大阪市立総合医療センター,Osaka City General Hospital

TEL.06-6929-1221

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消化器外科

食道がん、胃がん、直腸がんの最新手術
手術支援ロボット『ダヴィンチ』

ロボット支援手術

ダヴィンチ枠あり
手術支援ロボット『ダヴィンチ』とは

 近年、消化器外科領域において、低侵襲治療が急速に広がり、創が小さな腹腔鏡手術は、一般的な手術方法となっています。そして当院に導入となった、最先端医療機器である手術支援ロボット「da Vinci Surgical System」による腹腔鏡手術、いわゆるダヴィンチ手術は、従来の腹腔鏡下手術にロボットの機能を組み合わせて発展させた進化版といえます。
 執刀する医師が患者さんに触れることなく遠隔操作で手術支援ロボット「ダヴィンチ」を操作して手術を行います(図1 配置図)。ダヴィンチシステムはペイシャントカート、サージョンコンソール、ビジョンカートの3つから構成されます。ペイシャントカートをロールインし(図2)、患者さんに接続した後に、執刀医は、サージョンコンソールに座ってカメラからの体内画像を見ながら、手足を使って遠隔操作して手術を行います(図3)

図1手術機器配置図
図2ロールイン風景
図3 サージョンコンソールから手術を行う執刀医
ロボット支援手術の特徴

 「ダヴィンチ」手術に用いられる内視鏡は2眼のハイビジョンカメラで遠近感のある立体画像が得られます。つまり3D画像で体内の臓器などが浮き上がって鮮明に視認することができます。また高解像度で鮮明、約10倍に拡大できます。外科医の手の役割をする3本のロボットアームに接続される鉗子やハサミは、人間の手以上の可動域をもち、従来の手術では不可能であった複雑な動きが可能です。手振れ防止機能が備わっており、人間の手よりずっと小さい鉗子を用いて非常に細かな作業を正確に操作ができる特徴を有します(図4)

図4 ダヴィンチの特徴
胃がんのロボット支援手術

 胃癌は、本邦で罹患(りかん)数は1位、死亡数は肺癌、大腸癌に次いで3位の癌です。遠隔転移を認めない場合や内視鏡で切除できる早期癌以外の標準治療は外科手術です。従来は開腹手術が行われていましたが、現在は、腹部に約1cm程度の穴を数か所あけて行う腹腔鏡手術が普及しています。腹腔鏡手術の利点は、手術創が小さいことによる術後の痛みの軽減、美容上の美しさ、より早い術後回復、より短い入院期間、などが挙げられます。しかし、腹腔鏡手術は、内視鏡手術用の細長い「かんし」と呼ばれる器具をポートと呼ばれる穴から挿入し、テレビモニターを見ながら手術操作を行います。ときに高度な技術が必要になることがあり、進行癌の場合などは、癌の根治性の低下や術後合併症の増加などが報告されています。そこで、近年、登場したのが、手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使用した胃癌手術です。ロボットの手は人間の手以上に関節の可動域が大きく、より繊細な動きが可能となり、腹腔鏡手術より安全で確実で合併症の少ない手術が行えるようになりました。特に従来の腹腔鏡下胃癌手術ではその操作性の悪さから膵臓へのダメージが危惧されていましたが、ロボット支援手術では多関節鉗子により膵臓への圧迫を大幅に減らした手術することが可能になります(図5)。そのおかげで術後の膵液漏(膵臓周囲のリンパ節郭清の影響で膵臓周囲から膵液が漏れること)などの合併症の頻度が少なくなります。また手術の創部も小さいことから、術後の痛みも軽減し整容性も良好です(図6)。そのメリットを生かして、胃癌に対するロボット支援手術が、海外、特に韓国では非常に普及しています。当院では、ロボット手術を多数行っている韓国の延世(よんせい)大学病院でトレーニングを受けた医師が、ロボット支援手術を行っています(図7)。2021年12月までに204人の患者さんにロボット手術を施行し、平均手術時出血量30mlと、少ない出血量で手術が可能となり、術後、平均11日間で退院されました。またロボット手術の比率も上昇し、2020年には、胃癌の87%にロボット手術を行いました(図8)。我々の施設の成績が、米国の論文に掲載されました(図9)
 当科では、今後も積極的にロボット手術を行い、多くの患者さんにその恩恵を受けて頂きたいと考えています。

図5 ダヴィンチ手術の利点
図6 ダヴィンチ手術1年後の患者さんの創部
図7 韓国延世大学
図8 胃がん手術
図9 当院のロボット支援胃癌手術成績
食道がんのロボット支援手術

 食道がんは、遠隔転移を認めない進行がんの場合や内視鏡で切除できる早期がん以外の標準治療は外科手術です。手術を行う場合、従来は開胸手術が行われていましたが、胸壁の破壊を最小限に抑えるために、胸部に約1cmの穴を4か所あけて行う胸腔鏡手術が普及しています。胸腔鏡手術の利点は、手術創が小さいことによる術後の痛みの軽減、美容上の美しさ、より早い術後回復、より短い入院期間、などが挙げられます。しかし、食道がんに対する胸腔鏡手術は、内視鏡手術用の細長い「かんし」と呼ばれる器具を肋骨と肋骨の間に留置したポートと呼ばれる穴から挿入し、テレビモニターを見ながら手術操作を行います。高度な技術が必要になることがあり、進行癌の場合などは、癌の根治性の低下や術後合併症の増加などが報告されています。そこで、近年、登場したのが、手術支援ロボット「ダヴィンチ」を使用した食道がん手術です。ロボットの手は人間の手以上に関節の可動域が大きく、より繊細な動きが可能となり、胸腔鏡手術と同じ創(図10)で、胸腔鏡手術より安全確実で合併症の少ない手術が行えるようになりました。食道がんは、声を出す際の声帯を動かす反回神経の周囲にリンパ節転移を起こしやすいことがわかっています。従来の胸腔鏡下食道がん手術では、反回神経へのダメージが危惧されていましたが、ロボット支援手術では多関節鉗子により反回神経への影響を大幅に減らした手術することが可能になります。そのため術後の反回神経麻痺(声がれ)などの合併症の頻度が少なくなる可能性があります。そのメリットを生かして、食道がんに対するロボット支援手術が、海外、特に韓国では非常に普及しています。当院では、ロボット手術を多数行っている韓国の延世(よんせい)大学病院でトレーニングを受けた医師が、2018年4月から、ロボット支援下食道がん手術を開始し、2022年8月までに54名の患者さんに手術を行い、術後経過も良好でした(図11)

図10ダヴィンチ手術後の創部
図11 ロボット支援食道癌手術の成績
直腸がんのロボット支援手術

 ロボット支援手術は、小さくあけた穴から小型カメラや治療器具を入れて手術を行うことは腹腔鏡手術と同じです。しかし、腹腔鏡手術で使用する器具と異なり、ロボットの手術器具の先端は指のように自由に曲げることができるため、術野での繊細な操作が可能となります。また、3Dカメラで立体的な体内の画像を得られ、術者は患部を拡大してみることができます。腹腔鏡手術でも3Dカメラは使用可能ですが、ロボットの場合、手ぶれがなく、カメラが非常に安定しているため、狭い骨盤内であっても術野に近接しても安定した画像が得られるという利点があります。つまり、従来の開腹や腹腔鏡手術と比べてより繊細で精密な手術が施行できるということです。繊細な手術を行うことにより根治性、肛門・排尿・性機能などの機能温存の向上が期待できます。特に直腸に密接する骨盤神経叢(排尿や性機能を担っている神経)を繊細な操作で丁寧に温存することにより、術後の排尿・性機能の保持や早期の回復が期待され、後遺症の少ない、体に優しい手術が可能となります。また、従来の腹腔鏡よりも骨盤深部での手術操作が可能になることにより、従来よりも肛門に近い腫瘍であっても肛門を温存できる可能性が高くなります。直腸がんに対するロボット支援手術件数は著明に増加し、2021年12月までに133名の患者さんにロボット手術を行い、良好な成績をおさめています(図12)

図12 術式別大腸がんの手術件数の推移

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