大阪市立総合医療センター,Osaka City General Hospital

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腎臓よもやま話2 腎不全と金魚の水槽2

腎臓よもやま
金魚の水槽2


金魚を生かすには? 

前回は、腎不全と金魚の水槽ということで、ヒトの体でも金魚の水槽でも、窒素化合物を処理することがとても大切であり、人体においてその働きを担う腎臓の重要性をあらためて気づかされたのでした。

さて、今回は、死んでしまった金魚たちをどのように飼育し始めていれば死なさずにすんだのか、そのコツについて考えてみました。 すると、驚くべきことに『腎不全』の患者さんに対して、すでに行われている治療法と、全くもって似ていることが判明しました。それらについてお話していきたいと思います。

コメットと朱文金

コツ① 1週間はエサをあげない

金魚にとって毒になる窒素化合物 (アンモニア)は、エサの中のタンパク質から作られます。だから、たくさんエサを与えると、たくさんアンモニア(毒)が発生します。そして、この毒を分解するバクテリアが当初は少ないために、毒がどんどんたまってしまい金魚を死に追いやるのです。このため、飼育し始めの1週間はエサを与えないようにする必要があるのです。

このことは、ヒトの『腎不全』に対する食事療法:タンパク制限と類似しています。腎臓が弱っているときにタンパク質をたくさん取ると、窒素化合物が排泄しきれずにどんどん貯まってしまいます。これによって尿毒症が進行し、末期腎不全に陥り易くなるのです。だから、食事療法:タンパク制限は『腎不全』の治療としてとても大切なことです。

さて、金魚の話に戻りますが、エサのやりすぎは、金魚にとって他の意味でも危険なことです。というのも、金魚には、目の前に来たエサは満腹であろうがどんどん食べてしまうという習性があります。さらに、金魚には胃が無くて、食べた物が直接腸に入るため、エサをやりすぎると腸にエサがどんどんたまり、腸閉塞になって死んでしまうのです。エサのやりすぎには注意しましょう。


コツ② 活性炭やバクテリア、水草などを水槽に入れる

とにかく発生して貯まった窒素化合物を吸着したり、吸収したりしてやろうというものです。特に活性炭は強力に窒素化合物を吸着するらしく、よい方法のようです。私の購入した濾過フィルターの中にも、少量の活性炭は入っていました。しかし、効果があまりなかったのは、その量が少なかったからでしょう。

この活性炭は、『腎不全』の治療薬としても使われています、インダキシル硫酸などの窒素化合物を腸管で吸着して、便と一緒に排泄するというものです。便秘になりやすく、また、服用時に口の中がジャリジャリしてしまうために飲みにくい薬剤ですが、できれば内服したいです。

バクテリアのもとは、水槽により早くバクテリアが繁殖してくれることを助けてくれるので、手に入れば必ず入れたいところです。水草は成長に窒素化合物を必要としますので、幾分かは吸収してくれるとは思いますが、即効性はないでしょう。実際、近所で大量に採ってきたアナカリスを入れていましたが、初めの数週間に関して効果はありませんでした。

活性炭
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コツ③ 適度に水替えをする

貯まった窒素化合物を水ごと除去してやろうというものです。これが最も効果的な方法です。ただし、水槽内の水を一気に変えてしまうと、金魚にとって環境の変化が激しすぎて、体調不良や死亡の原因になります。また、アンモニアなどの窒素化合物を分解してくれるバクテリアも一緒に捨てることになります。このため、水槽の1/3程度の量の水を、3日に1回程度の頻度で変えてやる必要があります。

これは、『腎不全』にとっての、透析(血液透析・腹膜透析)療法にあたります。末期腎不全に陥ってしまい、自前の腎臓で窒素化合物を体外に排泄できなくなった場合は、透析によって水と一緒に体内から抜き取ってしまうか、腎臓移植しかありません。これらの方法が無かった1960年以前は、末期腎不全に陥った人は皆、尿毒症で亡くなっておられたのです。このため、血液透析の場合は、標準で週に3回、1回3~4時間の透析を、腹膜透析の場合は1日4回ほど透析液の交換をする必要があります。これらには、日常生活多くの時間をかけることになり、腎不全の患者さんにとってかなりの負担になるのですが、生命維持のために不可欠です。

さいごに

以上、金魚の水槽とヒトの体において、窒素化合物を処理する方法についてみてきました。結構共通する点が多く、興味深いなあと思うと同時に、結局、物理的に窒素化合物を除去してやる水替えと透析療法が最も効果的な方法であることに変わりはないと思われるのでした。

なお、このたびは、金魚すくいでゲットした金魚を突然飼育することになった場合の方法を記載しました。一般家庭で金魚を飼い始めるのは、このようなケースが多いかと思われ、これまでのお話をご参考の上、飼育にチャレンジして下さい。ただし、金魚を飼い始める際に最もよいのは、あらかじめ水槽を用意して、活性炭やバクテリアの元等も前もっていれておいて、水槽の環境を十分に整えた上で、飼育し始めることのようですので、できればそちらをお薦めします。

3匹金魚

森川 貴

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