓋底発生の髄膜腫に対しては極めて有効な治療法で,ガンマナイフ単独もしくは手術治療と組み合わせて腫瘍を治療します.
これらの治療方法 (手術による摘出術,ガンマナイフ治療,経過観察)の選択は,①手術による摘出がどれぐらい可能か,②患者さんの全身状態 (全身麻酔手術で問題となるような合併疾患の有無),③腫瘍の増大有無および増大速度,などを考慮し個別に判断します.
代表的な治療例
(左) 右の視神経外側に発生した腫瘍 (前床突起部髄膜腫)が視神経を内側に圧迫している.
(右) 頭蓋底アプローチを用いた手術により腫瘍が全摘出され,視神経の圧迫が解除されている.
術前に認めていた視野欠損は術後に消失した.
(左) 左の大脳半球上方に発生した腫瘍 (傍矢状洞部髄膜腫)が左大脳半球を圧迫している.
(右) 栄養血管塞栓術および腫瘍摘出術により腫瘍が全て摘出され,大脳の圧迫が解除されている.
術前に認めていた認知症、歩行障害は術後に消失した.
(上)錐体斜台部髄膜腫 (脳深部に発生した髄膜腫,白い腫瘤として見える)により,顔面の感覚異常を来している.
(下)術中神経生理モニタリングとナビゲーションシステムを使用した頭蓋底アプローチにより,腫瘍を全摘出した.
術後,顔面の感覚異常は消失した.
聴神経および顔面神経に近接した錐体骨部髄膜腫に対する、術中脳神経モニタリング併用下の腫瘍摘出術
この方は,ふらつきの進行で脳腫瘍を指摘され当科紹介となりました.86才と高齢の方ですが,もともとは全く認知症のない,非常にお元気な方でした.MRIでは4㎝の錐体骨部髄膜腫が,小脳と脳幹を圧迫していることがわかりました.髄膜腫は脳を包んでいる硬膜という膜から発生する良性の脳腫瘍であり,適切な摘出術により治癒が得られる疾患です.
以前であれば,86歳の方に対する脳腫瘍の摘出術は一般的に勧められることはありませんでした.しかし近年ではこの方のように元気な高齢者の患者さんが増加しており,当科では病状を詳細に検討したうえで手術治療をお勧めする場合があります.麻酔管理,周術期管理等を含めて高齢者の方が無理なく治療を受けていただける体制をとっております.
この方の場合,手術をしないと失調症状の進行による歩行障害がさらに進行することが予想され,全身状態を評価したうえで手術した方が良いだろうと判断いたしました.
今回の腫瘍の発生部位は,顔面神経 (顔を動かす神経)と、聴神経 (音を聴く神経)に接しており,摘出に伴ってこれらの神経が障害されるリスクが懸念されました.つまり手術によって音が聞こえなくなったり,顔の筋肉を動かすことが出来なくなったりする可能性があるということです.このような状況下において,当院では手術による神経機能障害リスクを回避するために,詳細な術中神経機能モニタリングを用いています.全身麻酔下の開頭頭蓋内摘出術では,腫瘍を摘出している際に神経機能が温存されているのか,あるいは障害されたのか,実際に麻酔を覚ましてみないとわかりませんが,特殊な神経刺激に対する筋電図や脳波などの神経反応を手術中リアルタイムに観察することにより術中の神経機能をモニタリングし,手術による損傷リスクを低下させる事ができます.専任の臨床検査技師が手術に立ち会い,腫瘍の摘出中に,神経機能の変化がないかどうかを監視しています (図1,2).当院では脳腫瘍,下垂体腫瘍,脳動脈瘤や脊椎脊髄疾患に対してこのような術中神経機能モニタリングを施行しており,手術合併症のリスクが極めて低い良好な成績を達成しております.
無事に腫瘍が摘出されました (図3).術後のリハビリテーションも順調に進み,新たな神経脱落症状なく,ふらつきも改善し自宅退院されました.
高齢者の方の手術は今後増加すると思われますが,当院ではこのように万全の体制で高齢者の方の開頭手術を行い,安心して治療を受けていただけるように努めて参ります.
図1 この患者さまの術前MRI画像
右錐体骨髄膜腫が小脳と脳幹を圧迫し,ふらつきの原因となっています (黄色点線).
また腫瘍の前方では顔面神経と聴神経を腫瘍が圧迫しています (青矢印).
図2 術中神経生理モニタリング
全身麻酔導入後,患者さまの聴力および顔面神経機能を電気生理学的にモニタリングするため,さまざまな電極を留置します (左).手術中は専任の臨床検査技師が神経機能を監視し,手術による神経機能悪化のリスクを回避します (右).
図3 錐体骨髄膜腫の摘出
腫瘍の摘出は手術用の顕微鏡を使用し,図のように腫瘍 (青矢印)と脳組織 (緑矢印)を少しずつ剥離して進めてゆきます.この患者さまの場合には腫瘍の奥に聴神経と顔面神経が存在しているので,摘出操作による神経の損傷に注意して手術を進めます.
図4 腫瘍摘出後の状態
腫瘍の摘出がほぼ終了し,顔面神経 (黄矢印)と聴神経 (青矢印)が腫瘍の奥で露出された状態です.電気刺激で顔面神経機能を確認しています.脳幹の圧迫が解除され,神経機能が温存されました.手術時間は約5時間でした.
図5 術後MRI
術後のMRIでは,腫瘍が摘出されていることがわかります.手術後3日目より歩行リハビリテーションを開始しました.数日でトイレ歩行ができるようになり,試験外泊を経て術後23日目に自宅退院となりました.現在も元気に外来に通院されており,非常に良好な経過をとられました.
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脳神経外科もやもや病もやもや病とは日本で最初に発見された疾患で両側の内頚動脈の終末部,前大脳動脈,中大脳動脈近位部が進行性に狭窄・閉塞する疾患です.それに伴い付近にもやもや血管と呼ばれる異常血管網(その多くは元々ある正常な細い血管)が発達します (図1).様々な研究がおこなわれていますが,原因はいまだに不明です. 1957年に竹内らが「両側内頚動脈形成不全症」として発表し,その後1969年に鈴木らにより,血管撮影検査を行った際にもやもや血管が,たばこの煙が「もやもや」立ち上がっている様子に似ていることから「もやもや病」と命名され,現在に至っています.最近は病態を表すため,「ウィリス動脈輪閉塞症」とも呼ばれています. 図1 図1:もやもや病 正常 (左)では内頚動脈から前大脳動脈,中大脳動脈が分岐し,そこから細い穿通枝が分岐している. もやもや病 (右)では血管内膜が肥厚することで,内頚動脈先端から前大脳動脈,中大脳動脈近位部が狭窄・閉塞して,代わりに穿通枝が異常発達し (もやもや血管),ネットワークを形成している. 遺伝子の解析も行われ,2014年にRNF213の遺伝子異常の報告がされています.ただし,直接病気を引き起こす原因遺伝子ではなく,もやもや病の患者に多く見られるといった関連遺伝子であり,現在も様々な研究がおこなわれています.自費診療となりますが,当院では院内でRNF213の遺伝子検査が可能です. もやもや病の特徴 この疾患の特徴としては東アジアに多く,やや女性に多い疾患です.また,約10%程度に家族性にみられます. 発症形式は大きくは虚血発症,出血発症に分けられます. 虚血発症は脳を栄養する血流量が足らなくなることで,一過性の症状(一過性脳虚血発作)や永続的な症状(脳梗塞)を呈します.症状としては片側(両側同時に出ることはほぼありません)の脱力(運動障害),しびれ(感覚障害),言葉が出ない (言語障害)が代表的ですが,稀に脳の症状やけいれん発作,意図しない上下肢の運動(不随意運動),見えにくい(視野障害),けいれん発作などもあります.脳動脈は呼吸が早くなった時に細くなる特徴があり,したがって激しい運動の後や泣いた時,吹奏楽の演奏の際や熱いものを冷ます(ラーメンなどをフーフー冷ますとき)などに,症状が出現しやすくなります. 出血発症は,内頚動脈などが狭窄・閉塞することで不足する脳血流を代償しているもやもや血管に負担がかかり,破綻することで脳内に出血します.時にもやもや血管に動脈瘤が形成され,それが破裂することでも脳出血を起こします.出血を起きると,突然の激しい頭痛や嘔吐を認め,さらには意識障害を呈することもあります.また虚血性と同様に運動障害や感覚障害,言語障害が出現することもあります. 発症年齢は10歳以下(小児例)と30-40歳代(成人例)の2つのピークがあります. 小児例の発症形式はほとんどが虚血発症によるものです. 成人例の場合は半数が若年型と同様の虚血発症で,残りの半数が出血発症となります. もやもや病の治療 脳梗塞,一過性脳虚血発作を起こした直後 (急性期)は,通常の脳梗塞治療と同様に血液をさらさらにする薬剤や,脳血流を改善する薬剤,脳を保護する薬剤などを使用する内科的治療を行います. 脳出血を起こした直後は,出血を起こした部位,大きさに応じて外科手術 (血腫除去術や脳室ドレナージ術)が必要になることがあります.またもやもや血管に出血の原因となる動脈瘤を認めた場合には,再出血を予防するため血管内治療 (カテーテル治療)を行うこともあります. 虚血発症にせよ,出血発症にせよ再発予防には頭蓋内外血行再建術 (バイパス術)が勧められます. 頭蓋内外血行再建術 頭蓋内外血行再建術とは頭蓋外の血管と脳の血管とつなぎ,脳血流を増やしてあげる治療法です.それには直接血行再建術と間接血行再建術の2通りがあります. 直接血行再建術は,頭皮を栄養する浅側頭動脈を採取し,脳の表面の動脈に直接吻合することで,脳血流を上昇させます (図2).手術直後から早期に血流が上昇します. 図2 図2:直接血行再建術 図の左方のように頭皮の血管を脳表の中大脳動脈に直接吻合し,頭皮の血管から脳内の血管に血流を供給する. 間接血行再建術は,皮下にある筋肉や骨膜,脳の表面の硬膜などを脳表に留置することで,これらの血流が徐々に脳に入るようになります. 治療としてはこれらのどちらかもしくは両方を行います. 成人例においては間接血行再建術単独の治療は効果が乏しいとされ,直接と間接の両方同時,または直接血行再建単独が行われます. 小児例はいずれにおいても効果が期待できるとされています. 当院では成人例,小児例とも直接と間接の両方同時に行っています. ■ 当院での実際の手術の際の流れ 術前検査として,造影CT検査,MRI検査,脳血流検査などを行います.また脳血管撮影検査も,脳血流の血行動態(どの穿通枝が拡張しているか,どの領域に血流が足りていないかなど)を把握するために成人では全例で行っています.脳血管撮影検査は入院にて行っています. 以下は,実際の手術の際の流れになります.手術の際の入院は前日に行います (ただし出血,脳梗塞など発症されて入院された方は,そのまま入院を継続して,治療を行うこともあります). 1.入院は手術の前日になります.食事は前日夕食まで,水分摂取は当日の朝6時までになります. 2.手術当日は,午前8時半ごろに手術室に向かいます (8時過ぎから家族の面会も可能です). 3.手術室に入り,全身麻酔を行い,各種手術の設定を行い,実際の手術開始は10時過ぎになります. 手術時間は手術方法や縫合の難易度などで大きく異なります.通常複合バイパス術(2本の直接血行再建術+間接血行再建を行います.)であれば7-8時間前後となります. 手術後は,麻酔を覚まし,手術室を退室します.そのままCT検査を行い,術後出血などの問題がないか確認します. 手術後当日から翌日はICU(集中治療室)にて管理を行います.集中治療専門の医師と連携し,術後経過を見ていきます.翌日にMRI検査,脳血流検査を行い,評価を行います. 術1週間前後にもMRI検査,脳血流検査を行いもやもや病術後の合併症の評価を行います. 浅側頭動脈を採取するため,皮膚の血流が悪くなると考えられ,皮膚を固定しているスキンステープラや糸の抜去は2週間目に行います. 入院期間は症状の出現などを評価し2-3週間になります. 当院では,多くのもやもや病患者さんをフォローしています. もやもや病は画像検査にて偶然に見つかることもあります.症状がない場合は外科手術 (血行再建術)は必要ありませんが,症状の出現がないか,症状がなくても狭窄の進行や小さな出血がないかなど,定期的に経過を見ていく必要があります. また外科治療を行っても,それで終了にはなりません.その後も血管の狭窄の進行,脳梗塞,脳出血のリスクは0にはならないので,長期的に経過を見ていく必要があります.詳しく見る -
脳神経外科頚部内頚動脈狭窄症脳は左右の内頚動脈,椎骨動脈によって栄養されており,内頚動脈は首のレベルで総頚動脈から枝分かれします.その起始部が狭くなったものが頚部内頚動脈狭窄症で,脳梗塞の原因となります.狭くなる原因のほとんどは動脈硬化ですが,稀に頚部の放射線治療後の変化や大動脈炎症候群などもあります.動脈硬化によって分厚くなった血管壁にはコレステロールや脂肪が溜まっておりプラーク (粥腫 (じゅくしゅ))と呼ばれます (図1).プラークの一部が脳へ飛んでいくことで脳梗塞が起こりますが、その他にも狭窄部位を通る血液が固まり,血栓が脳へ飛んでいくこと、狭窄が進行すると脳血流が低下することでも脳梗塞を起こします.脳梗塞は片側 (狭窄と反対側)の手足の麻痺や言語障害を起こしますが,プラークや血栓が眼への血管 (眼動脈)へ飛んでいくと,片眼 (狭窄と同じ側)の視野が欠ける黒内障を起こすことがあります. 図1 図1:頚部内頚動脈狭窄症 脳は左右の内頚動脈と椎骨動脈によって栄養されている. 頚部内頚動脈狭窄症は内頚動脈の起始部に,動脈硬化によるプラークが形成され,血管が狭窄している. 頚部内頚動脈狭窄症は脳梗塞や黒内障を起こした,または起こしかけた(数分で症状が消失)際に見つかる (症候性)だけでなく,頚動脈エコーなどで偶然に発見される (無症候性)こともあります.いずれも治療は脳梗塞の予防または再発予防が目的となります.それにはまず内科的治療が基本となり,動脈硬化の危険因子である高血圧,糖尿病,脂質異常症のコントロールや禁煙,節酒などの生活習慣の改善,そして狭窄の程度によっては血をサラサラにする薬 (抗血小板剤)の内服も行います.症候性にせよ無症候性にせよ,狭窄が軽度な場合には内科的治療のみで予防を行っていきます.しかし症候性で狭窄が中等度以上の場合や無症候性でも狭窄進行して高度になると,内科的治療に加えて外科的治療も行った方が再発の予防効果が高くなります.外科的治療には血管内手術 (カテーテル手術)である頚動脈ステント留置術と直達手術である内膜剥離術があり,当院では基本的に頚動脈ステント留置術を選択していますが,そのリスクが高いと判断された場合には内膜剥離術をお勧めすることもあります. 頚動脈ステント留置術 頚動脈ステント留置術は原則,局所麻酔で行います.太ももまたは腕の動脈からガイディングカテーテルと呼ばれる直径2-3mmの管を総頚動脈まで進め (図2A)、その中からメッシュ状の金属の筒 (ステント)を狭窄部に留置して拡げます (図2D).狭窄部を拡げる際にプラークが飛散することがあり,それが脳へ飛んでいくと術中に脳梗塞となるため,それを防ぐための道具 (風船型 (図2B),フィルター型 (図2C))を,あらかじめ狭窄部より奥の内頚動脈に留置して手技を行います.風船型かフィルター型の選択は,患者さんのプラークの性状 (柔らかいかどうか),長さ,血管の曲がり具合,脳血管の状態などによって決定します. 図2A 図2B 図2C 図2D 図2A-D:頚動脈ステント留置術 太ももまたは腕からガイディングカテーテルを総頚動脈まで誘導し (2A),その中を通して金属の筒 (ステント)を狭窄部に留置して拡げる (2D).狭窄部を拡げた際に飛散したプラークが脳へ飛んでいかないように,風船 (バルーン)型 (2B)またはフィルター型 (2C)の道具 (デバイス)をあらかじめ狭窄部より奥の内頚動脈に留置しておく.風船型は血流を一時的に遮断した状態でステントを留置し,飛散したプラークは最後に吸引カテーテルで吸引・除去する.一方,フィルター型では血流は流れたままで,飛散したプラークはフィルター内に回収される. 内膜剥離術 当院ではより低侵襲な頚動脈ステント留置術を第一選択として検討しますが,大動脈や総頚動脈の動脈硬化が非常に強い患者さんやプラークが非常に柔らかいまたは非常に硬い患者さん,造影剤が使用できない患者さんなどでは,内膜剥離術をお勧めすることがあります. 内膜剥離術は全身麻酔で行います.首の皮膚を切開し,筋肉と筋肉の間から狭窄部を含む頚部血管 (総頚動脈,内頚動脈,外頚動脈)を露出させます.プラークが脳へ飛んでいかないように血流を一時的に遮断した状態で,内頚動脈から総頚動脈に割を入れて,その内腔にあるプラークを直視下に剥離して切除します (図3A).一時的な血流遮断によって脳血流の低下が懸念される患者さんでは,内シャントと呼ばれるチューブ状の道具 (デバイス)を総頚動脈と内頚動脈の間に留置して,血流を流した状態でプラークの剥離・切除を行うこともあります (図3B). 図3A 図3B 図3A, B:内膜剥離術 内膜剥離術は総頚動脈,内頚動脈,外頚動脈の血流を一時的に遮断した状態で,内頚動脈に割を入れて,直視下にプラークを剥離して切除する (3A). 内シャントと呼ばれる道具 (デバイス)を総頚動脈と内頚動脈の間に留置して,血流を流した状態でプラークの剥離・切除を行うやり方 (3B)もあり,当院では原則,内シャントを使用している. 当院では傷が目立たないように,首のしわに沿った皮膚切開(横切開)を行っています.また手技は多少煩雑になりますが,遮断に伴う血流低下及び脳梗塞の予防のため,原則,全例で内シャントを使用しています.詳しく見る -
脳神経外科脳動脈瘤脳動脈瘤は,脳の動脈の一部分が瘤状に膨らんだもので,通常は太い動脈にできることが多く,この瘤が大きくなり,壁の薄い部分が破れて,くも膜下出血を起こします.くも膜下出血は,命に関わる重篤な疾患で,救命できても後遺症がでる可能性もあります.くも膜下出血が起こると,約30%の患者さんが命を落とし,救命できても約30%で何らかの障害が残ります. このようなくも膜下出血の原因となる脳動脈瘤は,小さいものを含めると40歳以上の成人の5%前後(100人に5人前後)に認められます.脳動脈瘤ができる成因は十分に解明されていませんが、遺伝的な要因や環境的な要因があり、特に高血圧や喫煙などによって血管壁にストレスがかかり、壁が弱くなることが関連していると考えられています. 脳ドックなどのMRI検査で偶然発見されることも多く,破れていない脳動脈瘤は未破裂脳動脈瘤と呼ばれます.未破裂動脈瘤は通常,症状を呈することはありません.しかし脳神経の近くにできた動脈瘤では,大きくなることで神経を圧迫して,視力・視野障害や眼球運動障害 (物が2重に見える),眼瞼下垂 (まぶたが垂れ下がる)などの神経症状が出現することもあります. 未破裂動脈瘤が破れればくも膜下出血となりますが,破裂の危険性は動脈瘤の部位,大きさ,形状,数などによって異なり,また高血圧をもつ患者さんや喫煙者などで高くなることが知られています.現時点では破裂を完全に予防するための内科的治療はないため,未破裂脳動脈瘤の患者さんの多くは,破裂の危険因子(高血圧、喫煙など)のコントロールや不安な気持ちへのケアをしながら年に1-2回の画像による経過観察(動脈瘤の増大や形状変化がないか)を行っています.しかし患者さんの年齢・全身状態や動脈瘤の部位・大きさ・形状などから、生涯での破裂の危険性が治療 (手術)の危険性を上回ると判断した場合には破裂予防のための治療をお勧めしています. 以下に日本の脳卒中ガイドラインにおける未破裂脳動脈瘤の治療適応を示します. 未破裂脳動脈瘤の治療適応 (脳卒中治療ガイドライン2021改訂2025) 未破裂脳動脈瘤の自然歴 (破裂リスク)から考慮すれば,下記の特徴を有する病変はより破裂の危険性の高い群に属し,治療 (手術)などを含めた慎重な検討をすることは妥当である. 大きさ5~7mm以上の未破裂脳動脈瘤 大きさが5mm未満であっても, 症候性の脳動脈瘤(動脈瘤によって神経症状が出現しているもの) 前交通動脈瘤および内頚動脈―後交通動脈分岐部動脈瘤 Dome neck aspect比が大きい(入口が狭く風船のように膨らんでいるもの),不整形(いびつな形のもの),ブレブ(動脈瘤の中にさらに膨らみがあるもの)を有するなどの形態的特徴を持つ脳動脈瘤 また増大傾向にある未破裂脳動脈瘤も,治療 (手術)を再検討することが勧められています. 繰り返しになりますが,未破裂脳動脈瘤の治療 (手術)目的は破裂 (くも膜下出血)の予防にあります.したがって当院では動脈瘤の部位,大きさ,形状だけでなく,患者さんの年齢,健康状態 (生活年齢),さらには手術の危険性などをトータルに考慮して,手術をした方が良いと判断した場合にのみ,手術をお勧めしています. 未破裂脳動脈瘤の手術には,開頭手術(クリッピング術),血管内治療(コイル塞栓術,フローダイバーター留置術)の2通りの方法があります.破裂予防が目的ですので,当院ではより確実に予防が行える方法をお勧めしており,予防効果が開頭手術と血管内治療で同じ程度であれば,より低侵襲な血管内治療を優先しています. 血管内治療 (コイル塞栓術など) このようなくも膜下出血の原因となる脳動脈瘤に対する血管内治療は大きくコイル塞栓術とフローダイバーター留置術に分けられます.コイル塞栓術は1990年代から行われており,その長所・短所はよく知られています.一方,フローダイバーター留置術はコイル塞栓術の欠点を補うべく開発されたもので,2010年代から使用されています. コイル塞栓術でもフローダイバーターでも,血管内治療は全身麻酔で行います.また未破裂脳動脈瘤の場合は,治療による脳梗塞が起こらないように血をサラサラにする薬 (抗血小板剤)を一定期間,内服してもらいます. コイル塞栓術 マイクロカテーテルを脳動脈瘤内へ誘導し,そこからプラチナ製のコイルを瘤内に留置します.瘤内にコイルを十分に留置することで血流が入らなくなり,動脈瘤は消失します (図1). 図1A 図1B 図1:脳動脈瘤に対するコイル塞栓術 太ももまたは腕からカテーテル (マイクロカテーテル)を脳動脈瘤内まで誘導し,瘤内にプラチナ製のコイルを留置する (1A).複数本のプラチナコイル留置することで,瘤内に血流が入らなくなり,脳動脈瘤は消失する (1B). 実際にはこのようなシンプルな方法ではなく,多くの場合で,動脈瘤の入口から正常血管へコイルがはみ出さないようにするため,様々な工夫を行います (図2A-C). 図2A 図2B 図2C 図2:コイル塞栓術の様々な工夫 2A:ダブルカテーテルテクニック マイクロカテーテルを2本使用して,コイル塞栓術を行う. 2B:バルーン支援下コイル塞栓術 風船 (バルーン)を膨らませて,一時的に動脈瘤の入口をカバーした状態で,コイル塞栓術を行う. 2C:ステント支援下コイル塞栓術 脳動脈瘤がある正常血管にメッシュ状の金属の筒 (ステント)を留置して動脈瘤の入口をカバーし,コイル塞栓術を行う フローダイバーター留置術 従来のコイル塞栓術では治療が難しい脳動脈瘤や再発が多い大きなサイズの脳動脈瘤などに対しては,フローダイバーターを用いた治療を行います.フローダイバーターは網目の非常に細かい特殊構造の金属でできており,血流の向きを変える効果があります.筒状 (ステント)のものは,脳動脈瘤がある正常血管に動脈瘤の入口を覆うように留置して,動脈瘤に流れ込む血流を減少させ,最終的に瘤の縮小・消失が得られます (図3A).また動脈瘤内に直接留置する籠状のフローダイバーターもあります (図3B). 図3A 図3B 図3:脳動脈瘤に対するフローダイバーター留置術 フローダイバーターは網目の非常に細かい特殊金属でできており,血流の向きを変える効果を持っている.筒状のもの (3A)は脳動脈瘤がある正常血管に留置して,動脈瘤内へ血流が入らないようにする. 一方,籠状のもの (3B)は動脈瘤内に直接留置して,瘤内に血流が入らないようにする. 開頭手術 (クリッピング術) 手術用顕微鏡を用いて,直接動脈瘤を確認し動脈瘤のくびれの部位にチタン製のクリップを挟み,動脈瘤内に血流が入らないようにします.これにより動脈瘤の破裂を予防します.1970年代から日本でも普及し始め,半世紀の経過を経て標準的治療として確立されてきました. 動脈瘤のほとんどは脳を栄養する太い血管に発生します.血管は脳と脳の間(脳槽、脳溝)を走行します.手術の際にはこのスペースを徐々に広げ,脳そのものは損傷しないように行います.予防のための手術であり,術後合併症をきたさないように最大限の注意が必要になります.手術の際には脳組織だけでなく,動脈から分岐する径が1mm以下の非常に細い血管(穿通枝)や細かな静脈も損傷しないようにする必要があり,非常に繊細なテクニックが要求されます. 当院では開頭クリッピング術の際,術前検査も侵襲を伴う脳血管撮影は行っていません.必要な場合のみ行うようにし,より低侵襲な造影CTA検査,腎機能障害がある場合はMRI・MRA検査のみで行っています. 手術の際には,全例で術中モニタリング,術中ICG蛍光造影検査を行っています.術中モニタリングで,クリッピングなどの操作の際に麻痺が出現していないかチェックを行い,蛍光造影検査にてクリッピングを行った後,動脈瘤の遮断がされているかだけでなく,周囲の細かな血管が温存されているか確認を行います.これらを通して,手術に伴うリスクを少しでも軽減するようにしています. また,できるだけ侵襲を少なくするため皮膚切開,開頭も小さくするようにしています. 開頭クリッピング術 A:右中大脳動脈瘤(造影CT検査) B:術中所見右中大脳動脈瘤(矢印) C:術中所見動脈瘤クリッピング後(矢印) D:クリッピング術後.動脈瘤は消失(造影CT検査) 当院では再発症例,大きなサイズの動脈瘤や脳の深部に存在する動脈瘤に対しても開頭手術を行ってきました.術中の一次遮断,バイパス術の併用,術中血管撮影やカテーテル手技による血管閉塞など様々なテクニックを駆使して様々な部位,大きさ,形状の動脈瘤治療を行っています. 【深部の大型脳底動脈上小脳動脈瘤の症例】 A:左脳底動脈上小脳動脈分岐部動脈瘤(造影CT検査) B:術中所見クリッピング後(矢印:動脈瘤、O:動眼神経、IC:内頚動脈、BA:脳底動脈、SCA上小脳動脈) C:クリッピング術後(造影CT検査) 【動脈瘤に対する低侵襲手術】 また,低侵襲な血管内治療が多く行われるようになり,開頭手術においても低侵襲性を目指して,皮膚切開、開頭を極力小さく手術(低侵襲手術:minimally invasive surgery)を行うようにしています. A:従来の開頭手術の皮膚切開線(赤矢印)と開頭線(青矢印) B:低侵襲手術の皮膚切開線(赤矢印)と開頭線(青矢印) 治療の合併症としては術中の一時遮断や周囲の細かい血管の閉塞による脳梗塞のリスクが考えられ,当院では全例に電気生理学的モニタリングや術中ICG蛍光造影を行い,より安全に行うようにしています. A:クリッピング術後 B:ICG蛍光造影にて動脈瘤内に血流がないこと,周囲の血管が温存されていることを確認 ■当院での実際の手術の際の流れ 術前検査としては,外来で脳血管造影CT検査,単純MRI検査にて評価を行います.侵襲を伴う脳血管撮影検査は必要な場合のみ行っています. 入院は手術の前日になります.食事は前日まで,水分摂取は当日の朝6時までになります(検査が必要な場合は前々日に入院していただくこともあります). 手術当日は、午前8時半ごろに手術室に向かいます(8時過ぎから家族の面会も可能です). 手術室に入り,全身麻酔を行い,その後各種モニタリングの設定を行います.実際の手術開始は10時前後になります. 手術時間は動脈瘤の部位,サイズなどにより大きく異なりますが,一般的な前方循環の5-10㎜程度の動脈瘤であれば,3-5時間程度となります. 手術後,麻酔は覚まし,神経症状の異常がないことを確認し,手術室を退室します.そのまま頭部CT検査を行い,術後出血などの問題がないか確認します. 手術後当日はICU(集中治療室)にて管理を行います.集中治療専門の医師と連携して,術後経過を見ていきます. 手術翌日に一般病棟に戻ります.食事も翌日から再開します. 術後の検査を行い,1週間後に皮膚を固定しているスキンステープラを外します. 約8-10日の入院となります(早期退院を希望される場合は外来にてスキンステープラを外します。5-6日での退院も可能です). 手術後も引き続き外来にて再発などないか定期的にフォローを行っていきます.詳しく見る