前立腺肥大症に対する外科的治療-CVP-について
前立腺肥大症に対する外科的治療
―CVP(接触式レーザー前立腺蒸散術)―
外科的治療
前立腺肥大症は男性の尿道をとりまく前立腺が肥大することにより、排尿症状(尿がちょろちょろとしか出ない、排尿後も尿が膀胱内に残るなど)や蓄尿症状(頻繁に尿意を催す、強い尿意があってトイレが間に合わないなど)を起こす病気です。加齢とともに徐々に前立腺が肥大するため、50歳以上で多く、高齢になるほど頻度が増加します。
治療には①行動療法(生活指導・メタボ改善など)、②薬物療法(内服)、③外科的治療(後述)があります。当院では主に高リスク症例や難治症例の前立腺肥大症に対する外科的治療を行っています。
日本で主に行われている治療は以下の通りです。
いずれの治療についても内視鏡を尿道に挿入して行います。
①TUR-P(経尿道的前立腺切除術:Trans-Uretheral Resection of the Prostate)
最も古くからある一般的な手術で多くの病院で用いられる術式です。
泌尿器科手術を行っている施設ではほぼ備えられている機材を用いるため、導入のハードルが低いです。出血リスクがあり、抗血小板薬・抗凝固薬(血をさらさらにする薬)を内服している状態では手術できないなどのデメリットがあります。
②HoLEP(ホルミウムレーザー前立腺核出術:Holmium Laser Enucleation of the Prostate)
海外では1998年頃より行われ始めた術式で、前立腺肥大症の原因となる前立腺の内側部分をレーザーでくり抜くような手術です。出血も少なく、前立腺を大きくくり抜いて尿路を開くことができます。前立腺をくり抜いた後に膀胱内で切り刻んでから体外へと取り出す必要があるため、手術時間が長くなるなどのデメリットがあります。
③CVP(接触式レーザー前立腺蒸散術:Contact Vaporization of the Prostate)
当院で主に行っている治療です。最も新しい術式で、前立腺を内側から蒸散していきます。切除と止血を同時に行っていくため、出血リスクが低く、抗血小板薬や抗凝固薬を複数内服している方に対しても行うことができます。(※1)前述のTUR-PやHoLEPよりも細い内視鏡を使用するため、術後の尿道狭窄リスクを抑えられるといったメリットもあります。
当院では2018年5月に導入し、現在までに200例以上の手術を行っています。
2018年5月~2020年4月までに行った症例184例では75%で術後2日で尿道カテーテル抜去、術後平均入院日数4.1日と一般的なTUR-Pと比較して良好な成績でした。
※1:内服を中断できる場合は中断して行ったほうが出血リスクが低く、より安全です。
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泌尿器科手術支援ロボット「ダヴィンチ」について | 泌尿器科前立腺がん・腎がん・膀胱がんの最新手術 手術支援ロボット『ダヴィンチ Xi』 前立腺がん、腎がん、膀胱がん、腎盂尿管移行部狭窄に 対するロボット支援手術に、健康保険が適応されます 2015年、当院泌尿器科で、前立腺がんに対するロボット支援前立腺全摘除手術を開始しました。以後、2016年に、腎がんに対するロボット支援腎部分切除術を開始し、2018年に、膀胱がんに対するロボット支援膀胱全摘術を開始しました。また、2020年から、腎盂尿管移行部狭窄に対するロボット支援腎盂形成術を開始しました。いずれも、健康保険が適応されます。 前立腺がんに対するロボット支援前立腺全摘術(RARP)について 前立腺がんの治療には、多くの種類があります。手術治療だけでなく、放射線治療として、小線源療法や外照射療法などがあります。当院泌尿器科では、放射線科と定期的にカンファレンスを実施し、患者さんそれぞれの背景や希望をふまえて、最も適切な治療を提供しています。2020年末までに、225人の前立腺がん患者さんに対し、ロボット支援手術(RARP)を実施してきました。従来の手術に比較し、出血や尿失禁が少なく、入院日数も短縮し、体により優しい治療が提供できています。 腎がんに対するロボット支援腎部分切除術(RAPN)について 腎がんに対するロボット支援手術(RAPN)は、7cm未満の腫瘍であれば、適応となります。血流の豊富な腎臓に対する部分切除術は、比較的リスクの高い手術で、さらに腫瘍の部位や深さにより、手術の難易度(ネフロメトリースコア)が変化します。当科では2020年末までに、125人の腎がん患者さんにロボット支援手術を実施してきました。これまでの手術では、腎全摘を選択せざるをえなかった難易度の高い腎がんに対しても、腎部分切除、すなわち腎温存療法を提供しており、特に腎機能低下のある患者さんに、恩恵を実感していただいています。 また、当科では術前に、腎がんの部位や深さ、血管や尿路との位置関係を把握するために、3DCT解析(Synapse Vincent®)を実施しています。これにより、術前に詳細なシミュレーションが可能となり、手術の安全性を高めることが可能となりました。 3DCT解析像 (左:腫瘍は赤色で表示、右:腫瘍摘除後をシミュレーション) さらに、術中は、体腔内エコープローベにより、腫瘍の位置を把握し、部分切除を実施していきます。 術中体腔内超音波検査 (左:体腔内プローベ、右:超音波検査での腫瘍影(矢印)) 膀胱がんに対するロボット支援膀胱全摘術(RARC)について 膀胱がんに対するロボット支援手術(RARC)を、2018年4月より、新たに開始しています。2020年末までに、37人の患者さんに実施してきました。膀胱がんに対する全摘術は、尿路変向術(尿の通路を再建する手術)を伴います。尿路変向術には、尿管皮膚ろう、回腸導管、新膀胱造設術といった種類があります。 尿路変向術それぞれに、手術の所要時間や、腸管を利用するか否か、ストーマを作成するか否かといった違いがあるので、患者さんごとの背景、希望に応じて、決定していきます。また、尿路変向術については、最先端の術式である、ロボット支援体腔内尿路変向術(ICUD: intracorporeal urinary diversion)を実施しています。これは、手術の行程全てを、お腹の中(腹腔内)だけで実施する術式です。これにより、従来の、開腹による尿路変向術に比較し、輸血やイレウス(腸が麻痺する)といった合併症が減少しています。 診療実績 2020年のロボット支援手術の診療実績は、前立腺がん(RARP)35例、腎がん(RAPN)31例、膀胱がん(RARC)15例でした。また、2020年から、腎盂尿管移行部狭窄に対するロボット支援腎盂形成術も開始しています。 腎盂尿管移行部狭窄(水腎症)に対するロボット支援腎盂形成術について 詳しくはこちら詳しく見る
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泌尿器科がんゲノム医療について| 泌尿器科がんゲノム医療とは 「がんゲノム医療」とは、「がん」の遺伝子を詳しく調べ、一人一人の遺伝子の変化に応じた治療などを行う医療です。最近の「分子標的薬」と呼ばれる抗がん剤はある特別な遺伝子変化をもつがんに良く効くことが知られています。 がんの種類にもよりますが、治療選択に役立つ可能性がある遺伝子変異は約半数の患者さんに見つかります。 しかし、遺伝子変異があっても、使用できる薬がない場合もあり、がん遺伝子パネル検査を受けて、自分に合う薬の使用(臨床試験を含む)に結び付く人は、全体の10~20%程度と言われています。 当科が行う前立腺がんに対するがんゲノム医療について 当院では以前より標準治療の終了した患者さんに対し、主に腫瘍内科でがん遺伝子パネル検査を行ってきました。 泌尿器科としては、転移性去勢抵抗性前立腺がんに対してオラパリブ(商品名:リムパーザ®)が適用拡大されたことから泌尿器がんゲノム外来を令和3年3月より開始しました。 去勢抵抗性前立腺がんについては、様々な薬剤が保険適用となっていますがオラパリブについてはBRCA1/2遺伝子異常がある場合にのみ使用できます。診断に際して当院では適切な遺伝子カウンセリングの後にBRACAnalysis®を用いたコンパニオン診断を行っています。 原則的に診断がついた後は紹介元の施設での治療を行っていただくため、転院ではないことをあらかじめご承知ください。 受診を希望される場合は現在治療を受けている医療機関からの紹介が必要となりますので担当医に相談してください。 また、その際に下記を参考にしてください。 泌尿器がんゲノム外来について:https://www.osakacity-hp.or.jp/ocgh/kaisetsu/26289.html また、上記以外の泌尿器科悪性腫瘍については腫瘍内科によるがんゲノム外来でのパネル診断を行っております。詳細は以下を確認ください。 がんゲノム医療外来について:https://www.osakacity-hp.or.jp/ocgh/about/cancer/genome/shujii.html詳しく見る
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泌尿器科密封小線源療法(ブラキセラピー)について | 泌尿器科密封小線源療法(ブラキセラピー) 小線源治療とは手術・外照射と並ぶ前立腺癌の根治的治療方法の一つです。長さ4.5mm・直径0.8mmのチタン製カプセル内に格納されたヨウ素125という放射線源を、前立腺に腰椎麻酔下で挿入します。 事前にコンピュータを用いて、周囲臓器への影響が少なく治療効果が高い位置や個数を決定し線源を作成します。挿入する線源の数はおよそ50個~100個、治療時間は2~3時間です。線源から放出される放射線は徐々に減少し、1年で消失します。カプセルは前立腺に残りますが、問題はありません。 リスク分類によって治療線量は異なり、高リスクの場合には小線源、外照射、薬物療法を組み合わせて(トリモダリティー)治療します。 治療後は多くの方で約半年間頻尿が生じます、また前立腺の大きさや臨床病期によっては治療対象とならないものもありますが、比較的低侵襲性であるため手術が困難な患者さんにおいても選択可能な場合があります。治療成績も手術と比べ大きな遜色はありません。当院では放射線腫瘍科と連携し、2010年4月から2020年12月末までに265例の治療を実施しています。 2021年3月 文責;北本 興市郎 引用元;日本メジフィジックス詳しく見る