大阪市立総合医療センター,Osaka City General Hospital

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てんかん治療の実際

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てんかん内科治療の実際

1) 治療までの流れ:①問診・診察→②検査→③治療

 

2) 日常生活

3) てんかんに関するよくある誤解

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1) 治療までの流れ

 

①問診・診察

・てんかんとは熱を伴わない「発作」を繰り返す状態であり、神経細胞の過剰な興奮が原因とされ、子どもの時期には比較的多く認められます。詳細は「てんかんとは」をご参照ください。「てんかん発作」には、体全体に力が入り転倒するような強い発作から、数秒間ボーっとする軽い発作まで様々です。「てんかん発作」の種類によって、治療方針が決まるといっても過言ではありません。そのため、てんかん発作の症状やその時の様子が重要で、特に発作の出始めの状況(例えば、右のほうを向く、怖がる、などなど)や「前兆」は極めて重要な情報となります。

・日常診療では、てんかん発作の様子を観察者から詳しく聴取して、脳波検査を組み合わせて、どのようなてんかんかを診断(推測)してお薬を選択します。最近ではスマートフォンの普及により、発作の様子が録画されている場合があり、患者-医療者間で視覚的に共有されるようになってきました。

・また、身体診察により、てんかんの原因となる体質や病気がわかる場合があります。

②検査

・てんかんの原因を調べる検査には、CT(コンピューター断層撮影法)やMRI(核磁気共鳴画像法)などの「脳の構造」を調べる検査、脳波検査や脳核医学検査などの「脳の機能」を調べる検査、その他としては遺伝子検査があります。詳細は「検査案内」をご参照ください。

・まずは、「脳の構造」を調べる検査について説明します。およそ40年前にCTが登場し、脳の内部が観察できるようになりました。20年前からは、MRIが登場したことで、CTよりも詳細に脳の構造を評価できるようになりました。MRIも進化しており、最近では磁場の違いや撮影法を工夫すれば驚くほど鮮明な画像が得られ、数ミリ程度の微細な変化や異常を発見できるようになり、脳の血のめぐりや神経の成分を調べることもできます。

・次は、「脳の機能」を調べる検査です。脳波は、脳の神経活動を測定することができ、てんかん診療において中心になる検査です。今までは脳波を紙で記録していたため、データを解析・保存するのに大変苦労してきました(2時間の記録で「広辞苑」程度の厚さになります)。最近では、脳波計に入ってきたアナログ信号をデジタル信号に変換できるデジタル脳波計が出現し、多くのデータを自由自在に解析・保存できるようになりました。脳波記録と同時にビデオ撮影ができる装置もあり、発作の様子と脳波を繰り返し解析できることから、質の高い診療が可能となります。脳核医学検査は、人体に影響しない微量な放射性物質を使用し、脳のエネルギー代謝、脳の血のめぐり、神経伝達物質を目に見える形にする検査です。スペクト(single photon emission computed tomography:SPECT)やペット(positron emission tomography:PET)が代表的な検査で、MRIで異常が認められなくても、これらの検査で微細な異常が明らかになる場合があり、とても役に立ちます。

・最後に遺伝子検査について説明します。遺伝子とは人体の「設計図」のようなもので、てんかんに関連した「設計図」の一部が解読できるようになってきました。てんかんの原因が遺伝子レベルではっきりさせることで、治療方針(薬剤の選択)が明瞭になることがあります。現在の医療では遺伝子を修復させる治療はできず、遺伝子検査の結果によっては、「難治性てんかん」として経過することが確定することも少なくありません。しかし見通しを踏まえて、お子さんや家族の生活設計や人生を考えることができます。

・このように、小児てんかんの領域においても検査は日進月歩で進化しています。てんかん患者さん全員が様々な検査を定期的にする必要はありません。脳波検査だけの患者さんがいれば、入院にて各種検査を繰り返し行う必要がある患者さんまで様々ですので、主治医の先生に相談してください。

③治療

・てんかんの治療は、てんかん発作の様子と脳波検査などを組み合わせ、どのようなてんかんであるかを診断(推測)して、薬を選択します。てんかん発作には、命に関わるような長時間持続する発作、前兆なく突然転倒する危険な発作、発達に悪影響を与える発作などがあり、患者さんとそのご家族は常に不安で緊張した日々を過ごしておられるのではないかと思います。「副作用のない治療によるてんかん発作の完全抑制」は、患者さんとそのご家族そして治療を担当する医師にとって切実な願いです。「新規抗てんかん薬」、「食事治療(ケトン食治療)」、「外科治療」については、主に難治性てんかん(適切と考えられる抗てんかん薬2剤を十分量試みても発作が抑制されないてんかん)について記載いたします。

・2006年から毎年のように新しい抗てんかん薬(新規抗てんかん薬)が発売されました。それまでは、1つの薬が認可されるまで5-10年程度の時間を要しました。新規抗てんかん薬は従来薬に比べると、副作用が少ない、脳の作用部位がユニーク、などの特徴があり、従来薬に追加して使用する場合が多いです。今後もしばらく新薬の発売が続くようですので、薬の選択肢や組み合わせが増えていくことは、患者さんにとっては朗報だと思います。

・ケトン食療法とは、高脂肪、低炭水化物の食事療法により、てんかん発作を減少させようというものです。人間の体は、炭水化物が不足すると、脂肪を燃やしてエネルギーを得ようとし、その過程でケトンができます。飢餓状態でケトンが増加しますが、人為的にその状態を起こすわけです。「FIRST DO NO HARM(邦題:誤診)」という映画で有名になった治療です。これがてんかん発作に効くメカニズムは、よく分かっていませんが、点頭てんかんを含め幅広いてんかんが治療対象になります。絶食や水分制限をしない緩和された食事治療も行われています。

・外科手術によりてんかん発作が緩和、あるいは消失する場合があります。てんかん発作が頻発した患者さんが、外科手術により発作が消失し、日常生活の質が驚くほど改善することがあります。外科手術には、てんかんの原因となる病変を取り去る治療、てんかんの異常なネットワークを遮断する治療、発作を抑制する装置を埋め込む治療(迷走神経刺激療法)などがあります。迷走神経刺激療法は、体内にペースメーカーのような機器を埋め込んで、迷走神経という神経に定期的に刺激を与えることにより、てんかん発作の減少を狙うものです。薬では長期間内服していると効果が減弱することがよくありますが、迷走神経刺激療法はその逆で、治療期間が長いほど発作抑制率が上昇します。詳細は「てんかん外科治療の実際」をご参照ください。

・新規抗てんかん薬により強い副作用がでる、ケトン食治療や外科治療により重篤な合併症が予想される、などの理由で十分に治療が行えない場合には、「てんかんによる悪影響」と「薬の作用・副作用」の微妙なバランスを常に意識しながらの治療となります。つまり効果の期待できる薬を追加していくのも治療ですが、一方で少しでも薬を減らしていくのも治療です。こどもの「てんかん」に対して薬を使うのではなく、てんかんをもつ「こども」の治療を行うように心がけています。

 

2) 日常生活の注意事項

・てんかん発作を誘発する要因は様々ですが、睡眠不足(生活リズムの変調)、疲労、怠薬が三大要因と言われています。規則正しい生活と薬を忘れずに飲むことが大切なのは言うまでもありませんが、これらを管理するために最近ではスマートフォンのアプリなどを利用している患者さんもいます。

・てんかん発作を起こした時に危険なのは、高い場所や道路・駅のホーム、また近くに火がある場合などですが、お風呂やプールは特に注意が必要です。入浴時にてんかん発作を経験した患者さんは約10%にものぼるといわれ、浴槽での溺水と各器具での外傷の危険があります。家に一人しかいない時の入浴は避けたほうがよく、声かけや音声モニターを利用する、湯を浅めにする、風呂場の角部分を減らす、マットを敷く、などの工夫は必要でしょう。プールについては、一人での遊泳は原則として禁止ですが、介助員や監視体制があれば許可されることも多いです。実際は、泳いでいる途中など精神的に緊張した状態では発作は生じにくいですが、プールから上がった後などホッとした時に多く、安全な場所で安静にするのが望ましいでしょう。

 

3) てんかんに関するよくある誤解

・「予防接種」に関する誤解(てんかんと診断されれば予防接種ができない):発作コントロールの良好なてんかんでは、最終発作から2-3か月経過していれば現行のすべての予防接種を実施してもよいとされています。コントロールができていない場合でも、病状と体調が整っていれば、主治医判断で行うことができます。メリット・デメリットをしっかりと判断したうえで行う必要があります。

・「運転免許」についての誤解(てんかんと診断されれば運転免許が取得できない):ここ数年間、てんかんと自動車事故に関する話題が、メディアや新聞で大きく報道されました。てんかんのある人やご家族の皆さんにとりましては、運転免許取得について、ご心配のこともあろうかと推察いたします。てんかんと診断されたからといって、運転免許が取得できないわけではありません。適切なてんかん治療を受けており、病状を正しく申告し、発作の種類や頻度などに関して一定の条件がクリアできていれば問題ありません。詳細は継続的に診察している主治医に聞くのがよいでしょう。

・「遺伝」に関する誤解(てんかんは遺伝病である):この誤解は根強いですが、てんかんは原則として遺伝病ではありません。遺伝の関連するてんかんはてんかん全体のうちわずか5%程度といわれており、そのほとんどが、薬で発作を抑えることができます。遺伝を心配するよりも、どのような種類のてんかんであるのか、診断を受けることのほうが重要です。最近では遺伝学的検査が飛躍的に進歩しているため、将来はより詳細なことが分かるかもしれません。

・「治療期間」についての誤解(生涯にわたって内服治療しなければならない):てんかんの種類によって異なりますが、てんかん全体で考えると、半分以上の患者さんで適切な期間内服を続けることで、治療を終結することができます。また、内服を継続していれば、発作なく過ごせる患者さんも多くおられます。

てんかん外科治療の実際

てんかん外科治療の実際

治療戦略の観点から 「てんかん」の手術は、3段階に分けられます。

①てんかん原性領域を切除する焦点切除術
海馬扁桃体摘出・海馬多切 焦点切除 半球離断
②てんかん波の伝播を抑制する遮断手術
脳梁離断軟膜下皮質多切術(Multiple Subpial Transection: MST)
③てんかん発作の発生を緩和する手術
迷走神経刺激(Vagus Nerve Stimulation: VNS)

焦点切除術

てんかんの焦点が各種検査で同定できた場合には、てんかんの根本的な治療である焦点切除術の適応となります。特に、皮質形成異常、脳腫瘍、海馬硬化、瘢痕脳などが原因で、MRIで病変が同定できた場合には、70%を超える高い発作抑制率が期待できます。これらの原因で発作が難治である場合には積極的に手術が勧められます。一方、MRIで病変が同定できない場合には、頭蓋内電極留置による脳波モニタリングを行ってからの焦点切除術を考慮します。ただし複数回の手術が必要となることや、手術による発作抑制効果は下がるため、より慎重な判断が必要になります。

半球離断術

片側大脳半球の広い範囲にわたって、てんかんの原因となる領域が広がっている疾患に対して適応となります。具体的な疾患としては、片側巨脳症やスタージ・ウエーバー症候群、ラスムッセン脳炎、広範囲な皮質形成異常、虚血性脳血管障害後、外傷後などがあります。この手術法は、病側脳から発生するてんかん波が、健常脳へ伝わるのを防ぐ手術法です。70%を超える発作消失率が期待できる方法であり、近年では適応となる疾患ではより早期に積極的に本手術を行う流れにあります。当院では、(1)てんかんの原因がどれだけ片側脳に偏っているか (2)片側脳にどれだけ脳機能が残存しているか (3)年齢 の3つの要素を慎重に判断しながら、適応を決定し手術を行っています。

脳梁離断術

両側の大脳半球がほぼ同時に異常放電して転倒をきたすようなてんかんに対しては脳梁離断術が有効です。脳梁とは左右の脳を連絡している橋のような部分です。脳梁離断術とは、この脳梁を離断することにより、てんかん異常波が反対側の脳へ伝播するのを防ぐ手術法です。急に全身の力が抜けて倒れてしまうような脱力発作に対して最も効果的ですが、スパスム(手足や頭部に1~3秒間力が入る発作)、強直間代発作、欠神発作などの発作にも効果が見込めます。てんかんの原因部位を取り除く手術法ではないので、てんかんの根治的治療ではありませんが、特に怪我を伴うような大きな発作の頻度や程度を著明に軽減する事が期待できます。主に内科的治療が行われている点頭てんかん(ウエスト症候群)やレノックス・ガストー症候群などに対しても上述したような発作を軽減するために行うことがあります。当院では、小児では一期的に全脳梁離断を行い、年長児および成人では急性離断症状を避ける目的で二期的な脳梁離断術を行っております。

迷走神経刺激療法(Vagus Nerve Stimulation: VNS)

迷走神経は、脳と内蔵を連絡している神経です。この手術は頸部の迷走神経に刺激電極、前胸部にジェネレーターを埋め込み、迷走神経を刺激することにより、大脳皮質の抑制機能を高め、てんかん発作の程度や頻度の改善を図る緩和的な外科治療法です。日本では2010年7月に保険適用となりました。おおよそ50%の症例に対して50%程度の発作抑制効果が見込めるとされており、我々の見解もおおよそ過去の報告と一致しています。緩和療法ではありますが、年齢や発作型への適応制限はなく、従来の内科的、外科的治療の効果への上乗せ効果が期待できる手術方法です。

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