大阪市立総合医療センター,Osaka City General Hospital

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呼吸器外科

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気管狭窄について

喘息と間違う気管腫瘍,気管軟化症

 喘息と言う病気の名前は皆さんも一度はお聞きになったことがあると思います.あるいは身近な方に治療を受けられている方がいるかもしれません.主な症状は,喘鳴(ぜいめい:のどのヒューヒューという高い音),息切れ,咳,痰,などです.喘息は成人で約3%が罹患する病気ですから頻度は少なくありません.本日ご紹介する二つの病気は稀な病気ですが,その多くが“喘息”として治療されているにもかかわらず改善傾向がなく,その後極めて重篤な状態で受診されます.症状も喘息に非常に似ているので通常の診察,胸部レントゲン検査では発見できないのです.それではそれぞれの病気を説明していきましょう.

気管腫瘍

ヒトが生きていくためには,体の中に酸素を取り入れる必要があります.酸素は,肺で血液中に取り込まれます.その酸素の取り入れ口となる肺と,のどの奥の咽頭(いんとう)を結ぶ空気の流通路を気道と呼びます.その中で咽頭から左右に分かれるまでの一本の管を,気管と呼びます.左右の肺へ,更に肺に向けて交わることなく繰り返し分岐する部分を気管支と呼びます.咽頭から肺までを一本の木に例えると,根っこが咽頭,幹が気管,枝分かれをしている部分が気管支,葉に相当する部位が肺と思って頂くとわかりやすいでしょう.

 

気管腫瘍とは,この気管と呼ばれる部位にできる腫瘍です.頻度は2人/10万人程度ですので稀な病気です.病因ははっきりしませんが,喫煙との関連が最も多いとされています.気管腫瘍は良性腫瘍と悪性腫瘍に分類されます.小児に発生する気管腫瘍は約90%が良性腫瘍ですが,成人の場合は逆に約90%が悪性腫瘍です.良性腫瘍はその成長のスピードこそ遅いのですが,悪性腫瘍と同じく気管内腔に突出するように大きくなります.そうして腫瘍が大きくなると症状が出現します.気管腫瘍の症状としては,腫瘍により気管が狭窄することによる喘鳴,労作時呼吸困難,咳,痰などです.また血痰が出ることもあります.通常気管は内腔(ないくう)が80%程度狭くなっても症状があまり強く出ません.多くの場合少しずつ大きくなりますので,この間に喘息として治療されていて良くならない,それに最近ちょっと症状が強くなって来た,という状態になります.一旦症状が強くなると急速に症状が悪化しほぼ窒息に近い状態になります.というのは空気の通り道である気管がほぼ詰まりかけてしまう訳ですから,呼吸で取り込んだ空気中の酸素が肺には到達しないのです.そのため病気が見つかった時は,いわゆる“Oncological Emergency(腫瘍による緊急事態)”,という生命の危機にさらされた状態になってしまいます.

 

実例を提示します.喫煙歴のある30歳代の方です.呼吸困難,血痰を主訴に前医を受診されました.約3年前から喘息として投薬加療を受けていましたが,改善傾向はありませんでした.恐らく腫瘍が気管の中で緩徐に増大していたと思われます.受診した際の胸部レントゲン上異常は指摘されませんでした.しかし血痰を認めたために胸部CTを撮影され気管内をほぼ閉塞する腫瘍が発見されました(図1).この患者さんはCT検査当日に当院に紹介となり,緊急入院され緊急手術を行いました(図2).手術は硬性気管支鏡と呼ばれる特殊な内視鏡を口から気管内に挿入し,硬性気管支鏡中に,長い電気メスなどを差し入れ,腫瘍を切除しました.この手術により窒息状態からは回復しました.その際に切除した腫瘍の組織学的検査で悪性腫瘍(腺様嚢胞癌:せんようのうほうがん)と判明しました.硬性気管支鏡による手術では,気管内腔にできた腫瘍しか取り除けないため,気管の壁に腫瘍が残ります(図3).良性腫瘍であれば,このままでも問題ないのですが,悪性腫瘍であったため気管の壁に残った腫瘍を完全に取り除くのが最善の治療となります.そこで他の臓器などに転移がないことを精査した後に初回手術の約3週間後に気管切除術を行いました.気管切除術は高度な手術技術と術後管理が非常に大変な手術の一つですが,順調に経過され合併症なく退院されました.術後5年経過していますが無再発で元気にされています.

 

何故一度に気管切除をしないかと疑問をもたれるかもしれません.理由は二つあります.まず一つは,良性腫瘍の場合は再度手術をしなくてよいこともありますので,まずは腫瘍の組織学的診断をつけることが必要になるためです.もう一つの理由は,まずは呼吸状態の改善をはかり,全身状態を良くすることが必要なためです.

 

気管腫瘍切除の手術は日本で1年間に90例ほど施行されており,手術死亡率が約4%の手術です.肺癌の手術死亡率が約0.5%ですから,如何に困難な手術であることがご理解頂けると思います.また最初の手術の際に用いた硬性気管支鏡という内視鏡を用いての手術ですが日本国内では施行できる施設は限られており,大阪市内では当センターのみが行っています.

図1

図1

図2

    図2

図3

図3

気管軟化症

気管は軟骨成分からなら気管軟骨と,筋肉成分からなる膜様部で構成されています.断面は円形ではなく馬蹄形になっており,膜様部が平らな形をしています(図4).気管軟骨が,CもしくはU字型になっているわけです.

気管軟化症とは,気管軟骨が何らかの原因でその剛性を保てなくなり,扁平となることによって内腔の形を保持できなくなる疾患です(図5).空気の通り道となる内腔が保持できなければ,先ほど述べた気管腫瘍のために詰まるのと同じく肺に空気が取り込まれないという状態になり窒息してしまいます.先天性(生まれついて起こる)と後天性(成人してから起こる)とにわけられますが,今回は後天性気管軟化症について記述します.病因は,①気管外傷後,②肺気腫,③腫瘍や大動脈などによる長時間続く圧迫,④再発性多発性軟骨症,などがあげられます.

症状としては,気道が狭くなることによって起こる喘鳴,労作時呼吸困難,咳,痰という気管腫瘍とほぼ同じようなものがあげられますが,血痰は出ません.多くの場合は喘息として治療されており,投薬によっても良くならないという状態で発見されることが多いのです.薬による治療は奏功しないことが多く,外科的な手術が必要になります.

手術法としては,①膜様部を気管の外から当て布をして補強する方法,②気管の腹側にある上行大動脈を胸骨につり上げて固定して圧迫を解除する方法,③気管内にステント(シリコン製もしくは金属製の筒)を入れる方法があります.

どの方法を選ぶかは,柔らかくなった気管の長さ,全身状態,などによって異なります.

呼吸器外科

図4

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図5

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