PRP(多血小板血漿)治療について
治療の概要
- PRP(多血小板血漿)療法は患者様の血液を加工し、組織の再生に関連する成分を抽出し、疾患のある部位に投与することで、“患者様自身の体がもつ修復力”を サポートし、改善に導く治療です。自分の血液を用いるため重篤な副作用なく利用できることが特徴です。
治療対象の疾患
- スポーツ関連疾患(上腕骨外側上顆炎、尺側側副靭帯損傷、膝蓋腱炎、アキレス腱炎)
組織自体が持つ再生能力を超えて、組織への繰り返しの力学的な負荷が積み重なると組織が“変性”してしまい、なかなか治りにくい環境になってしまうことがあります。PRPはこれらの痛んだ組織の細胞を刺激することにより、より正常に近い環境の組織に近づけ、機能を改善することを目的としています。
また、スポーツを行っており、捻挫や肉離れ等の症状があり、少しでも早期復帰を望む方も適応となる場合があります。
- 変形性膝関節症
変形性膝関節症は関節軟骨の老化、肥満や素因(遺伝子)、また骨折、靱帯や半月板損傷などの外傷、化膿性関節炎などを主因として発症します。例えば、加齢によるものでは、関節軟骨が年齢とともに弾力性を失い、使い過ぎによりすり減り、関節が変形していきますが、同時に分子レベルでも組織修復のバランスの破綻が生じ、疼痛やさらなる関節の変形が促進されます。PRPは主にこの分子レベルでの組織修復のバランスを整える働きを示し、疼痛低減や現状以上の変形の進行を食い止めることを目的としています。
近年の研究
PRPの血漿や血小板には組織の修復を刺激促進する成分が含まれていることが分かっており、これらを濃縮投与することによる局所的な部位の早期治癒や疼痛の低減への関連性が統計的に示されています。しかしながら、作用メカニズムについて詳細な科学的証明はなされておらず、今なお研究の対象とされています。
当院で用いるPRPの特徴
PRPといっても調整方法によって得られる成分が異なり、特性が異なるといわれています。
当院で用いるPRPはArthrex社製のACPダブルシリンジシステムにより精製される“白血球をほとんど含まないPRP“です。この白血球をほとんど含まないタイプのPRPは変形性膝関節症の治療に一般的に用いられる種類のものであり、信頼性の高い研究で変形性膝関節症に対して治療の安全性と有効性が統計的に示されています(Smith et al. 2016)、(Cerza et al. 2012)。
また、現状スポーツ外傷・障害(四肢の慢性腱、靱帯損傷)に対しても信頼性の高い研究で有効性・安全性が確認されております(Boesen et al. 2017)、(Vetrano et al. 2013)。
受診の流れ
- 本治療の適応であるかを診断するために、まず1度通常の受診をしていただきます。
- 初診の方は紹介状が必要です。
- 受診結果に基づき改めてPRP療法の予約を行っていただきます。
- PRP療法当日は説明~採血~治療まで30~60分程度で終了します。
具体的な治療方法
患者様の血液(15ml)を採取し、遠心分離処理をします。遠心分離をすると血液が成分に応じて分離するので、血小板を多く含む血漿部分層をPRPとして採取し、これを患部に注射します。
治療後の一般的な流れと注意点
- 注射後2~3日間は激しい運動をしないでください。
- 注射時には患部の痛みが強い場合があり、また注射後1週間程度腫れや痛み、熱感が持続することがあります。
- 日常生活動作は注射当日から可能です。
- 注射当日、お待ちいただく時間が発生する場合があります。
- 治療効果、効果の持続時間には個人差があります。
詳細は診察時に担当医にお問合せください。
PRP治療が受けることができない方(除外基準)
- 出血傾向のある疾患のある方
- 抗凝固薬を使用されている方
- 貧血のある方
- 重篤な感染症のある方や、感染を起こしやすい基礎疾患(がん、糖尿病、免疫不全症、膠原病、肝硬変など)をお持ちの方
- その他主治医が不適当と判断した方
費用
PRPは保険外診療(自由診療)となり、当院では以下の通りに価格を設定しております。疾患・症状により複数回の治療が望ましい場合もありますので、詳細は診察時に担当医にお問い合わせください。
- スポーツ関連疾患 : 注射1回あたり 31,900円(税込)
- 変形性膝関節症 : 注射1回あたり 49,500円(税込)
参考文献
- Adam W. Anz et al. (2019). Exercise-Mobilized Platelet-Rich Plasma: Short-Term Exercise Increases Stem Cell and Platelet Concentrations in Platelet-Rich Plasma. Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic and Related Surgery, Vol 35, No 1 (January), 2019: pp 192-200
- Wen-Li Dai et al. (2017). Efficacy of Platelet-Rich Plasma in the Treatment of Knee Osteoarthritis: A Meta-analysis of Randomized Controlled Trials. Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic and Related Surgery, Vol 33, No 3 (March), 2017: pp 659-670
- Patrick A. Smith et al.(2016). Intra-articular Autologous Conditioned Plasma Injections Provide Safe and Efficacious Treatment for Knee Osteoarthritis An FDA-Sanctioned, Randomized, Double-blind, Placebo-controlled Clinical Trial. The American Journal of Sports Medicine, Vol. 44, No. 4
- Fabio Cerza et al. (2012). Comparison between hyaluronic acid and platelet-rich plasma, intra-articular infiltration in the treatment of gonarthrosis. Am J Sports Med. 2012 Dec;40(12):2822-7
- Anders Ploug Boesen et al.(2017). Effect of High-Volume Injection, Platelet-Rich Plasma, and Sham Treatment in Chronic Midportion Achilles Tendinopathy A Randomized Double-Blinded Prospective Study. The American Journal of Sports Medicine, Vol. 45, No. 9
- Mario Vetrano et al. (2013). Platelet-Rich Plasma Versus Focused Shock Waves in the Treatment of Jumper’s Knee in Athletes. The American Journal of Sports Medicine, Vol. 41, No. 4
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整形外科スポーツ整形外科・関節鏡手術 | 整形外科スポーツ整形外科・関節鏡手術の紹介 脊椎外科 関節外科 股関節疾患 手外科 スポーツ整形外科・関節鏡手術 当科で治療を行っている主な疾患 1)膝前十字靭帯損傷 膝前十字靭帯はスポーツ活動中や転倒・事故などで受傷します。スポーツ選手とっては、選手生命を脅かす最も重大な外傷です。放置すれば、スポーツ復帰が叶わないだけでなく、二次的な半月板、軟骨損傷(変形性膝関節症)を来します。受傷前のスポーツレベルに復帰するには手術が必要です。スポーツをされない方でも、日常生活で膝崩れを自覚する場合も手術をお勧めします。手術は関節鏡を用いて行い、ハムストリング腱を用いた解剖学的二重束再建や、最近米国で注目されている、大腿四頭筋腱を用いた再建術をいち早く導入しております。術後は、4-6週で松葉杖が取れ、3-4ヶ月でジョギング、6ヶ月でジャンプ動作を行い、スポーツ完全復帰は8-10ヶ月以降で許可しております。 2) 膝半月板損傷 スポーツでの外傷や、加齢的変化による後角損傷、小児の外側円板状半月損傷が主な治療対象です。当科では可能な限り縫合を行い、半月板機能の温存に努めます。中高年の水平断裂は頻度が多いですが、変形性膝関節症や後角損傷に合併する病態では手術の対象となります。変性が強いものは骨髄血血餅を併用した縫合を行い治癒促進を図ります。半月板縫合後のリハビリは1ヶ月半の松葉杖歩行、3ヶ月以降でジョギングを開始し、6ヶ月以降にスポーツ復帰を許可しています。 3) 反復性膝蓋骨脱臼 「お皿が抜ける」といった症状は膝蓋骨と大腿骨をつなぐ靱帯が緩むことで生じます。初回脱臼後半数以上が反復性に移行するとの報告もあり、注意が必要です。当科では自家半腱様筋腱を用いた内側膝蓋大腿靱帯再建術を行っており、Q-angleが強いものには脛骨粗面移行術も併用しています。術後は、1ヶ月間の松葉杖歩行、3ヶ月以降でジョギングを始め、6ヶ月以降でスポーツ復帰を許可しています。 4) 軟骨損傷(離断性骨軟骨炎、変形性膝関節症) 離断性骨軟骨炎は膝や肘、足関節の骨軟骨の剥離骨折です。安定期や骨端線開存例では、ドリリング(骨穿孔)法で自然治癒を促進したり、骨軟骨片を再固定します。不安定病巣の場合は膝の健常な部位から骨軟骨柱を移植し、広範囲な病変には、再生医療の自家培養軟骨移植を行います。膝や足関節では3ヶ月以降にジョギング、6ヶ月以降でスポーツ復帰を許可しています。野球肘に対する骨軟骨移植の場合は、術後4ヶ月月からキャッチボールを始め、8ヶ月でマウンドからの投球を行います。また、O脚変形を来した変形性膝関節症には高位脛骨骨切り術にてX脚に矯正し内側への荷重ストレスを減らします。 5) 反復性肩関節脱臼 スポーツや転落などのけがにより発生します。多くは反復性に移行し、「肩が抜ける」感覚のためにスポーツ活動だけでなく日常生活でも制限を強いられます。当科では関節鏡での関節唇修復術(バンカート修復術)を行い、骨欠損の程度や競技種目・レベルによっては烏口突起移行術などの補強術を併用します。術後は3週間の装具固定を行い、3ヶ月以降に筋力トレーニング開始、6ヶ月でのスポーツ復帰を目標にしています。 6) 肩腱板断裂 中高年の方に多く、けがもしくは長年の酷使による摩耗により生じます。リハビリや投薬で痛みや腕が上がりにくいといった症状が取れない場合は関節鏡手術で断裂部を縫合します。術後は4-6週間の装具固定を行い、その後リハビリテーションにて可動域や筋力を改善させ、術後6ヶ月で運動制限なしを目標としています。 7) 股関節唇損傷(大腿骨寛骨臼インピンジメント) スポーツ、仕事で繰り返すしゃがみ込み動作が多いと、股関節の安定性に寄与する関節唇が損傷します。投薬やリハビリなどの保存療法を行っても痛みが取れない場合は,関節鏡を用いて関節唇の縫合と大腿骨頚部の骨隆起部切除を行います。大阪市内でこの手術を行える施設は限られています。術後は4週間装具固定を行い、3ヶ月以降ジョギング、6ヶ月以降スポーツ復帰を許可しています。 1. 手術療法 自分の組織で治す、より解剖学的、生体力学的な関節温存再建手術を目指します。 靱帯断裂に対しては、自家腱での再建術を行います。 半月板も可能な限り縫合し温存します。 軟骨損傷も軟骨移植や矯正骨切術を行い、人工関節でない、より生理的な膝を目指し、 アクティブライフを取り戻すように努めます。 術後疼痛に関しても、オピオイドカクテル療法を導入し、疼痛を最小限に抑え、早期のリハビリを可能にします。 また、最新の関節鏡カメラシステムを導入し、より低侵襲な手術が可能となり、 早期退院を目指します。 主な手術の平均入院期間 半月板手術 数日~7日 膝前十字靱帯再建 7~10日 肩関節脱臼 数日~7日 肩腱板断裂修復 14日前後 股関節唇修復 14日前後 2019年度手術件数 124例 ➤膝関節鏡 105件 関節鏡下靱帯再建術(主に前十字靭帯再建) 44件 関節鏡下靱帯半月板縫合、部分切除、円板状半月板 27件 軟骨手術(自家培養軟骨移植含む) 8件 ➤肩関節鏡 8件 関節鏡下バンカート修復術(反復性肩関節脱臼) 6例 関節鏡下腱板縫合 2例 ➤足関節鏡 5件 ➤肘関節鏡 2件 ➤股関節鏡 1件 2. 保存療法 加齢や廃用、フォーム不良をきっかけに関節拘縮(タイトネス)や筋力低下に伴う痛みの 場合には、積極的な理学療法、運動療法を指導しています。 具体的には、理学療法による圧痛点ストレッチ 下肢、体幹の筋力訓練(ジャックナイフストレッチ) 肩関節には積極的な肩甲骨ストレッチ詳しく見る
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整形外科手外科 | 整形外科手外科の紹介 脊椎外科 関節外科 股関節疾患 手外科 スポーツ整形外科・関節鏡手術 主な対象・疾患 骨折・脱臼 骨の癒合や安定性を得るだけでなく、手指・手関節の動きが重要です。そのため手術のみならず、その後のリハビリにも力を入れています。 肘の複雑な骨折に対するプレート、スクリューによる骨接合術 腱(屈筋腱、伸筋腱)損傷 腱断裂は切創による損傷だけでなく、骨棘や偽関節により腱が磨耗し、皮下で断裂が生じることがあります。これらに対し腱縫合や腱移植術を行いますが、腱の治療では手術だけでなく術後の後療法が重要となります。当科では専門の作業療法士の下、早期運動療法を行うことで腱の癒着を防止し良好な可動域の獲得を目指しています。 屈筋腱断裂に対する腱縫合術では、早期運動療法と組み合わせることで良好な可動域が獲得できます。 断裂腱の縫合が困難であったり、状態が不良である場合、他の腱を力源としてその動きを回復させることができます。 母指伸筋腱断裂に対し示指の伸筋腱を移行し母指の伸展を再建しています。 末梢神経障害 感覚や運動機能の障害を緻密に評価すると共に、神経伝導検査・筋電図など電気生理学的検査も私たち自身が行うことにより、病巣を正確に診断し、的確な治療を行うことがます。神経の修復や除圧によっても回復しない麻痺に対しては、腱移行や遊離筋肉移植などによる機能再建も行っています。 神経の障害が残ってしまう場合、残存する腱を移行させることで機能回復を行うこともできます。写真は正中神経麻痺により対立不能となった母指に対し、示指伸筋腱を移行し対立可能となっています。 関節リウマチによる手指の変形や腱断裂 変形の矯正、人工関節、腱移行・腱移植など様々な治療を行っています。 切断指や血管・神経損傷 顕微鏡を用いたマイクロサージャリー手術を行っています。 指尖部の切断においても鋭的損傷の場合再接着が可能なことがあります。 外傷後の偽関節や骨髄炎 通常の手術では治療困難なものに対してマイクロサージャリーを用いた組織移植による治療を行っています。 数十年前の骨折でのプレート固定後の難治性潰瘍 プレートを抜去し、遊離皮弁(前外側大腿皮弁)により欠損部を被覆した。 関節鏡手術 三角線維軟骨損傷やガングリオン、テニス肘に対し関節鏡を用いた低侵襲手術を行うことができます。 先天異常手(生まれつきの手の変形や異常) 小児整形外科グループと協力し、患児の将来を見据えたきめ細やかな治療を行っています。 母指形成不全に対する母指化術 その他 上肢に関わるすべての疾患について、積極的に治療を行っています。詳しく見る