薬と食の相互作用
薬と食の相互作用
本来、薬は体にとって異物であることから、効果を発現し病気を治す主作用だけでなく、逆に体にとって危険な作用を及ぼす副作用、有害作用も常に存在し、よく言われる「両刃の剣」であります。薬と薬の「飲み合わせ」により、十分な薬の効果が得られなかったり、逆に重篤な副作用、有害作用が起こってしまうことはよくご存知でしょうが、薬と食べ物との併用でも、組み合わせによっては薬が有している作用が十分得られなかったり、時として副作用だけが出てしまったりすることもあります。 薬と食の相互作用について、すべてを説明することはできませんが、いくつか例をあげてお話させていただきます。
薬とグレープフルーツジュース
ある種の薬物〔血圧を下げる薬(一部のカルシウム拮抗剤)、免疫を抑える薬(シクロスポリン、タクロリムス水和物)、てんかんを抑える薬(カルバマゼピン)、抗マラリア薬、一部の抗がん剤等〕とグレープフルーツジュースを同時に摂取した場合、血液中の薬物濃度が上昇し、作用が強くなり、時として重篤な副作用が出ることがあります。
少し詳しく説明すると、上記の薬物は小腸の粘膜(上皮)細胞に存在する代謝酵素で大半が代謝分解(解毒)され、それを逃れた薬のみが体内に吸収され、全身循環に乗り作用部位に到達し、薬の効果が発現されます。薬の服用と同時にグレープフルーツジュースを飲用すると、グレープフルーツジュースに含まれている成分(フラノクマリン)が代謝分解(解毒)酵素の働きを弱めてしまい、薬の解毒が阻害され、より多くの薬が小腸から吸収されて効果発現を強めてしまいます。このグレープフルーツジュースの解毒酵素の働きを弱める作用は、薬物によっては数日間持続することもありますので、上記の薬を服用中はグレープフルーツジュースの摂取を控える必要があります。
薬とセントジョーンズワート
セントジョーンズワート(St.John’s Wort;学名Hypericum perforatum)は和名をセイヨウオトギリソウといい、ヨーロッパ・西アジア・北アフリカ近辺を原産とするオトギリソウ科の多年草である。日本の山野に自生し、民間薬に使われるオトギリソウは別種である。
近年ドイツをはじめとするヨーロッパの諸国では医薬品として承認され、適応症として軽症ないし中等症のうつ病に効果を有している。日本では、平成10年にハーブ類が規制緩和され食品として店頭で入手可能となりました。
ある種の薬物〔免疫を抑える薬(シクロスポリン、タクロリムス水和物)、気管支を拡張する薬(テオフィリン等)、てんかんを抑える薬(フェニトイン等)、心臓の働きを強める薬(ジゴキシン等)、不整脈を抑える薬(ジソピラミド等)、経口避妊薬、一部の抗がん剤等〕と健康食品であるセントジョーンズワートを摂取した場合、血液中の薬物濃度が下がり、期待される効果が減弱されることがあります。
セントジョーンズワートと相性の悪いお薬(上記に記載されているお薬)を服用されている場合は、セントジョーンズワートの摂取を避ける必要があります。
薬とタバコ
タバコ自体の循環器系に対する作用も懸念されており、欧米の報告では喫煙者は非喫煙者に比べ、明らかに虚血性心疾患の発生率及び死亡率が高いと言われています。
経口避妊薬(ピル)を服用している期間中に喫煙すると、静脈血栓症、肺塞栓、心筋梗塞、脳卒中などの症状が起こりやすいことが報告されており、症状が重い場合には、生命に関わることがあります。特に、35歳以上の人が1日15本以上タバコを吸っている場合には危険性が増加すると言われており、経口避妊薬(ピル)の服用は危険であり、35歳以上の人で服用する場合には、禁煙することが必要であります。
一方、ある種の薬物〔気管支を拡張する薬(テオフィリン等)〕は喫煙により血液中の薬物濃度が下がり、期待される効果が減弱されることがあります。
このことは、間接喫煙者においても同様の報告がなされており、喫煙者と同様の注意が必要であります。
禁煙によって、もとの状態にもどるのに少なくとも1週間以上は要することから、テオフィリン等のお薬を服用されている患者さんは禁煙することが必要であります。
薬とアルコール
ある種の薬物〔脳神経に作用する薬(睡眠導入薬、抗不安薬、抗うつ薬等)、血圧を下げる薬等〕とアルコールを同時に摂取した場合、血液中の薬物濃度が上昇し、作用が強くなり、重篤な副作用が出ることがあります。
少し詳しく説明すると、アルコールは肝臓においてアルコール脱水素酵素とチトクロムP450という2種類の解毒酵素により代謝されています。上記の薬物と同時にアルコールを摂取した場合、チトクロムP450による上記の薬物の代謝(解毒)が阻害され、結果としてお薬の効果が強く発現れることになります。上記の薬を服用する場合にはアルコールの摂取を控える必要があります。
薬と乳製品
ある種の薬物〔骨を強くする薬(ビスホスホネート系)、抗がん剤(エストラサイト)、菌を殺す薬(一部のニューキノロン系、テトラサイクリン系)〕は、牛乳や乳製品のようにカルシウムを多く含む飲食物と同時に服用した場合、消化管から吸収されにくい難溶性の物質が生成され、血液中の薬物濃度が下がり、期待される効果が減弱されることがあります。上記のお薬を服用される際には水、または白湯でお薬を飲む必要があります。
薬とビタミンK含有の食・嗜好品・健康食品・栄養剤
ある種の薬物〔血液を固まりにくくする薬(ワルファリン)〕は、ビタミンKの作用(血液を固まりやすくする作用)に拮抗して、肝臓におけるビタミンKによる血液凝固因子の生成を抑え効果を発現します。
ビタミンKを産生する納豆菌を含む納豆、ビタミンKを多く含んでいるクロレラ含有の健康食品の摂取は控える必要があります。尚、ビタミンKを含んでいるホウレン草等の緑色野菜を禁止することは食生活上問題がありますので、1日摂取量が過量にならないよう注意して食する必要があります。
薬とマグロ
ある種の薬物〔結核菌を殺す薬(イソニアジド)〕を服用中の患者さんが、新鮮でないマグロの刺身などを摂取すると、ヒスタミン中毒(頭痛、顔面紅潮、発疹、蕁麻疹、悪心・嘔吐、発汗、動悸、全身倦怠感など)症状を起こすことがあります。
少し詳しく説明すると、通常マグロなど赤身の魚に含まれるアミノ酸のヒスチジンは細菌(Morganella morganii)により有毒なヒスタミンから無毒な代謝分解産物へと代謝されていきます。しかし、上記の薬物はヒスタミンが無毒な代謝分解産物へと代謝(解毒)される酵素を阻害し、ヒスタミンが血液中に高濃度となり、ヒスタミン中毒症状を呈する場合があります。
新鮮な魚肉中にもヒスチジンは多く存在するものの、ヒスタミンはほとんど存在しませんが、マグロ、サバ、イワシなど赤身の魚は、時間が経過するにつれ増殖する細菌によりヒスタミンが産生され、上記の薬物を服用している患者さんは、新鮮でないマグロ等の刺身を食することを控える必要があります。