大阪市立総合医療センター,Osaka City General Hospital

TEL.06-6929-1221

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覚醒下開頭頭蓋内腫瘍摘出術について

覚醒下頭蓋内腫瘍摘出術

脳腫瘍の中には、脳そのものの中に発生するものがあります。このような腫瘍を摘出しようとする際には、脳に切開を加えたり、時には脳そのものを切除したりする必要が生じます。一方で、脳腫瘍の中には摘出度(どれぐらい腫瘍を摘出するか)がその後の再発しやすさに影響するものがあり、そのような場合にはできるだけ多くの腫瘍組織を摘出した方が良いということになります。
このように、腫瘍を積極的に摘出することは、脳の機能を損傷するリスクを生じることと隣り合わせの状況となるので、脳の機能を温存しながらできるだけ積極的な腫瘍摘出を行うための方法として覚醒下頭蓋内腫瘍摘出術が発達してきました。

 

この手術方法は、全身麻酔下に開頭を行い、腫瘍と周囲の脳組織が露出された後に麻酔を切って患者さんを覚醒状態とし、会話ができるような状況で、さまざまな高次脳機能検査、運動機能の評価をしながら腫瘍を摘出することにより、手術による神経症状の悪化を回避する治療方法です。当院では、覚醒下手術に習熟したチーム(脳神経外科、麻酔科、手術室看護師、言語聴覚士、理学療法士、臨床検査技師)により患者さんをしっかりとサポートします。積極的な腫瘍の摘出を行いながら、患者さんの神経症状(失語の有無、麻痺の有無)をその場で詳しく観察・評価し、同時に神経生理モニタリングでも神経機能をチェックし、良好な腫瘍の摘出を可能にしております。

 

覚醒下で手術を行っている際、患者さんの痛み、吐き気、暑さ寒さなどの負担が大きくなっていないかどうかを手術室看護師がチェックします。それぞれの患者さんに無理のない覚醒下手術を受けていただけるよう、それぞれの方にあわせた手術計画を事前に検討しています。
当施設は、安全な覚醒下手術を施行できる十分な体制を設けており、日本Awake surgery学会の認定施設となっています。

覚醒下頭蓋内腫瘍摘出術の流れ

実際の手術の流れを説明します。
左前頭葉の運動性言語野に発生した神経膠腫に対して言語機能を温存することを目的とした覚醒下手術を行う場合です。

術前

術前準備として、術前の患者さんの神経機能を言語聴覚士が評価します。失語症があるのかどうか含めて高次脳機能の検査を行います。
 
次に機能MRI(fMRI)を用いて脳の機能を画像化します。この方の場合には腫瘍の後方に言語機能が存在しているのではないかと思われました。
 
次に患者さんと手術の打ち合わせをします。手術中はどのような体勢でいるのか、実際にどのような事をして、失語症の有無を評価するのか(しりとりや、カードの物品呼称など)、痛みや吐き気を感じたときにはどのようにすればよいか、などについて、詳しく説明を聞いて頂きます。手術室看護師は、自分が好きな音楽のCDなど持ち込んでもらったり、部屋の温度はどれくらいが良さそうか、腰や背中にクッションを入れておいた方がいいかどうか、などの聞き取りをさせて頂きます。

手術当日

手術当日、手術室に入室し、麻酔がかかる前に頭部の向きや身体の姿勢について、確認をとっておきます。(図1)

 

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次に静脈麻酔を用いて麻酔がかかった状態とし、口から人工呼吸のための器具を入れて全身麻酔の状態とします。
皮膚切開部分を消毒し、十分に局所麻酔を行い覚醒時に痛みを感じないように準備します。
全身麻酔の状態で手術を開始、皮膚や頭蓋骨を展開し、病変部が露出された状態にします。

次に麻酔の薬を中止し、患者さんを覚醒状態にします。(図2)
麻酔科医師が痛みや吐き気などがないかどうかの確認をとり、患者さんの状態が安定しているかどうか評価します。

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脳外科医師が、病変部の周囲の脳に対して電気刺激を加え、失語症状などがどの部位で生じるのかを言語聴覚士が判断していきます。(図3)

この患者さんでは、腫瘍の直上およびごく近い周囲の電気刺激では言語症状が認められず、腫瘍の後方の部分で失語症が生じることが分かりました。

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この結果をうけて、腫瘍を全摘出することが可能であると判断し、患者さんの神経症状を評価しながら、最終的には腫瘍を全摘出することができました。(図4,図5)

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術後

術後、言語機能は温存されました。一過性の記憶障害を認めましたが、徐々に改善しました。患者さんは術後2週間で自宅退院され現在は職場復帰をされています。
術前後のMRIで、言語野に存在していた腫瘍が全摘出されたことが確認されました。(図6)

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この患者さんの、術後のヒアリングですが、「手術前、覚醒下手術に対する不安はありました、事前に手術の流れの説明は受けていましたが、やはり実感がわかないというか、想像ができないので心配でした。手術当日は、一回麻酔で寝た後に徐々に意識が戻ってきて、ああ手術なんだなと分かりました。痛みは思ったほど感じなかったです。たまに咳が出たり、口が渇いたりしましたが、リハビリの先生の指示もよく聞こえたので、自分なりに、指示通り手足を動かしたり会話をしたり、概ね問題なくできました。途中で一度頭がいたくなって、そのことを看護師さんに伝えました。痛み止めを注射してもらって楽になったと思います。手術そのもので、辛いことはなかったと思います。術後のリハビリもスムーズでしたのでよかったと思います。ただ仕事に戻ったときは、人の名前を思い出せなかったりということがあって、しばらく少し苦労しました。」

大阪市立総合医療センターでは...

大阪市立総合医療センターでは、覚醒下手術を安全・確実に受けて頂くため、さまざまな部門が協力し、患者さんを術前、術中、術後と一貫してしっかりとサポートする体制をとっています。(図7)
当院で治療を希望される方は、地域医療連携室から診察予約をとって頂き、担当医からの説明を受けていただけます。

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※写真はすべて患者さんの許諾を得て使用しています。

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