甲状腺疾患に対するアイソトープ治療(131I内用療法)
甲状腺疾患に対するアイソトープ治療
(131I内用療法)
アイソトープ治療(131I内用療法)とは、甲状腺組織(がんを含む)がヨウ素を取り込む性質を有していることを利用し、131Iと呼ばれる放射線を放出するヨウ素(131Iカプセル)を内服して甲状腺内部から放射線を照射する治療です。甲状腺はヨウ素を原料としてホルモンを合成、分泌している臓器で、体内に取り込まれたヨウ素はそのほとんどが甲状腺に取り込まれて他の臓器への取り込みが極めて少ないこと、また体内に取り込まれた放射性ヨウ素から放出される放射線の到達距離は非常に短く他の臓器への影響や副作用が非常に少ないため、極めて安全に効果的に治療を行うことが可能です。このように、アイソトープ治療は有用な治療法ですが、特殊な装置や設備が必要であるため、実施可能な施設が非常に限られています。
当院は2014(平成26)年に日本甲状腺学会認定専門医施設に認定され甲状腺疾患に対する専門施設として診療を行っていますが、2016(平成28)年からバセドウ病に対するアイソトープ治療ならびに甲状腺がん手術後に残った甲状腺組織破壊(アブレーション)目的に対するアイソトープ治療を開始しました。
2021年(令和3年)11月より,設備増強に伴い131I投与可能量が増加し,年間あたりの治療を行うことができる患者さんの数が増えました。
バセドウ病アイソトープ治療
バセドウ病に対する治療方法には薬物療法、手術とアイソトープ治療がありますが、それぞれの治療法には下の表のように長所と短所があります。
治療法 | 長所 | 短所 |
---|---|---|
薬物療法 |
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手術 |
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アイソトープ治療 |
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そのような中で、アイソトープ治療は希望する場合に加えて、次のような場合にはよい治療法と考えられます。
- 薬物療法で副作用が出現したとき
- 薬物療法で十分に甲状腺ホルモンをコントロールできないとき
- 手術後に再発したとき
- 薬物療法や手術を望まないとき
- 心肺の病気や周期性四肢麻痺などにより確実なコントロールが必要なとき
など
治療自体は131Iカプセルを内服するだけで、大変簡単なものです。治療は原則として外来で行いますが、状況により入院で行うこともあります。まず外来で治療について説明し、甲状腺眼症や心機能などのリスク評価、治療前検査などを行ったうえで治療を行います。
アブレーション治療
甲状腺がんに対するアイソトープ治療は60年以上の歴史を有し、その有用性が国際的に定着している安全な治療法です。特に、甲状腺を全摘した後に放射性ヨウ素でわずかに残存した甲状腺を破壊(アブレーション)しておくと、将来的に甲状腺がんの再発を減らせることが示されており、欧米では一般化しています。これまでわが国では、甲状腺がんに対するアイソトープ治療は治療のための病室に入室し治療する必要がありましたが、関連法規により患者さんの病状によってはアブレーションが外来でも行えるようになり、当院でも外来でのアブレーション治療を開始することになりました。
※アブレーションとは
甲状腺がんと診断され甲状腺を全摘することにより病巣が全て取り除くことができたと判断された場合でも、わずかに甲状腺が残っていることがあります。そのわずかに残った甲状腺組織をそのままにしておくと甲状腺がんが再発したり他の部位へ転移したりすることがあります。これを予防するために、放射性ヨウ素でわずかに残った甲状腺の処置を行うことをアブレーションといい、再発予防になるだけではなく、万一再発した場合でも発見しやすくなることが知られています。
外来アブレーションの対象となるのは、以下の条件を満たす方です。
患者さん本人に関して
- 遠隔転移のない組織型が分化型の甲状腺癌で、甲状腺を全摘している
- 自立した生活ができる
- 1年以内の妊娠、授乳を望まない
患者さんの背景および環境への配慮に関して
- 公共交通機関を使わずに帰宅することができる(公共交通機関を利用する場合は継続乗車を1時間以内にすることができる
- 小児または妊婦が同居しない
- 水洗トイレが設けられている
- 投与後3日間は家族と別の部屋で一人での就寝が可能である
- 同居している家族の理解と協力が得られる
治療自体は131Iカプセルを内服するだけで、大変簡単なものです。外来アブレーションには2つの方法(「甲状腺ホルモン休薬法」、「タイロゲン法」)がありますが、いずれの治療法も選ぶことができ、患者さんと相談して決定します。まず外来で治療について説明し、治療前検査などを行ったうえで治療を行います。