大阪市立総合医療センター,Osaka City General Hospital

TEL.06-6929-1221

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腎臓・高血圧内科

IgA腎症:一番よくある腎炎

医師からのメッセージ

イラスト

次のような場合、IgA腎症の可能性がありますので、
ご来院ください。
①尿検査で、タンパク尿、血尿が続く
②のど風邪の後、赤茶色のおしっこが続く

Q&A

IgA腎症って、どんな病気ですか?

IgA腎症は、腎臓の中に100万個近くある糸球体という、ろか装置にIgA(免疫グロブリンA)というタンパク質がへばりついて、炎症などの悪さをする病気です。この悪さのせいで、血尿やタンパク尿などがみられるようになると、だんだんと腎臓が力を落としていきます。腎生検を受けた患者さんの30-40%くらいがこの病気で、一番よくみられる腎炎です。

IgA腎症は、いつ頃からわかってきたのですか?

1968年にフランス人のBerger先生らによって、世界で初めて報告されました。この頃は、腎不全になることの少ない、それほど悪くない病気とされていました。しかし、1990年代になって、何の治療もしないと、20年後には40%近くの患者さんが、透析を必要とする末期腎不全になることが示されました。だんだんと、油断できない病気であることがわかってきたのです。1990年以降は、早期診断や数々の治療(レニン・アンジオテンシン系阻害薬、ステロイド(パルス)療法、扁桃摘出術など)の進歩によって、悪くなる前に治せることも多くなってきました。

IgA腎症は、どんな『きっかけ』で、みつかるのですか?

IgA腎症がみつかる『きっかけ』は、

①学校や職場の健診、病院の尿検査(タンパク尿、血尿): 80%
②肉眼的血尿(赤茶色のコーラみたいな、おしっこ): 12%
③むくみや尿の減少: 8%

です。

日本では、健診・検尿が広まっているので、タンパク尿や血尿だけで、自覚症状が無く腎臓がそれほど弱っていない時にみつかることが多いです。このため、腎臓が弱る前の早期にIgA腎症をみつけて治療を行うことで、透析にならないようにすることが可能になってきています。

肉眼的血尿は、風邪や、のどの炎症の後、12~72 時間後くらいに出てくるコーラみたいな、おしっこです。これがあった場合、むくんだり、おしっこが急に減ったりして、時には、腎臓がけっこう早く悪くなることがあるので、要注意です。他には、ご家族がIgA腎症で、ご本人もIgA腎症ということが、10%くらいあるので、一応、気にかけておく必要があります。

きっかけ

IgA腎症は、どんな仕組みで起こるのですか?

はっきりとはわかっていませんが、考えられている仕組みはあります。

のどの扁桃腺や鼻の奥への感染などの刺激によって、形の変なIgAが血の中に増える。
② このIgAに対して別のIgAやIgGなどのタンパク質が作られる
③ 形の変なIgAと、これに反応するIgGやIgAが大きなタンパク質の塊をつくる
④ この塊が腎臓の糸球体に、へばりついて炎症などの悪さをする、

というものです。

病気の起こり初めは、炎症が少しだけですので、血尿がみられる程度です。しかし、炎症がひどくなって糸球体の全体に広がると、タンパク尿も出てきます。さらに進むと、糸球体自体が働かなくなり、働ける糸球体の数が減っていき、腎臓の力がだんだんと落ちてしまいます。

わかりやすく例えますと、悪さをするタンパク質の塊は、『火だね』のようなもので、尿を作る工場を燃やして火事を起こします。火事が少しのボヤ程度であれば血尿のみで済みますが、どんどん広がるとタンパク尿が出てきます。さらに、火事が続くと工場全体が燃えてしまうように、糸球体が壊れてしまいます。

IgA腎症は、どのように診断されるのですか?

IgA腎症は、腎生検でのみ診断できます。腎臓の糸球体にIgAがへばりついていることを確認する必要があるからです。また、腎生検の様子が、腎臓の弱り具合や、治療が効きやすいかどうかの参考になりますので、治療法の決定の参考になります。当院では、これまでに650人以上のIgA腎症の患者さんを、診断・治療しております。

IgA腎症は、どのように治療されるのですか?

gA腎症と一口に言っても、患者さんによって病状はさまざまで、これによって、治療法は大きく変わってきます。日本腎臓学会のIgA腎症診療ガイドライン2017によりますと、腎臓の力(GFR:糸球体ろか量)タンパク尿の量(1日当たりの)によって、図1のような治療が薦められています。それらの代表的なものについて解説します。

★保存療法

食事療法: 減塩(一日6g以下)、タンパク制限(状態によります)、エネルギー調整(食べ過ぎない)

日常生活: 適度な運動、禁煙、適度な飲酒 (ビール350ml、日本酒1合、ワイングラス1杯程度) 。ただし、週2日は休肝日を作りましょう。毎日飲むと肝臓が弱ります。

★薬物療法・手術

① レニン・アンジオテンシン系阻害薬(血圧を下げる薬)

この薬は、糸球体の中の圧力を下げて、仕事量を減らすことで、タンパク尿を減らしたり、腎臓の力が落ちるのを抑えたりします。薬を始めた頃に、一時的に血の検査でクレアチニンが上がったり、eGFRが下がったりすることがありますが、その後、検査が悪くならなければ、効果を発揮していると考えられます。タンパク尿が多い場合は、特に薦められます。

② ステロイド薬

ステロイド薬は、IgAが原因で起こす炎症を抑える (火事を消す)ことで、血尿やタンパク尿を減らしたり、腎臓の力が落ちるのをおさえたりします。血尿やタンパク尿があって、腎臓の力がそれほど落ちていない患者さんほど、ステロイド治療のメリットが大きいと考えられています。逆に、腎臓の力がすでにかなり落ちてしまって、炎症がある程度終わっている場合は、あまり効かないこともあり、薬を使うかどうかを、慎重に考えなければなりません。

③ 扁桃摘出術(+ステロイドパルス療法)

扁桃腺が病気のもとの一つ(火事の例え話の火種をつくる原因)、と考えられているので、これを取ってしまう扁桃摘出術をしばしば行います。これにステロドパルス療法を加えた治療が,1988年に仙台の堀田修先生(現:堀田修クリニック院長、IgA腎症根治治療ネットワーク代表)らよって考案され,その後、日本の多くの施設で行われています。最近の日本の研究でも、その効果が科学的に確認され、IgA腎症に対して最も必要な治療といってよいでしょう。

一方、IgA腎症になって間もない患者さんで、扁桃摘出術だけでも、血尿や蛋白尿が良くなったり、長期間の観察で腎臓が悪くなりにくかったりすることが、当院や他の施設からも報告されています。

私達は、これまでに、多くのIgA腎症の患者さんを治療している中で、扁桃摘出術やステロイドパルス療法が、有効な治療であることを実感しているので、できるだけ早く診断をつけて、治療を始めたいと考えています。

ステロイドパルス療法(仙台方式):点滴(メチルプレドニゾロン500mg)を 3日間して、飲み薬(プレドニゾロン30mg:5mg錠を6個)を 4日間します(合計で1週間)。これを3回、つまり3週間続けて行います。その後、飲み薬(プレドニゾロン30mg:5mg錠を6個)を一日おきに、2ヶ月間飲み、5mg錠を1個ずつ、2ヶ月毎に減らしていきます。だいたい1年間で治療が終了します。この治療経過中に血尿やタンパク尿が良くなれば、早めに減らしたり、やめたりすることもできます。

④ B-SPOT療法・EAT(鼻咽頭擦過療法)

扁桃摘出術を施行した後にも、腎炎がくすぶる場合には、鼻咽頭の炎症が原因の可能性もあり、専門的に行っている耳鼻咽喉科の先生へ紹介させて頂きます。

⑤ 免疫抑制薬

ステロイド薬に加えて免疫抑制剤を一緒に服用して頂くことがあります。

⑥ 抗血小板薬

ジピリダモール(ペルサンチン®)、塩酸ジラゼプ(コメリアン®)などで、活性化した血小板が腎臓を弱らせるのを抑えようとするものです。1980 年代に日本でタンパク尿を減らす可能性のあることが報告され、慢性糸球体腎炎やIgA腎症に保険適応があります。

⑦ n—3 系脂肪酸(魚油)

動脈硬化や血栓の防止に有効とされます。

図1)成人IgA腎症の腎機能障害の進行抑制を目的とした治療介入の適応:IgA腎症診療ガイドライン2017 p.83を一部改変

腎臓の力(GFR)と蛋白尿の量(1日あたり何gか)によって治療法をみたものです。実際の診療では、これらに加えて腎生検の様子や年齢も併せて、治療法を慎重に決めます。

注1:その他の治療:扁桃摘出術(+ステロイドパルス併用療法)、免疫抑制薬、抗血小板薬、n-3 系脂肪酸(魚油)

注2:その他の治療:保存療法を行います。必要に応じて、高血圧、食塩摂取、脂質異常症、耐糖能異常、肥満、喫煙、貧血、骨やミネラル、代謝性アシドーシスなどの管理を参照にします。

イラスト: 『かわいいフリー素材集 いらすとや』 さん
参考文献
① IgA腎症診療ガイドライン2017
② Hospitalist 腎疾患2 vol.6 No.1 2018 p.160-p.168
『IgA腎症と感染後糸球体腎炎:最もコモンな腎炎と古くて新しい腎炎』 森川貴

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