動静脈シャント疾患 (動静脈奇形、動静脈瘻)
血液は正常では動脈-細動脈-毛細血管-細静脈-静脈の順に流れています (図1A).一方,動静脈シャント (短絡)は動脈が毛細血管を介さずに静脈が直接つながってしまった状態です.動静脈シャントを認める血管奇形の総称を動静脈シャント疾患と言い,動静脈奇形や動静脈瘻が含まれます.
毛細血管には様々な役割がありますが,その1つに血圧の調整があります.したがって毛細血管を介さない動静脈シャント疾患では,圧の高い動脈の血流が,本来は圧の低い静脈に直接流れ込んでしまうため病変部に負担がかかり,その結果として様々な症状を引き起こします.
動静脈奇形は比較的細い動静脈レベルで動静脈シャントが形成されており,動静脈シャント部はナイダスと呼ばれる異常血管の塊となっています (図1B).一方,動静脈瘻は動静脈奇形よりも太いレベルで動静脈シャントが形成されており,多くの場合,動静脈シャント部の静脈が拡張して静脈瘤となっています (図1C).動静脈シャントができる原因は完全には解明されていませんが,遺伝子異常,炎症,外傷 (手術を含む)などが原因の1つと考えられています.
図1A
図1B


図1C

図1A:正常の血管構造
血管は動脈,細動脈,毛細血管の順にその径が小さくなり,血管にかかる圧は主に細動脈と毛細血管レベルで下がっていく.その後,細静脈,静脈の順にその径は太くなるが,血管にかかる圧は低いままである.
図1B:動静脈奇形
動静脈奇形は比較的細い動脈と静脈がナイダスと呼ばれる異常血管の塊を介して動静脈シャントを形成している.
図1C:動静脈瘻
動静脈瘻は動静脈奇形よりも太いレベルで動脈と静脈が直接つながっており,動静脈シャント部には負担がかかるため静脈瘤を形成している.
動静脈シャント疾患は病変の部位,血管の構造,血流の速さ (シャント血流量)などの個人差が非常に大きく,そのため症状や適切な治療法は患者さん毎に異なります.また頚部内頚動脈狭窄症や脳動脈瘤よりも稀な疾患で,治療もより戦略的に行う必要があり,専門性の高い疾患となります.安易に治療をすることで,その先の治療が困難になることもありますので,最初から専門施設での治療をお勧めします.
動静脈シャント疾患は脳や脊髄だけでなく顔面,手足,肺など全身のどこにでもできる可能性があります.当院では脳・脊髄に限らず全身のあらゆる動静脈シャント疾患に対して脳神経外科が対応しています.以下に代表的な動静脈シャント疾患である脳動静脈奇形,硬膜動静脈瘻,脊髄・脊椎動静脈シャント疾患,頭頚部動静脈奇形,肺動静脈瘻について解説していきます.
脳の中にできた動静脈奇形 (図2A)で,多くは20~40歳代に脳出血で発症します.また出血以外にも頭痛やけいれんなどで発症することもあります.脳出血で発症した場合には病変の部位によって運動麻痺,言語障害などの様々な神経症状をきたし,これらは後遺症となるリスクがあります.さらに出血が大きい場合には生命が脅かされることもあります.
図2A

図2A:脳動静脈奇形の血管構造
正常の脳動脈からナイダスへの栄養動脈が分岐し,動静脈シャントの血流はナイダスから流出静脈へと向かう.
ナイダス部の脳は機能していないが,その周囲の脳は機能している.
年間出血率は2%前後ですが,脳動静脈奇形は見つかれば全例で治療すべきというわけではありません.経過観察での出血リスクと治療に伴う合併症のリスクとのバランスを考えて,患者さん毎に治療方針を決定します.治療には開頭手術,定位放射線治療 (ガンマナイフ),血管内治療などがありますが,その選択は患者さんの年齢,症状,病変の大きさ,血管構築などから総合的に判断します.具体的には脳ドックなどで偶然に見つかった場合 (無症状)には,経過観察か治療を行うにしてもリスクが低い定位放射線治療 (ガンマナイフ) (図2B)となります.出血以外の症状 (頭痛やけいれん)で見つかった場合 (非出血例)は,まず症状に対する対症療法 (内科的治療)を行いますが,そちらに抵抗性の場合には治療を検討します.
図2B

図2B:脳動静脈奇形に対するガンマナイフ
約200本のガンマ線 (放射線の1種)をナイダスに集中するように照射する.
1本1本のガンマ線は弱い放射線であるので,周囲の正常脳への影響は最小限であるが,ガンマ線が集まるナイダスには強い放射線が当たることになる.
ガンマナイフでは治療後に病変はすぐに消失せず,2~3年かけて徐々に閉塞していく.
出血で発症した場合 (出血例)には再出血のリスクが高まりますので,全例で治療を行います.治療に関しては血管内治療 (術前塞栓術)を併用した開頭手術 (図2C, D)をまず検討し,開頭手術のリスクが高い部位の病変に対しては定位放射線治療をお勧めしています.また出血した部位がはっきりしている場合には,先に出血した部分のみを先に血管内治療で閉塞させ,その後に次の治療を検討することもあります.脳動静脈奇形は細い動静脈レベルで動静脈シャントが形成されていますので,血管内治療のみで安全かつ確実に根治させることは困難なのが現状です.
当院では出血例にせよ非出血例にせよ,より確実にまた安全かつ低侵襲に行える治療法を選択します.
図2C
図2D


図2C:脳動静脈奇形に対する血管内治療 (術前塞栓術)
太ももまたは手首から細いカテーテル (マイクロカテーテル)を栄養動脈まで誘導し,そこから血管を閉塞させるための液体 (液体塞栓物質)を注入する.正常の動脈は閉塞させない範囲で可能な限りナイダスを閉塞させ,開頭手術の際の出血が減るようにする.
図2D:脳動静脈奇形に対する開頭手術
開頭手術では丁寧にナイダスの部分のみを切除して,ナイダス周囲の正常脳や正常の血管を損傷しないようにする.
硬膜は脳と頭蓋骨の間にある硬い膜で,脳を保護しているだけでなく,その中には正常の脳静脈が脳の表面から心臓へ還るための流出路である硬膜静脈洞も存在しています (図3A, B).硬膜動静脈瘻の多くはその硬膜静脈洞の壁またはその周囲に発生します.好発年齢は中高年代で,特に目の奥 (海綿静脈洞部)や耳の後ろ(横・S状静脈洞部)が好発部位となります.硬膜には非常に多くの動脈があるため,硬膜動静脈瘻は多数の栄養動脈が関与しているのが特徴です.また病変周囲の硬膜静脈洞が閉塞していることもあり,これは硬膜動静脈瘻による症状にも関係します.
図3A
図3B


図3A:硬膜と脳,頭蓋骨との関係 (断面図)
硬膜は脳と頭蓋骨との間にあり,その中には脳の表面からの静脈を受ける硬膜静脈洞が存在する.
図3B:代表的な硬膜静脈洞 (側面から見た図)
硬膜静脈洞は様々な部位で脳からの静脈を受けており,その血流を心臓へ還している.
硬膜動静脈瘻の症状は病変の部位により様々ですが,大きくは正常の脳静脈の流出を邪魔しているかどうかで分けられます.正常の脳静脈の流出を邪魔していないもの (図3C)の多くは,頭痛や心臓の拍動に一致した耳鳴りなどで発症し,症状の程度は個人差がありますが,脳うっ血や脳出血を起こすことはありません.したがって正常の脳静脈の流出を邪魔していない硬膜動静脈瘻は,症状の程度によって治療を行うか経過観察かを決定します.症状が軽く経過観察とした場合でも,後に脳静脈の流出を邪魔するようものへと進行することがあるため,定期的なMRI検査は必須となります.
図3C

図3C:硬膜動静脈瘻 (正常の脳静脈の流出を邪魔していないタイプ)
多数の栄養動脈がシャント部 (☆)に収束している.
動静脈シャントの異常血流はそこから硬膜静脈洞を使って心臓に向かって流出している.
一方,正常の脳静脈の流出を邪魔しているものは,病変周囲の硬膜静脈洞が閉塞している場合などで認められます (図3D).このような場合では動静脈シャントの異常血流が脳静脈に逆流することがあり,そうなると正常の脳静脈の流出は邪魔され,進行すると脳はうっ血して正常に機能しなくなります.そのためけいれんや運動麻痺,言語障害などの神経症状を認め,また認知障害が急速に進行することもあります.脳うっ血を起こしていると脳出血を起こすリスクも高く,年間出血率は8-19%になります.したがって正常の脳静脈の流出を邪魔している硬膜動静脈瘻は,症状がなくても基本的に治療をお勧めしています.
図3D

図3D:硬膜動静脈瘻 (正常の脳静脈の流出を邪魔しているタイプ)
硬膜静脈洞が閉塞していることで,動静脈シャントの異常血流は心臓側へ流出することができず,脳静脈を逆流して脳内へ向かっている.
硬膜動静脈瘻の治療のほとんどは血管内治療で行い,シャント部を閉塞させます.病変の部位,血管構築に応じて,動脈側からの治療 (経動脈的塞栓術) (図3E)もしくは静脈側からの治療 (経静脈的塞栓術) (図3F)を選択します.血管構築が複雑な場合は複数回の血管内治療を要することがあり,血管内治療で病変を消失させることが困難な場合には定位放射線治療 (ガンマナイフ)を追加することもあります.また血管内治療でカテーテルが到達困難な病変や脳神経麻痺が出現するリスクが高い病変などは開頭手術をお勧めすることもあります.
図3E
図3F


図3E:硬膜動静脈瘻に対する経動脈的塞栓術
太ももまたは手首から細いカテーテル (マイクロカテーテル)をできる限り栄養動脈の奥 (動静脈シャント部の近く)に誘導し,そこから血管を閉塞させる液体 (液体塞栓物質)を注入する.病変が消失することで動静脈シャントの異常血流が逆流していた脳静脈は正常の流れに戻る.
図3F:硬膜動静脈瘻に対する経静脈的塞栓術
太ももまたは首の静脈からマイクロカテーテルを病変に関与している硬膜静脈洞まで進め,動静脈シャントの異常血流が流出している硬膜静脈洞をシャント部も含めてプラチナコイルなどで閉塞させる.病変が消失することで動静脈シャントの異常血流が逆流していた脳静脈は正常の流れに戻る.
図4A
図4B


図4A, B:正常の脊髄,硬膜,硬膜外腔,脊椎の位置関係 (A: 前方から見た図,B: 図4Aの①レベルでの横断面)
脊髄は脊椎の真ん中にあるトンネル状の空間 (脊柱管)に首から腰に向かって認められ,その周囲は硬膜に覆われている.硬膜と脊柱管の壁との間のスペースが硬膜外腔となる.
脊髄髄内動静脈奇形は脊髄内にできた動静脈奇形 (図4C)です.脊髄は部位によって頚髄 (首の高さ),胸髄 (胸の高さ),腰髄 (腰の高さ)に分けられます.その中で脊髄髄内動静脈奇形は胸髄レベルにできることが多く,20~40歳代に出血や脊髄うっ血 (脊髄の正常静脈の流れが邪魔されて脊髄が腫れる)などで発症することが多いのが特徴です.症状は病変に部位によって異なり,胸髄と腰髄レベルでは両下肢の運動麻痺,感覚障害,排尿・排便障害をきたし,頚髄レベルではそれらに加えて両上肢の運動麻痺,感覚障害や重症の場合には呼吸障害をきたします.年間出血率は4%前後で,約30%に動脈瘤を合併します.
図4C

図4C:脊髄髄内動静脈奇形
正常の脊髄動脈から複数の栄養動脈がナイダスへ分岐しており,動静脈シャントの異常血流はナイダスから流出静脈へ向かっている.
ナイダス内に出血の原因となる動脈瘤を伴うことがある.
脊髄は脳と比べて非常に小さく,そのため外科手術,血管内治療ともに脳動静脈奇形よりもリスクが高くなるため,治療は原則的に症状を呈している場合にのみ行います.外科手術は根治できる可能性があるものの,手術の際に病変の周囲にある正常の脊髄が傷ついて神経症状が悪化する可能性もあるため,当院では外科手術よりも血管内治療を優先しています.血管内治療も目標は病変の消失ではなく,出血した動脈瘤部分のみを閉塞させるか (図4D),または安全なところのみ閉塞させて動静脈シャント量を減弱させ,再出血の予防または症状の改善を狙います.
図4D

図4D:脊髄髄内動静脈奇形に対する血管内治療 (経動脈的塞栓術)
太ももから細いカテーテル (マイクロカテーテル)を栄養動脈まで誘導し,そこから血管を閉塞させる液体 (液体塞栓物質)を注入する.
出血の原因となるナイダス内の動脈瘤を閉塞させることで,再出血の危険性を下げることができる.
脊髄表面にできた動静脈瘻 (図4E)で,胸髄レベルにでき,動静脈シャント部には静脈瘤を認めることが多いのが特徴です.好発年齢は小児から若年者で,脊髄うっ血や出血だけでなく,静脈瘤が脊髄を圧迫して症状を呈することもあります.非常に稀な疾患なので年間出血率などの詳細は分かっていません.症状に関しては脊髄髄内動静脈奇形と同様ですが,病変の血管構築によっては治療で根治が期待できることが大きく異なります.脊髄辺縁動静脈瘻は脊髄の表面に存在するため外科手術も可能ですが,当院ではより低侵襲に行うことのできる血管内治療を選択しています (図4F).症状を認めている場合は全例で治療を行いますが,症状を認めていない場合 (無症状)でも一旦症状が出現すると後遺症となる危険性が高い疾患なので,治療のリスクとのバランスを見て治療をお勧めすることもあります.
図4E
図4F


図4E:脊髄辺縁動静脈瘻
脊髄辺縁動静脈瘻は脊髄の表面に存在し,脊髄髄内動静脈奇形よりも栄養動脈が太い.また動静脈シャント部には静脈瘤を伴うことが多い.
図4F:脊髄辺縁動静脈瘻に対する血管内治療 (経動脈的塞栓術)
太ももから細いカテーテル (マイクロカテーテル)を栄養動脈まで誘導する.そこから血管を閉塞させる液体 (液体塞栓物質)を注入して,動静脈シャントの異常血流を遮断する.
図4G

図4G:脊髄硬膜動静脈瘻
脊髄硬膜動静脈瘻は脊髄を覆う硬膜に動静脈シャントを形成している.
動静脈シャントの異常血流が脊髄の静脈へ逆流することで,正常の脊髄静脈の流れを邪魔して脊髄うっ血をきたす.
治療は血管内治療と外科手術のどちらでも可能ですが,当院ではほとんどが血管内治療で行っています (図4H).ただし閉塞させる動脈の傍から脊髄への正常の枝がでている場合には外科治療をお勧めしています。外科手術は逆流している静脈を凝固・切断することで病変を消失させます (図4I).
図4H
図4I


図4H:脊髄硬膜動静脈瘻に対する血管内治療 (経動脈的塞栓術)
太ももから細いカテーテル (マイクロカテーテル)を栄養動脈まで誘導する.そこから血管を閉塞させる液体 (液体塞栓物質)を注入して,動静脈シャントの異常血流を遮断する.
図4I:脊髄硬膜動静脈瘻に対する外科手術
背中側から背骨の一部を削ってアプローチをする.脊髄を覆う硬膜を切開して,硬膜の中から動静脈シャントの異常血流が逆流している脊髄静脈を凝固・切断することで病変は消失する.
脊髄硬膜外動静脈瘻は脊髄の硬膜と脊椎との間の硬膜外腔にできた動静脈瘻で (図4J),脊髄硬膜動静脈瘻と同様に中高年の男性に多く,動静脈シャントの異常血流が脊髄の静脈へ逆流して脊髄うっ血をきたすことで,両下肢の運動麻痺,感覚障害,排尿・排便障害などの症状を呈します.脊髄硬膜動静脈瘻と異なるのは病変の位置で,脊髄硬膜外動静脈瘻の多くは腰やお尻の高さにある腰椎・仙椎レベルに認められます.脊髄硬膜動静脈瘻と非常によく似た疾患ですが,脊髄硬膜外動静脈瘻は稀に動静脈シャントの血流量が非常に多い場合があり,その際には周囲の神経などを圧迫することで症状を呈します.治療は血管内治療と外科治療のいずれも可能ですが,脊髄硬膜動静脈瘻よりもさらに血管内治療に向いており,当院では血管内治療で根治を目指します (図4K).
図4J
図4K


図4J:脊髄硬膜外動静脈瘻
正常の硬膜外腔には脊髄からの静脈が流出しているため,この部位に動静脈瘻ができると動静脈シャントの異常血流が脊髄の静脈へ逆流することがある.
図4K:脊髄硬膜外動静脈瘻に対する血管内治療 (経動脈的塞栓術)
太ももから細いカテーテル (マイクロカテーテル)を栄養動脈まで誘導して,そこから血管を閉塞させる液体 (液体塞栓物質)を注入する.動静脈シャント部 (☆)を閉塞させることで,脊髄静脈への逆流は消失する.
頭皮,顔面,耳などにできた動静脈奇形で,時に動静脈瘻の形態をとることもあります.症状は病変の部位,動静脈シャントの量 (シャント血流量)によって様々ですが,動静脈シャントの血流量がそれほど多くない場合は皮膚の発赤や熱感を認め,病変部の腫脹や拍動はあまり目立ちません (静止期) (図5A).しかしシャント血流量が増えてくると,病変部は腫脹して血管の拍動を認めるようになります (拡張期) (図5B).さらに進行すると疼痛が出現し,さらに病変部の皮膚に潰瘍ができて出血するようになります (破壊期) (図5C).シャント血流量は年齢が上がるにつれて増えてくることが多く,病変部の腫脹も徐々に強くなっていきます.特に思春期では半数以上で進行を認めます.また頭頚部動静脈奇形は外傷,感染,ホルモン変化,血行動態の変化などによって急激に増大することがあり,特に妊娠によっても増悪することがあります.
図5A
図5B
図5C



図5:頬部の動静脈奇形
5A:静止期.病変部の腫脹はあまりなく,外表上は赤あざのように見える.病変部の皮膚は熱感を認める.
5B:拡張期.病変部が腫脹し,触ると動脈の拍動を認める.
5C:破壊期.病変部の色調が悪くなり,疼痛が出現する.また時に出血を認める.
治療のタイミングは疼痛,潰瘍,出血などの症状が出現している場合や美容的理由がある場合には治療適応となります.病変部の発赤や腫脹のみの場合には病変の大きさや血管構築などから根治が可能かどうかで治療適応を判断します.治療は血管内治療や外科手術(切除+再建)で行います.動静脈瘻の場合だと血管内治療単独で根治を狙うことも可能ですが,動静脈奇形は複雑な血管構築をとることが多く,そのため血管内治療と外科手術を組み合わせた集学的治療を行わなくてはいけません.当院では血管内治療は脳神経外科で,外科手術は脳神経外科と形成外科の合同で行っています.病変を根治させることが理想ではありますが,美容的な面を考慮すると実際には難しいことが多く,その場合には症状の改善やコントロールが治療目標となります.根治できない場合には血管内治療も外科的切除も病変にとっては一種の外傷であるため,それらを契機に病変が増大する危険性もあります.したがって頭頚部動静脈奇形の治療は病態をしっかりと理解している血管内治療医と外科医で行わなくてはいけません.
肺にできた動静脈シャント疾患で肺動静脈奇形とも呼ばれますが,ほとんどが動静脈瘻の血管構築となっているので,ここでは肺動静脈瘻で統一します.
正常の肺の毛細血管の役割は圧調節だけでなく,ガス交換もあります (図6A).これは私たちが口や鼻から吸い込んだ酸素を血液中に取り込んで,代わりに二酸化炭素を血液中から回収しています.肺動静脈瘻があるとそこを流れる血液は毛細血管を通らないためガス交換が行われず (図6B),したがって血液中の酸素量は少なくなってしまいます.その結果,普段は自覚症状がなくても運動をするとすぐに息切れが生じるようになります.息切れの程度は肺動静脈瘻の大きさや数によりますが,大きな肺動静脈瘻や多発性の肺動静脈瘻の患者さんでは血液中の酸素濃度 (血中酸素飽和度)が普段から低くなります.
肺の毛細血管には他にフィルターとしての機能もあります (図6A).肺動脈には全身の臓器を巡った血液が流れますが,その中には血の塊 (血栓)や細菌が入っていることがあります.肺の毛細血管はこれらを濾しとっており,これらが心臓から全身に飛んでいかないようにしています.肺動静脈瘻では正常の毛細血管がないためフィルターが機能せず,そのため血栓や細菌が肺を通り過ぎて心臓から全身の臓器に飛んでいってしまいます (これを奇異性塞栓症と言います).特に脳へ飛んでいくことが多く,血栓が飛んでいくと脳梗塞,細菌だと脳膿瘍を起こします (図6B).脳梗塞や脳膿瘍を発症すると適切な治療を行っても運動麻痺や言語障害などの神経症状が後遺症となる危険性があり,また大きな脳梗塞や脳膿瘍では生命に危険が及ぶこともあります.
図6A
図6B


図6A:正常の肺の毛細血管
正常の肺の毛細血管は血液中の酸素と二酸化炭素のガス交換を行うだけでなく,血液中にできた小さな血栓や血液中に入った細菌が心臓を介して全身に飛んでいかないようにするフィルターの役割もある.
図6B:肺動静脈瘻
肺動静脈瘻は正常の毛細血管を持たないためガス交換が行われず,またフィルターとしての機能も持たない.そのため小さな血栓や細菌が心臓を介して全身に飛んでいく危険性がある.脳へ飛んでいくと脳梗塞や脳膿瘍を起こす.
肺動静脈瘻の治療は外科手術もありますが,現在では血管内治療 (図6C)が第一選択です.息切れなどの呼吸症状を呈している患者さんはもちろんですが,無症状の患者さんでもある程度の大きさ以上の病変であれば治療をお勧めしています.肺動静脈瘻は出血することもありますが,実際には妊娠中を除いて非常に稀ですので,無症状の患者さんの治療目的は主に脳梗塞や脳膿瘍の予防になります.逆に妊娠可能な年齢の女性の場合には,出血を予防するために妊娠前に治療を受けることをお勧めします.
図6C

図6C:肺動静脈瘻に対する血管内治療
太ももの静脈から心臓を通して細いカテーテル (マイクロカテーテル)を病変まで誘導する.
静脈瘤から栄養動脈にかけてプラチナコイルを留置して,病変を消失させる.
肺動静脈瘻はオスラー病という遺伝性疾患に合併することが多いので,肺動静脈瘻の患者さんは必ずオスラー病かどうかの診察を受ける必要があります.
-
脳神経外科膠芽腫に対する腫瘍治療電場療法について腫瘍治療電場療法 腫瘍治療電場療法(製品名:オプチューン®)は膠芽腫に対する新しい治療法として開発されたものです.この治療は脳内に特殊な電場を発生させて腫瘍増殖を抑制する,膠芽腫に対する新たな治療方法です.初回手術後に膠芽腫と診断されて,初期治療の放射線療法,それと併用して行われる化学療法 (テモゾロミド)を終了した膠芽腫の患者さんに維持療法として使用される治療機器です. 治療実績について(症例数) 2017年12月度に初発膠芽腫の成人患者への保険適用が承認されて以降,日本では累計350例以上,アメリカでは累計1万例を超えています(2020年1月時点). 治療実績について(臨床成績) この治療はEF-14という臨床試験でその有効性が示されました.初発膠芽腫患者695人を対象としてテモゾロミド+オプチューン®の併用療法を,テモゾロミドの単独療法と比較したところ,テモゾロミド+オプチューン®の併用療法を受けた患者は,テモゾロミドの単独療法を受けた患者と比較して,新たな副作用を伴わずに全生存期間の有意な延長が証明されました(テモゾロミド単独療法16.0ヶ月に対してテモゾロミド+オプチューン®併用療法20.9ヶ月).オプチューン®治療を受けた患者が,テモゾロミド単独療法を受けた患者と比較して,より長期にわたってQOLを維持できたことも示されました.この結果に基づき,欧米ではこの治療法が行われるようになり,日本でも2015年に薬事承認され,2017年12月より成人の初発膠芽腫を対象に保険診療の認可がおりています. オプチューン治療中の生活 オプチューン®は,電場を作り出す粘着性シートに取り付けられたセラミック製の電極パッド(アレイ)を,頭髪をきれいに剃った頭部に4枚貼り付けることで脳内に治療電場を作り出し,急速に増殖を繰り返す膠芽腫の細胞分裂を阻害することで,腫瘍細胞を抑えるように作用します.アレイは1週間に2回程度貼り替えます.一人でアレイを貼り替えるのは難しいので,治療協力者の補助が必要です.基本的に自宅で行う治療です.バッテリーで作動する携帯タイプの医療機器で,昼夜を問わず継続して長時間使用することができるように設計されています.可能な限りの継続的治療が推奨されるため,頭皮の副作用を避けて,できるだけ継続して(少なくとも4週間以上の継続的使用 / 使用時間率75%以上)治療を続けることが大切です. 画像提供;ノボキュア株式会社 有害事象 オプチューンの主な副作用は,アレイの貼付箇所の皮膚炎症です.臨床試験では約半数に皮膚障害が生じたことが報告されましたが,症状はいずれも軽度から中程度のもので,局所的な対応や治療を一時的に中断することで対処できました.化学療法などで見られる吐き気や食欲不振,血球数の減少などの全身性の副作用が少なく,体に負担の少ない治療法です. 稀に頭痛,脱力,転倒,疲労,筋攣縮,皮膚潰瘍が生じることがあります. 入院期間・費用は? 基本的に自宅で治療を行います.治療開始の時に機器の取り扱いについて外来で医師から説明します.機器のサポートはメーカー担当者が行います. 費用は初発膠芽腫に限り,保険診療の範囲内で治療が可能です. ※費用は高額療養費の対象になります. 健康保険や国民健康保険加入者が,同じ月内に同じ医療機関に支払う医療費の自己負担額(食事の費用・自費分は除く)が高額になった場合は,限度額の認定証の交付を受け,入院事務担当者にご提示いただくと,病院窓口での自己負担額が限度額までの金額となります (70歳未満の方が対象で,健康保険組合や国保窓口に事前に申請が必要です). 当院ではオプチューン使用のための認定講習を修了したスタッフがおり,積極的にオプチューン® (NovoTTF-100Aシステム)治療に取り組んでおります.詳しい説明や治療をご希望される患者さんはかかりつけ医から地域医療連携室を通じて外来をご予約ください.詳しく見る -
脳神経外科頭蓋咽頭腫頭蓋咽頭腫とは 頭蓋咽頭腫は,脳の正中付近に発生する稀な腫瘍です.視床下部や脳下垂体,視神経などに接して発生します.全脳腫瘍の1〜3%の頻度であり,小児脳腫瘍では5〜10%です.発生年齢に特徴があり,小児期に発生する場合と,成人期に発生する場合があります. 組織学的には良性ですが,しばしば患者さんの寿命を縮める場合があり,良性というよりは低悪性度の腫瘍と見なすべき,と考えられています.ほとんどの場合,嚢胞(袋状の部分)と実質(塊の部分)を含んでおり,嚢胞内はコレステロール結晶を含む濁った液体で満たされています. 頭蓋咽頭腫の臨床症状 通常はゆっくりと発育するので,症状が出てから診断が確定するまでに1年以上かかることも稀ではありません. 頭蓋咽頭腫が視神経を圧迫すると視力低下や視野障害の原因となります.多くの頭蓋咽頭腫の患者さんは,眼科で視野の検査をすると異常が認められます. また脳下垂体や視床下部などの内分泌器官に影響を及ぼすことにより,さまざまな内分泌障害を来すことがあります.成長ホルモンや,性ホルモン,甲状腺刺激ホルモン,副腎皮質刺激ホルモンなどの分泌が障害され,小児の患者さんでは成長不全,成人の患者さんでは性機能障害などが認められることがあります. 腫瘍による神経組織の圧迫により中等度から重度の頭痛を認めたり,うつ症状を認めることがあります. 頭蓋咽頭腫の診断 頭蓋咽頭腫は,脳MRIおよび脳CT検査により診断を行います. これらの画像診断に加えて,糖尿病・内分泌内科で詳細なホルモンの検査を行います. また,眼科で視力や視野の評価を行います. 状況により,言語聴覚士が高次脳機能障害の有無を検査することがあります. 頭蓋咽頭腫の治療 頭蓋咽頭腫に対して有効な治療方法は,外科的な手術による摘出術と,放射線治療の2種類です.頭蓋咽頭腫は腫瘍であるので,これらの治療の後に腫瘍組織が残存していれば,将来再発する可能性があります.そのため,まず手術による完全な摘出を目標とした治療計画を検討します.状況により手術を2回もしくは3回に分けて行う事もありますが,手術の安全性と治療効果を総合的に判断し,個々の患者さんに最適と思われる治療方法を検討します.一般的に,頭蓋咽頭腫の手術治療はリスクが高いので,全摘出を目指さずに部分的に摘出を行って放射線治療を行う治療計画が用いられる場合があります.当院の治療方針は,安全な範囲で最大限の摘出術を行って,全摘出が得られれば以後は経過観察,もし腫瘍の残存があればガンマナイフ等の放射線治療を追加で検討するという考え方をとっています. ①手術治療 当院では,開頭による腫瘍摘出術と,内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術の両方を施行しています.頭蓋咽頭腫は,腫瘍の大きさや発生部位,周囲の神経および血管等の重要構造物との関係性などに大きな個人差があるため,開頭による摘出術が有効なのか,内視鏡下経鼻的手術が有効なのかをさまざまな画像診断の所見を元に検討し,手術の方法を判断します.最近は内視鏡下経鼻的手術の割合が増加している傾向にあります. 開頭頭蓋内腫瘍摘出術は,腫瘍にアプローチする部分の頭皮を切開し,開頭を行い,脳の隙間の部分を通って腫瘍に到達し,少しずつ腫瘍を摘出してゆく方法です. 頭蓋咽頭腫は,頭部のほぼまん中に発生するので,前方からアプローチする場合もありますし,後方,側方からアプローチを行う事もあります. これに対して,内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術は,開頭するのではなく,鼻腔側から内視鏡を用いて頭部のまん中に直接的に到達し,下側から腫瘍を摘出する方法です. 脳や神経を経由しないで,最も直接的に腫瘍を摘出できる利点があり,近年は使用されることが多くなっています. 当院では,開頭手術と経鼻内視鏡手術の両方を施行可能な体制をとっています.個々の患者さんに対して最適な方法を計画します. ②放射線治療 頭蓋咽頭腫に対する放射線治療として,定位放射線治療 (SRS, SRT)や,強度変調放射線治療 (IMRT),画像誘導放射線治療 (IGRT)などがあります.これらは,全て当院で施行可能です.外科切除後に病変が残存している場合や,当初は全摘出と考えられた腫瘍が再発した場合などの治療に用いられます.現在の技術では,腫瘍周辺の重要組織への放射線被曝を適正に制限し,起こりえる合併症のリスクを最小限にするように厳密に計算・管理された治療放射線を病変に照射することが可能となっています. 実際の治療 図1 図2 この方は,数ヶ月前からのひどい頭痛と両眼の視力障害で,仕事に支障を来すようになり病院を受診され,MRIにて頭蓋咽頭腫と診断されました. 黄色で示した所に4-5センチ径の頭蓋咽頭腫を認めます (図1,2).脳の正中で,視神経や視床下部,内頚動脈などの重要構造物に囲まれたところに腫瘍が発生しています.眼科での検査では軽度の視野障害が認められ,言語聴覚士による高次脳機能評価では高次脳機能障害は認めないとの所見でした.糖尿病・内分泌内科でのホルモン検査では,成長ホルモン,性ホルモンなどの内分泌障害を認めました. この方に対する治療として,手術による積極的な腫瘍摘出を行いました. 従来であれば,開頭による頭蓋底アプローチを行い可能な範囲の腫瘍を切除するやり方をとっていましたが,開頭ではどうしても摘出が困難な部分 (視神経の裏側など)に腫瘍が残存してしまうという問題があるので,近年では4K内視鏡による拡大経蝶形骨洞手術 (経鼻的に内視鏡を使用して直接腫瘍に到達する手術法:図3-9)で摘出を行いました. この方法は,開頭では摘出できなかった神経や血管の裏側の腫瘍に直接到達することが可能なため,全摘出のチャンスが大きくなり手術の安全性も格段に向上しています. 図3(視神経の裏側の腫瘍を下側から露出) 図4(重要な脳組織から腫瘍を慎重に剥離) 図5(剥離された腫瘍が摘出された) 図6(摘出された頭蓋咽頭腫) 図7(摘出後の脳組織、全ての腫瘍が完全に摘出されている) 図8(摘出後の閉創、鼻腔と脳組織を腹部の脂肪などで遮断する) 図9(最後に鼻中隔の粘膜で患部を被覆する) この方は,術後のMRIで腫瘍が全て摘出されたことが確認されました (図10, 11) 図10 図11 頭痛と視野障害は改善し,通常の社会生活を過ごされています. ホルモンの低下症に対して,内服でホルモンの補充療法を行いながら経過観察しています. このように,頭蓋咽頭腫の治療には,外科,内科,小児科,眼科,放射線治療,リハビリテーション,などさまざまな専門領域のスタッフが緊密に連携することが不可欠です.当院では経験豊富なスタッフが、しっかりと患者さんとご家族をサポートします.詳しく見る -
脳神経外科下垂体腺腫 | 脳神経外科特徴 脳下垂体とは,脳の底にぶら下がっている小さな器官です.身体にホルモンを分泌する働きを持っています.ホルモンは全部で8種類あり,身体を正常に保つ上で非常に重要です. 脳下垂体に発生する代表的な腫瘍が下垂体腫瘍と呼ばれる良性の腫瘍です.これは腫瘍自体がホルモンを分泌しないタイプと不適切にホルモンを分泌するタイプにわかれます. ホルモンを分泌しない腫瘍 ホルモンを分泌する腫瘍 非機能性下垂体腺腫 プロラクチン産生腺腫 成長ホルモン産生腺腫 (先端巨大症・アクロメガリー) 副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫 (クッシング病) 上記すべての腫瘍に共通の症状として,腫瘍によって視神経が圧迫された時に視野の外側が見えにくくなるという症状が生じます (両耳側半盲). また下垂体に腫瘍が発生した場合,正常の脳下垂体ホルモンの機能低下が生じることがあります. この場合は適切に薬による補充療法を行う必要があります. 当院における治療方針 下垂体腫瘍は,脳神経外科による手術だけではなく,様々な科が協力して診断と治療を行う事が重要です.当院では,内分泌内科が術前の下垂体機能の評価や薬物治療の効果判定を行い,耳鼻咽喉科が手術時および術後の鼻内処置を行っています.脳神経外科は外科的な治療方法の検討 (内視鏡下経鼻的下垂体腫瘍摘出術・開頭頭蓋内腫瘍摘出術・ガンマナイフ治療)を行い,下垂体機能をできるだけ温存しながら最大限の腫瘍摘出を行います.また術後に内分泌内科による下垂体機能の評価と,必要時に薬物治療の追加を行います.このように円滑な他科連携治療を行う事で,術後のQOL(生活の質)を高く保つ事が出来、早期の社会復帰が可能になります. 下垂体腫瘍に対する様々な手術方法 ①開頭による顕微鏡下腫瘍摘出術 ②顕微鏡による経蝶形骨洞腫瘍摘出術 ③内視鏡下経鼻的下垂体手術 ④手術用顕微鏡 ⑤ハイビジョン内視鏡 ①と②は手術用顕微鏡を用いた手術法で,従来下垂体手術で用いられていた方法です. 現在はハイビジョン内視鏡を用いた③の術式を用いるようになり手術の有効性および安全性がさらに向上しています. 内視鏡下経鼻的下垂体手術について 非機能性下垂体腺腫 この腫瘍は,視神経が腫瘍によって圧迫されて眼が見えにくくなり発症する事が多いので,視神経に対する圧迫を解除する目的で手術治療を行います.安全に摘出できる部分を手術で取り除き,血管に巻き付いた所など摘出にリスクの伴う部分は放射線治療 (ガンマナイフ治療)を必要に応じて追加するという方法をとっています.手術直後から眼の見え方は良くなります.一般的に術後の下垂体機能は温存されますが,術前より下垂体機能の低下がある場合などは,必要によりホルモン補充療法をします.全く無症状で偶然に発見される事もありますが,この場合には詳しく検査を行った上で経過観察を選択する場合もあります. 視力障害で発症した非機能性下垂体腺腫.腫瘍が正常下垂体と視神経を強く圧迫している. 内視鏡下経蝶形骨洞手術により腫瘍が全摘出され,脳下垂体と視神経が見えるようになっている. 術直後より視力障害は正常化し下垂体機能は温存された.術後約1ヶ月で社会復帰となった. プロラクチン産生下垂体腺腫(プロラクチノーマ) プロラクチンというホルモンが腫瘍により過剰産生されることにより無月経となり,女性側の不妊の原因となることが多い疾患です.この疾患は,ドパミン作動薬という薬の効果が極めて高いため,手術ではなく,内科的治療が第一選択となります.この薬はプロラクチン値を低下させ腫瘍を小さくさせます.腫瘍を完全に消滅させるわけではないので,一定期間内服を継続させる必要があります.薬の効果があまりない,もしくは薬の副作用が強くて内服継続が困難である場合,手術による効果が高いと判断される場合などには手術治療を検討します. 成長ホルモン産生下垂体腺腫(先端巨大症、アクロメガリー) 腫瘍が成長ホルモンを過剰産生し,身体の様々な症状を呈してくる疾患です.緩徐に発症するために長い間気付かれずに放置されている場合があります.手足が大きく,分厚くなり顎や額が突出します.また,唇や舌が肥大して声が低くなります.高血圧や糖尿病,脂質異常症,心臓病,脳卒中などを発症しやすくなり,平均寿命が短くなります。このため積極的な治療が必要です. 手術による腫瘍摘出術が治療の第一選択です.完全な腫瘍組織の摘出により根治が期待できます.全摘出できるかどうかは腫瘍の大きさ,進行度によって異なります.全摘出ができない場合であっても可及的に腫瘍組織を摘出しておく事がその後の治療効果に影響します.手術治療の後で,必要があれば薬物治療(ソマトスタチンアナログなど)や放射線治療(ガンマナイフ)などを検討します. 他の下垂体腫瘍と同様に,難病指定疾患で治療が難しいと考えられていますが,当科では外科治療および内科治療ともに,最先端の治療を受けて頂く事が可能です. ACTH産生下垂体腺腫(クッシング病) ACTH (副腎皮質刺激ホルモン)というホルモンが腫瘍により過剰産生される疾患です.ホルモン異常により顔が丸くなる (満月様顔貌)や,体幹部が太く手足が細くなる (中心性肥満)などの特徴的な症状を示し,体毛が濃くなり,にきびが増えて,皮膚の色素が濃くなってまだら模様になってきます.病気が進行すると,筋力低下,易感染性を発症します.高血圧,糖尿病,脂質異常症や骨粗鬆症などの生活習慣病と類似した合併症を来します. この腫瘍はMRIなどの画像診断で写らない事も多いため,腫瘍がどこにあるのかを詳細に調べる事が非常に重要です.わずかでも取り残しがあると将来的に再発する可能性が高いため,できるだけ確実に腫瘍組織を全摘する方法をとります. 手術による全摘が困難な場合には過剰なホルモン産生を抑制する薬物療法や,ガンマナイフ治療を考慮します. (左)急激な視力障害で発症した下垂体腺腫.腫瘍による視神経の圧迫を認める. (中)内視鏡下経蝶形骨洞手術により全摘出の状態となった.視力は発症前の状態まで回復した. (右)ハイビジョン内視鏡による摘出中の光景.腫瘍組織と周辺組織との境界が明瞭に区別されている.詳しく見る