覚醒下開頭頭蓋内腫瘍摘出術について
覚醒下頭蓋内腫瘍摘出術
脳腫瘍の中には、脳そのものの中に発生するものがあります。このような腫瘍を摘出しようとする際には、脳に切開を加えたり、時には脳そのものを切除したりする必要が生じます。一方で、脳腫瘍の中には摘出度(どれぐらい腫瘍を摘出するか)がその後の再発しやすさに影響するものがあり、そのような場合にはできるだけ多くの腫瘍組織を摘出した方が良いということになります。
このように、腫瘍を積極的に摘出することは、脳の機能を損傷するリスクを生じることと隣り合わせの状況となるので、脳の機能を温存しながらできるだけ積極的な腫瘍摘出を行うための方法として覚醒下頭蓋内腫瘍摘出術が発達してきました。
この手術方法は、全身麻酔下に開頭を行い、腫瘍と周囲の脳組織が露出された後に麻酔を切って患者さんを覚醒状態とし、会話ができるような状況で、さまざまな高次脳機能検査、運動機能の評価をしながら腫瘍を摘出することにより、手術による神経症状の悪化を回避する治療方法です。当院では、覚醒下手術に習熟したチーム(脳神経外科、麻酔科、手術室看護師、言語聴覚士、理学療法士、臨床検査技師)により患者さんをしっかりとサポートします。積極的な腫瘍の摘出を行いながら、患者さんの神経症状(失語の有無、麻痺の有無)をその場で詳しく観察・評価し、同時に神経生理モニタリングでも神経機能をチェックし、良好な腫瘍の摘出を可能にしております。
覚醒下で手術を行っている際、患者さんの痛み、吐き気、暑さ寒さなどの負担が大きくなっていないかどうかを手術室看護師がチェックします。それぞれの患者さんに無理のない覚醒下手術を受けていただけるよう、それぞれの方にあわせた手術計画を事前に検討しています。
当施設は、安全な覚醒下手術を施行できる十分な体制を設けており、日本Awake surgery学会の認定施設となっています。
覚醒下頭蓋内腫瘍摘出術の流れ
実際の手術の流れを説明します。
左前頭葉の運動性言語野に発生した神経膠腫に対して言語機能を温存することを目的とした覚醒下手術を行う場合です。
術前
術前準備として、術前の患者さんの神経機能を言語聴覚士が評価します。失語症があるのかどうか含めて高次脳機能の検査を行います。
次に機能MRI(fMRI)を用いて脳の機能を画像化します。この方の場合には腫瘍の後方に言語機能が存在しているのではないかと思われました。
次に患者さんと手術の打ち合わせをします。手術中はどのような体勢でいるのか、実際にどのような事をして、失語症の有無を評価するのか(しりとりや、カードの物品呼称など)、痛みや吐き気を感じたときにはどのようにすればよいか、などについて、詳しく説明を聞いて頂きます。手術室看護師は、自分が好きな音楽のCDなど持ち込んでもらったり、部屋の温度はどれくらいが良さそうか、腰や背中にクッションを入れておいた方がいいかどうか、などの聞き取りをさせて頂きます。
手術当日
手術当日、手術室に入室し、麻酔がかかる前に頭部の向きや身体の姿勢について、確認をとっておきます。(図1)
次に静脈麻酔を用いて麻酔がかかった状態とし、口から人工呼吸のための器具を入れて全身麻酔の状態とします。
皮膚切開部分を消毒し、十分に局所麻酔を行い覚醒時に痛みを感じないように準備します。
全身麻酔の状態で手術を開始、皮膚や頭蓋骨を展開し、病変部が露出された状態にします。
次に麻酔の薬を中止し、患者さんを覚醒状態にします。(図2)
麻酔科医師が痛みや吐き気などがないかどうかの確認をとり、患者さんの状態が安定しているかどうか評価します。
脳外科医師が、病変部の周囲の脳に対して電気刺激を加え、失語症状などがどの部位で生じるのかを言語聴覚士が判断していきます。(図3)
この患者さんでは、腫瘍の直上およびごく近い周囲の電気刺激では言語症状が認められず、腫瘍の後方の部分で失語症が生じることが分かりました。
この結果をうけて、腫瘍を全摘出することが可能であると判断し、患者さんの神経症状を評価しながら、最終的には腫瘍を全摘出することができました。(図4,図5)
術後
術後、言語機能は温存されました。一過性の記憶障害を認めましたが、徐々に改善しました。患者さんは術後2週間で自宅退院され現在は職場復帰をされています。
術前後のMRIで、言語野に存在していた腫瘍が全摘出されたことが確認されました。(図6)
この患者さんの、術後のヒアリングですが、「手術前、覚醒下手術に対する不安はありました、事前に手術の流れの説明は受けていましたが、やはり実感がわかないというか、想像ができないので心配でした。手術当日は、一回麻酔で寝た後に徐々に意識が戻ってきて、ああ手術なんだなと分かりました。痛みは思ったほど感じなかったです。たまに咳が出たり、口が渇いたりしましたが、リハビリの先生の指示もよく聞こえたので、自分なりに、指示通り手足を動かしたり会話をしたり、概ね問題なくできました。途中で一度頭がいたくなって、そのことを看護師さんに伝えました。痛み止めを注射してもらって楽になったと思います。手術そのもので、辛いことはなかったと思います。術後のリハビリもスムーズでしたのでよかったと思います。ただ仕事に戻ったときは、人の名前を思い出せなかったりということがあって、しばらく少し苦労しました。」
大阪市立総合医療センターでは...
大阪市立総合医療センターでは、覚醒下手術を安全・確実に受けて頂くため、さまざまな部門が協力し、患者さんを術前、術中、術後と一貫してしっかりとサポートする体制をとっています。(図7)
当院で治療を希望される方は、地域医療連携室から診察予約をとって頂き、担当医からの説明を受けていただけます。
※写真はすべて患者さんの許諾を得て使用しています。
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脳神経外科頭蓋咽頭腫頭蓋咽頭腫とは 頭蓋咽頭腫は、脳の正中付近に発生する稀な腫瘍です。視床下部や脳下垂体、視神経などに接して発生します。全脳腫瘍の1〜3%の頻度であり、小児脳腫瘍では5〜10%です。発生年齢に特徴があり、小児期に発生する場合と、成人期に発生する場合があります。 組織学的には良性ですが、しばしば患者さんの寿命を縮める場合があり、良性というよりは低悪性度の腫瘍と見なすべき、と考えられています。ほとんどの場合、嚢胞(袋状の部分)と実質(塊の部分)を含んでおり、嚢胞内はコレステロール結晶を含む濁った液体で満たされています。 頭蓋咽頭腫の臨床症状 通常はゆっくりと発育するので、症状が出てから診断が確定するまでに1年以上かかることも稀ではありません。 頭蓋咽頭腫が視神経を圧迫すると視力低下や視野障害の原因となります。多くの頭蓋咽頭腫の患者さんは、眼科で視野の検査をすると異常が認められます。 また脳下垂体や視床下部などの内分泌器官に影響を及ぼすことにより、さまざまな内分泌障害を来すことがあります。成長ホルモンや、性ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、副腎皮質刺激ホルモンなどの分泌が障害され、小児の患者さんでは成長不全、成人の患者さんでは性機能障害などが認められることがあります。 腫瘍による神経組織の圧迫により中等度から重度の頭痛を認めたり、うつ症状を認めることがあります。 頭蓋咽頭腫の診断 頭蓋咽頭腫は、脳MRIおよび脳CT検査により診断を行います。 これらの画像診断に加えて、糖尿病・内分泌内科で詳細なホルモンの検査を行います。 また、眼科で視力や視野の評価を行います。 状況により、言語聴覚士が高次脳機能障害の有無を検査することがあります。 頭蓋咽頭腫の治療 頭蓋咽頭腫に対して有効な治療方法は、外科的な手術による摘出術と、放射線治療の2種類です。頭蓋咽頭腫は腫瘍であるので、これらの治療の後に腫瘍組織が残存していれば、将来再発する可能性があります。そのため、まず手術による完全な摘出を目標とした治療計画を検討します。状況により手術を2回もしくは3回に分けて行う事もありますが、手術の安全性と治療効果を総合的に判断し、個々の患者さんに最適と思われる治療方法を検討します。一般的に、頭蓋咽頭腫の手術治療はリスクが高いので、全摘出を目指さずに部分的に摘出を行って放射線治療を行う治療計画が用いられる場合があります。当院の治療方針は、安全な範囲で最大限の摘出術を行って、全摘出が得られれば以後は経過観察、もし腫瘍の残存があればガンマナイフ等の放射線治療を追加で検討するという考え方をとっています。 ①手術治療 当院では、開頭による腫瘍摘出術と、内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術の両方を施行しています。頭蓋咽頭腫は、腫瘍の大きさや発生部位、周囲の神経および血管等の重要構造物との関係性などに大きな個人差があるため、開頭による摘出術が有効なのか、内視鏡下経鼻的手術が有効なのかをさまざまな画像診断の所見を元に検討し、手術の方法を判断します。最近は内視鏡下経鼻的手術の割合が増加している傾向にあります。 開頭頭蓋内腫瘍摘出術は、腫瘍にアプローチする部分の頭皮を切開し、開頭を行い、脳の隙間の部分を通って腫瘍に到達し、少しずつ腫瘍を摘出してゆく方法です。 頭蓋咽頭腫は、頭部のほぼまん中に発生するので、前方からアプローチする場合もありますし、後方、側方からアプローチを行う事もあります。 これに対して、内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術は、開頭するのではなく、鼻腔側から内視鏡を用いて頭部のまん中に直接的に到達し、下側から腫瘍を摘出する方法です。 脳や神経を経由しないで、最も直接的に腫瘍を摘出できる利点があり、近年は使用されることが多くなっています。 当院では、開頭手術と経鼻内視鏡手術の両方を施行可能な体制をとっています、個々の患者さんに対して最適な方法を計画します。 ②放射線治療 頭蓋咽頭腫に対する放射線治療として、定位放射線治療(SRS, SRT)や、強度変調放射線治療(IMRT)、画像誘導放射線治療(IGRT)などがあります。これらは、全て当院で施行可能です。外科切除後に病変が残存している場合や、当初は全摘出と考えられた腫瘍が再発した場合などの治療に用いられます。現在の技術では、腫瘍周辺の重要組織への放射線被曝を適正に制限し、起こりえる合併症のリスクを最小限にするように厳密に計算・管理された治療放射線を病変に照射することが可能となっています。 実際の治療 図1 図2 この方は、数ヶ月前からのひどい頭痛と両眼の視力障害で、仕事に支障を来すようになり病院を受診され、MRIにて頭蓋咽頭腫と診断されました。 黄色で示した所に4-5センチ径の頭蓋咽頭腫を認めます(図1、図2)。脳の正中で、視神経や視床下部、内頚動脈などの重要構造物に囲まれたところに腫瘍が発生しています。眼科での検査では軽度の視野障害が認められ、言語聴覚士による高次脳機能評価では高次脳機能障害は認めないとの所見でした。糖尿病・内分泌内科でのホルモン検査では、成長ホルモン、性ホルモンなどの内分泌障害を認めました。 この方に対する治療として、手術による積極的な腫瘍摘出を行いました。 従来であれば、開頭による頭蓋底アプローチを行い可能な範囲の腫瘍を切除するやり方をとっていましたが、開頭ではどうしても摘出が困難な部分(視神経の裏側など)に腫瘍が残存してしまうという問題があるので、近年では4K内視鏡による拡大経蝶形骨洞手術(経鼻的に内視鏡を使用して直接腫瘍に到達する手術法:図3~9)で摘出を行いました。 この方法は、開頭では摘出できなかった神経や血管の裏側の腫瘍に直接到達することが可能なため、全摘出のチャンスが大きくなり手術の安全性も格段に向上しています。 図3(視神経の裏側の腫瘍を下側から露出) 図4(重要な脳組織から腫瘍を慎重に剥離) 図5(剥離された腫瘍が摘出された) 図6(摘出された頭蓋咽頭腫) 図7(摘出後の脳組織、全ての腫瘍が完全に摘出されている) 図8(摘出後の閉創、鼻腔と脳組織を腹部の脂肪などで遮断する) 図9(最後に鼻中隔の粘膜で患部を被覆する) この方は、術後のMRIで腫瘍が全て摘出されたことが確認されました。(図10、図11) 図10 図11 頭痛と視野障害は改善し、通常の社会生活を過ごされています。 ホルモンの低下症に対して、内服でホルモンの補充療法を行いながら経過観察しています。 このように、頭蓋咽頭腫の治療には、外科、内科、小児科、眼科、放射線治療、リハビリテーション、などさまざまな専門領域のスタッフが緊密に連携することが不可欠です、当院では経験豊富なスタッフが、しっかりと患者さんとご家族をサポートします。詳しく見る
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脳神経外科下垂体腺腫 | 脳神経外科特徴 脳下垂体とは、脳の底にぶら下がっている小さな器官です。身体にホルモンを分泌する働きを持っています。ホルモンは全部で8種類あり、身体を正常に保つ上で非常に重要です。 脳下垂体に発生する代表的な腫瘍が下垂体腫瘍と呼ばれる良性の腫瘍です。これは腫瘍自体がホルモンを分泌しないタイプと不適切にホルモンを分泌するタイプにわかれます。 ホルモンを分泌しない腫瘍 ホルモンを分泌する腫瘍 非機能性下垂体腺腫 プロラクチン産生腺腫 成長ホルモン産生腺腫 (先端巨大症・アクロメガリー) 副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫 (クッシング病) 上記すべての腫瘍に共通の症状として、腫瘍によって視神経が圧迫された時に視野の外側が見えにくくなるという症状が生じます(両耳側半盲)。 また下垂体に腫瘍が発生した場合、正常の脳下垂体ホルモンの機能低下が生じることがあります。 この場合は適切に薬による補充療法を行う必要があります。 当院における治療方針 下垂体腫瘍は、脳神経外科による手術だけではなく、様々な科が協力して診断と治療を行う事が重要です。当院では、内分泌内科が術前の下垂体機能の評価や薬物治療の効果判定を行い、耳鼻咽喉科が手術時および術後の鼻内処置を行っています。脳神経外科は外科的な治療方法の検討(内視鏡下経鼻的下垂体腫瘍摘出術・開頭頭蓋内腫瘍摘出術・ガンマナイフ治療)を行い、下垂体機能をできるだけ温存しながら最大限の腫瘍摘出を行います。また術後に内分泌内科による下垂体機能の評価と、必要時に薬物治療の追加を行います。このように円滑な他科連携治療を行う事で、術後のQOL(生活の質)を高く保つ事が出来、早期の社会復帰が可能になります。 下垂体腫瘍に対する様々な手術方法 ①開頭による顕微鏡下腫瘍摘出術 ②顕微鏡による経蝶形骨洞腫瘍摘出術 ③内視鏡下経鼻的下垂体手術 ④手術用顕微鏡 ⑤ハイビジョン内視鏡 ①と②は手術用顕微鏡を用いた手術法で、従来下垂体手術で用いられていた方法です。 現在はハイビジョン内視鏡を用いた③の術式を用いるようになり手術の有効性および安全性がさらに向上しています。 内視鏡下経鼻的下垂体手術について 非機能性下垂体腺腫 この腫瘍は、視神経が腫瘍によって圧迫されて眼が見えにくくなり発症する事が多いので、視神経に対する圧迫を解除する目的で手術治療を行います。安全に摘出できる部分を手術で取り除き、血管に巻き付いた所など摘出にリスクの伴う部分は放射線治療(ガンマナイフ治療)を必要に応じて追加するという方法をとっています。手術直後から眼の見え方は良くなります。一般的に術後の下垂体機能は温存されますが、術前より下垂体機能の低下がある場合などは、必要によりホルモン補充療法をします。全く無症状で偶然に発見される事もありますが、この場合には詳しく検査を行った上で経過観察を選択する場合もあります。 視力障害で発症した非機能性下垂体腺腫、腫瘍が正常下垂体と視神経を強く圧迫している 内視鏡下経蝶形骨洞手術により腫瘍が全摘出され、脳下垂体と視神経が見えるようになっている 術直後より視力障害は正常化し下垂体機能は温存された。術後約1ヶ月で社会復帰となった プロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ) プロラクチンというホルモンが腫瘍により過剰産生されることにより無月経となり、女性側の不妊の原因となることが多い疾患です。この疾患は、ドパミン作動薬という薬の効果が極めて高いため、手術ではなく、内科的治療が第一選択となります。この薬はプロラクチン値を低下させ腫瘍を小さくさせます。腫瘍を完全に消滅させるわけではないので、一定期間内服を継続させる必要があります。薬の効果があまりない、もしくは薬の副作用が強くて内服継続が困難である場合、手術による効果が高いと判断される場合などには手術治療を検討します。 成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症、アクロメガリー) 腫瘍が成長ホルモンを過剰産生し、身体の様々な症状を呈してくる疾患です。緩徐に発症するために長い間気付かれずに放置されている場合があります。手足が大きく、分厚くなり顎や額が突出します、唇や舌が肥大して声が低くなります。高血圧や糖尿病、脂質異常症、心臓病、脳卒中などを発症しやすくなり、平均寿命が短くなります。このため積極的な治療が必要です。 手術による腫瘍摘出術が治療の第一選択です。完全な腫瘍組織の摘出により根治が期待できます。全摘出できるかどうかは腫瘍の大きさ、進行度によって異なります。全摘出ができない場合であっても可及的に腫瘍組織を摘出しておく事がその後の治療効果に影響します。手術治療の後で、必要があれば薬物治療(ソマトスタチンアナログなど)や放射線治療(ガンマナイフ)などを検討します。 他の下垂体腫瘍と同様に、難病指定疾患で治療が難しいと考えられていますが、当科では外科治療および内科治療ともに、最先端の治療を受けて頂く事が可能です。 ACTH産生下垂体腺腫(クッシング病) ACTH(副腎皮質刺激ホルモン)というホルモンが腫瘍により過剰産生される疾患です。ホルモン異常により顔が丸くなる(満月様顔貌)や、体幹部が太く手足が細くなる(中心性肥満)などの特徴的な症状を示し、体毛が濃くなり、にきびが増えて、皮膚の色素が濃くなってまだら模様になってきます。病気が進行すると、筋力低下、易感染性を発症します。高血圧、糖尿病、脂質異常症や骨粗鬆症などの生活習慣病と類似した合併症を来します。 この腫瘍はMRIなどの画像診断で写らない事も多いため、腫瘍がどこにあるのかを詳細に調べる事が非常に重要です。わずかでも取り残しがあると将来的に再発する可能性が高いため、できるだけ確実に腫瘍組織を全摘する方法をとります。 手術による全摘が困難な場合には過剰なホルモン産生を抑制する薬物療法や、ガンマナイフ治療を考慮します。 (左)急激な視力障害で発症した下垂体腺腫、腫瘍による視神経の圧迫を認める。 (中)内視鏡下経蝶形骨洞手術により全摘出の状態となった。視力は発症前の状態まで回復した。 (右)ハイビジョン内視鏡による摘出中の光景、腫瘍組織と周辺組織との境界が明瞭に区別されている。詳しく見る
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脳神経外科神経膠腫(グリオーマ) | 脳神経外科特徴 この疾患には以下が含まれます。 毛様性星細胞腫 びまん性星細胞腫 乏突起神経膠腫 退形成性星細胞腫 神経膠芽腫 神経膠肉腫 大脳神経膠腫症 脳実質に存在する神経膠細胞(グリア細胞)から発生する腫瘍です。この中には上に示すように悪性度が高いものからあまり高くないものまで色々な種類の腫瘍が含まれています。腫瘍の発生した部位、腫瘍組織の悪性度などにより様々な神経症状を呈します。神経膠腫に対する治療は、第一に開頭による腫瘍摘出術を行って、可能な限り腫瘍組織を摘出し病理診断を確定させます。この際に脳機能を温存しながら徹底的な腫瘍の摘出を行うために様々な工夫をします(術中病理診断、覚醒下手術、術中蛍光診断、術中神経生理モニタリング、ナビゲーションシステムなど)。摘出した腫瘍組織から病理診断を行うと同時に腫瘍組織の遺伝子変異の解析を行い、腫瘍の悪性度評価と化学療法などの治療効果予測などを行います。これらの情報を元に長期的な治療計画をたてて腫瘍の制御を行います。 当院における治療方法 ①開頭腫瘍摘出術、②局所放射線治療、③抗がん剤による化学療法、④経過観察、のいずれかもしくはこれらの組み合わせにより治療を行います。神経膠腫では、まず手術による腫瘍組織の摘出を最大限に行うことが最初の目標です。脳に発生した腫瘍を徹底的に摘出する事と、脳機能を確実に温存する事は、互いに相反することですが、当院ではこれらをともに達成するため、覚醒下手術、術中ナビゲーションシステム、術中神経生理モニタリングシステム、術中病理診断、術中蛍光診断、等を使用して手術治療を行っております。摘出された腫瘍組織で病理組織診断を確定させ、また腫瘍組織の遺伝子変異解析を合わせて行い、これらの情報から最良の放射線化学療法の検討を行います。 神経膠腫は、四肢の麻痺や失調症状、失語症、記銘力障害、てんかんなどの神経症状をきたす事がありますが、当院ではこれらの症状に対して、早期から理学療法、作業療法、言語聴覚療法による機能回復訓練を実施します、医療ソーシャルワーカーや地域医療施設との連携の元に早期の社会復帰へ向けた完全なチーム医療を提供します。また、痛み、精神的な不安感、抑うつ症状などに対して緩和医療科、リエゾンチームとの緊密な連携をとって、これらの辛い症状を軽減させるように努めています。 左前頭葉発生の神経膠芽腫を認める、腫瘍は言語野に存在しているため、手術による失語症を来す可能性がある 覚醒下開頭腫瘍摘出術を行い、腫瘍を全摘出した。術後に失語症は認めなかった。 左の側頭葉から内側の島回にかけて腫瘍(びまん性星細胞腫)を認める 開頭腫瘍摘出術を行い、腫瘍を95%以上摘出した。手術により術前認めていた痙攣発作は消失し、新たな神経脱落症状は認めなかった 覚醒下開頭頭蓋内腫瘍摘出術 覚醒下開頭頭蓋内腫瘍摘出術について 膠芽腫に対する腫瘍治療電場療法 膠芽腫に対する腫瘍治療電場療法について詳しく見る